
「緊張すると頭が真っ白になる」
「本番に弱い」
「焦るとミスが増えたり、イライラしたりする」
日々タスクに追われるビジネスパーソンなら、そんな経験が一度はあるはずです。
私たちはこうした現象を、「プレッシャーに弱い性格だから」「メンタルが弱いから」などと、個人の問題で片づけてしまうことが多いかもしれません。
しかし近年、プレッシャーとパフォーマンスの関係は、単純な "緊張=ミス増加" では説明できない可能性が指摘されています。
2025年12月に報告された研究が注目したのは、「連続成功」という目標設定が、人間の生理状態や行動制御にどのような変化をもたらすか、という点でした。
本記事では、同研究の成果や筆者の経験をふまえて導き出した、「プレッシャーの活かし方」をご紹介します。
極度の緊張のなかで生まれるチャンス
まずは、「筆者がプレッシャーを強く感じた経験」を例に挙げましょう。
それは、ピラティス講師になりたての頃のことです。まだ経験が浅い筆者にとって、同僚もお客様も目上の方ばかりという状況は、ただでさえ高い緊張状態をさらに強めるものでした。
人々の前に立つだけで全身に力が入り、「プロとしてしっかりしなくては」「一度でも失敗したら『やっぱり新人だから……』と思われてしまうのではないか」と、極度に気が張っていたことを思い出します。
そして何より、毎回のレッスンがやり直しのきかない "評価の場" に感じられていたのです。
この感覚は、決して特別なものではないかもしれません。でもじつは、この――
- 「ここまではうまくいっている」
- 「この流れを止めたくない」
と感じる場面こそが、プレッシャーを活かすチャンスなのです。

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じつは最近の研究で、 "失敗できない状況" でこそパフォーマンスが向上することが示されました。以下は、東京大学大学院総合文化研究科教授の工藤和俊氏らが発表した研究成果です。*1,*2
被験者に、指先で「ある特定の力を発揮する課題」を行なってもらい、ふたつの条件で比較した結果、次のとおりになりました。
- A:「10回連続成功が目標である」と伝えた場合
→成功回数が増えるにつれて心拍数が増大し、パフォーマンスも向上した。 - B:「100回合計成功が目標である」と伝えた場合
→連続して成功しても、心拍数の増大やパフォーマンスの向上は見られなかった。
つまり同じ課題でも、目標の置き方次第で身体の反応が変わるとわかったのです。
なぜ「連続成功」という目標設定が、これほど強い覚醒を生んだのでしょうか。
なぜ "連続成功" が強い覚醒を生むのか?
この研究が示している重要なポイントは、「連続して成功している」という状況が、生理的覚醒(心拍数の増大)を生み、パフォーマンスを上げている点です。
ただし興味深いのは、生理的覚醒だけでは説明できない認知的な深化が示唆されたこと。つまり、生理的覚醒に加え、以下のような心理状態が人々を研ぎ澄ませた可能性があるのです。*2
条件の違いが生む心理的な差
連続成功条件(10回連続)では、被験者は「いま失敗するとリセットされる」「連勝を守らないといけない」という意識をもちます。失敗コストが直近の1回に集中するため、局所的なプレッシャーが高まるのです。
一方、累積成功条件(合計100回)では、「多少失敗しても取り返せる」「進捗は蓄積される」と感じられます。1回の失敗の重みが小さいため、余裕のある長期的目標モードになるのです。
つまり、連続成功を守る状況は、単なる成功数のインパクトよりも、強い心理的緊張を生むということ。
この「失敗が許されない脆さ(論文では "Fragile nature" と表現)」こそが、単なる慣れや目標への接近とは異なる、強力な覚醒の源泉であると結論づけられています。*2
仕事や勉強に置き換えると?
これは「成功している事実」ではなく、「一度の失敗で積み重ねがすべて失われるような状況」が身体の覚醒を引き起こしていると言えます。そして、そうした状況こそが、パフォーマンスを引き出すスイッチを入れるのです。
筆者自身を振り返っても、講師になりたての頃は「毎回のレッスンが評価の場」という意識のなかにいました。実際の出来・不出来は別として、毎回自然と気が引き締まり、集中せざるをえない状態だったと感じます。
つまり、研究が示しているのは「プレッシャーのもとで必ず成果が出る」という話ではありません。「連続して失敗できない状況」が生理的覚醒を高め、集中を引き出す条件になりうる――ということなのです。
では、この知見を普段の仕事にどう活かせばいいのでしょうか。

仕事で使える「小さな成功の連続」習慣
この研究成果をヒントにすると、単に作業量を積み上げるだけでなく、「連続して成功している」という目標の置き方が有効だと考えられます。
連続達成が途切れるリスクを意識する状況では、覚醒水準や行動制御のあり方が変化するはずです。
そこでおすすめなのが、大きなタスクを細かく分割し、「◯回連続で達成する」という単位で管理する方法です。
(例)
- 資料作成を「30分集中 × 3回連続で完了」
- メール処理を「10件連続でミスなく対応」
- 学習時間を「15分集中 × 5日連続で実施」
このように、作業を "連続達成の単位" で区切ることで、行動への向き合い方が変わる可能性があります。
連続目標の考え方は、もともとプレッシャーがある場面だけでなく、自主的な学習場面にも応用できるでしょう。
たとえば筆者は、ペン習字の学習において「15日連続達成」という目標を設定しました。連続して進んでいる感覚を可視化するため、毎日開く手帳の年間カレンダーページを活用しています。

赤枠内が該当する日数です。
そして、ペン習字を実践した日にラインマーカーで印をつけていきます。いわばハビットトラッカーの簡易版です。

実際に印をつけていくと、「ここで途切れたら、これまでの積み重ねが消えてしまう」という感覚が生まれました。
プレッシャーがゼロの状態でも、「連続達成」を目標にすればそれ自体がプレッシャーとなり、集中せざるをえない状態に入れたと実感しています。
ちなみに、15日連続達成した様子がこちらです。

進捗の記録に決まった方法はありません。スマートフォンのアプリやタスク管理ツール、正の字での記録など、ご自身が継続しやすいかたちをぜひ探してみてください。
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小さな成功を連続させる。
それは、適度なプレッシャーを味方につけるシンプルで現実的な方法です。
目標を分割して小さな成功を連続させる方法は、プレッシャーに弱いと感じている人の味方にもなってくれるでしょう。
よくある質問(FAQ)
Q. プレッシャーに弱い人でも「連続成功」の方法は使えますか?
A. はい、むしろプレッシャーに弱いと感じている方にこそ適した方法です。大きな目標を小さく分割し、「3回連続」「5日連続」など達成しやすい単位で設定することで、過度なプレッシャーではなく適度な緊張感を得ることができます。
Q. なぜ「合計100回」より「10回連続」のほうがパフォーマンスが上がるのですか?
A. 東京大学の研究によると、連続成功の目標では「1回の失敗でリセットされる」という脆さが心理的緊張を生み、心拍数の増大とともにパフォーマンスが向上しました。累積目標では失敗しても取り返せるため、この覚醒効果が生じにくいと考えられています。
Q. 連続目標を設定するときのコツはありますか?
A. 最初は短めの連続回数(3〜5回程度)から始め、達成できたら徐々に回数を増やしていくのがおすすめです。また、手帳やアプリなどで達成状況を「見える化」すると、連続が途切れることへの意識が高まり、集中力を引き出しやすくなります。
Q. 緊張やプレッシャーが強すぎて逆効果になることはありませんか?
A. 過度なプレッシャーは逆効果になりえます。本記事で紹介した方法のポイントは、「自分でコントロールできる範囲の小さな連続目標」を設定すること。外部から与えられる強いプレッシャーとは異なり、自主的に設計した適度な緊張感がパフォーマンス向上のカギです。
*1: 東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部|【研究成果】「連続成功」への意識づけによって 心理的覚醒を大きく誘発する新手法を開発
*2: iScience|An experimental paradigm to manipulate physiological arousal using consecutive successes
澤田みのり
大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。