「新しい商品をつくりたい」「誰も見たことのないサービスを生み出したい」
そう考えているあなた。でも、何から手をつければいいのか迷ったり、アイデアが浮かばなかったりすることも多いのではないでしょうか。
特に仕事でアイデアを考えるときはさまざまな制約に縛られ、つい顧客目線を忘れてしまいます。しかし、イノベーションを起こすためには「顧客の欲求を解決する」という視点をもつことが重要です。これを示しているのが「ジョブ理論」です。
本記事では、ジョブ理論を解説しながら、アイデアを見つけるために心がけることを紹介します。
ジョブ理論(Jobs to Be Done)とは?
「新しい商品アイデアを考えたい」
このように考えている人に知っておいてもらいたいのが「ジョブ理論」です。
ジョブ理論とは、ハーバード・ビジネス・スクールの教授を務めた、故クレイトン・クリステンセン教授らが提唱した「顧客の購買行動の背後にあるメカニズムを説明するための理論」のこと。*1
ここでいう「ジョブ」とは、「顧客が特定の状況(コンテクスト)で成し遂げたい進歩のために『片付けるべきこと』」を指します。*1
ジョブ理論では、「顧客は商品自体が欲しいのではなく、『ジョブ』を解決するために商品を購入する」と考えます。
少し難しいので、具体例を交えて見ていきましょう。
具体例 |
たとえば、「仕事で忙しく、料理をする時間がない」という状況があるとします。このときのジョブは「仕事の合間に、食事を手軽に用意したい」となります。これを解決するなら、以下のような選択肢が思い浮かぶでしょう。
- ✔︎ コンビニ弁当を買う
- ✔︎ デリバリーサービスを利用する
- ✔︎ カップラーメンを選ぶ
顧客は「仕事の合間に、食事を手軽に用意する」というジョブを解決するために、商品やサービスを購入していることがわかります。
もし在宅ワーカー向けに「とても美味しいけれど、調理に30分以上かかるミールキット」を販売したとしても、「手軽に用意する」というジョブを解決できないので、顧客に選ばれないのです。
このように文章にすれば当たり前のことに感じますが、実際に仕事でアイデアを考えると、どうしても「この技術を使いたい」「稼げるように、このビジネスモデルを使いたい」などと、つくる側の目線に偏ってしまいます。
イノベーションを起こすなら「顧客が本当に片づけたいジョブ」を発見することが重要であることを押さえておきましょう。

アイデアを考えるときのポイントとアクション
「自分もジョブ理論を活用して、新しい商品のアイデアを考えたい」
このように思ったら、まずどこから手を付けるべきでしょうか?
アイデアを考えるときに心がけることと、日常でできるアクションを紹介します。
「ニーズ」より「ジョブ」を考える
アイデアを考えるとき押さえておきたいのが、ジョブ理論における「ジョブ」と「ニーズ」の違いです。
マーケティング戦略コンサルタントの永井孝尚氏は、「ジョブ」と「ニーズ」の違いについて以下のように説明しています。
ジョブとニーズの違い
- ✔︎ ジョブ | 切実な状況から生まれる。解決方法があれば商品を購入する決定要因になる。
(例|「ひざの痛みを治したい」「荒れ放題の庭を何とかしたい」「買い物を早く済ませたい」)
- ✔︎ ニーズ | 漠然としたもの。必要に迫られていないので、解決方法があっても商品を購入するとは限らない。
(例|「何か食べたい」「健康になりたい」) *2
比較すると、ニーズよりジョブのほうが、状況(忙しい平日)、目的(午後の仕事に集中)、課題(手早く食事を済ませたい)が含まれており、より具体的で切実であることがわかります。
「顧客の欲求を探す」という視点でアイデアを探すと、先に「ニーズ」が見つかることがあります。
そのニーズをより深掘りし、「誰がどんな状況でそれを求めているのか?」を詰めていくことで、「ニーズ」を「ジョブ」に変えることができます。
たとえば「健康になりたい」というニーズを掘り下げるとしましょう。「誰が?」→ デスクワーク中心の30代会社員。「どんな状況で?」→ 毎日の残業で運動する時間がない。「何を求めている?」→ 通勤時間だけで体を動かせる方法。ここまで具体的にすれば、漠然としたニーズが「片づけるべきジョブ」に変わり、アイデアの方向性がぐっと見えてきます。
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「顧客の欲求」を見つけるためのアクション
「顧客の欲求を考えろといわれても思いつかない……」
そんなときに試してみてほしいアクションをふたつ紹介します。
・ 自分の「めんどくさい」「不便」を書き出す
自分が不便だと感じていることは、ほかの人も同じように感じている場合があります。
まずは、仕事や家事、通勤など、自分自身の小さなストレスや面倒なことをリスト化してみましょう。そこから新たな「ジョブ」が見えてくるかもしれません。
(例 | メール整理に時間がかかる、洗濯物の収納が面倒)
- 人の愚痴を聞く
「愚痴を聞くのは疲れるから嫌だ」と感じる人は多いもの。
しかし、愚痴というのは困りごとの宝庫。「この作業が面倒で……」「毎回同じことを説明するのが大変で……」といった何気ない一言の裏には、まだ誰も解決していないジョブが眠っていることがあります。
あえて飲み会に参加したり、異業種交流会で異なる業界の人の困りごとを聞いたりしてみませんか? 自分の業界では当たり前でも、別の業界では深刻な課題になっているケースは少なくありません。自分だけでは気づかない潜在的な「ジョブ」を発見できるはず。
***
アイデアが浮かばないときは「ジョブ理論」に立ち返り「ジョブ」を見つけられているか確認してみましょう。正しく顧客のジョブを見つけられれば、イノベーションを起こす商品をつくることも決して夢物語ではありません。
大切なのは「顧客がどんな状況で、どんな進歩を望んでいるのか」を丁寧に観察すること。そこから得られる小さな気づきが、やがて大きなビジネスの種になります。
FAQ(よくある質問)
Q. 「ジョブ」と「ニーズ」は何が違うのですか?
A. ニーズは「何か食べたい」のように漠然としたもので、必要に迫られていないため購入に直結するとは限りません。一方、ジョブは「忙しい平日の合間に手早く食事を済ませたい」のように、状況・目的・課題が含まれた切実なものであり、解決方法があれば購入の決定要因になります。
Q. ジョブを見つけるにはどうすればいいですか?
A. まず自分自身の「めんどくさい」「不便」を書き出してリスト化してみましょう。また、異業種交流会などで人の困りごとを聞くのも有効です。そこから「誰がどんな状況でそれを求めているのか?」を深掘りすることで、具体的なジョブが見えてきます。
Q. ジョブ理論はBtoBビジネスにも使えますか?
A. はい、使えます。BtoBでも購買の背後には「担当者が解決したい業務課題」や「上司に成果を示したい」といったジョブが存在します。法人相手であっても、意思決定をするのは「人」です。その人が置かれた状況と片づけたいジョブを理解することが、提案の精度を高めます。
Q. ジョブ理論の有名な事例はありますか?
A. 代表的なのは「ミルクシェイクの事例」です。あるファストフード店が朝にミルクシェイクが売れる理由を調べたところ、顧客は「長い車通勤の退屈しのぎに、片手で飲めて腹持ちのいいもの」というジョブを解決するために購入していました。味や価格ではなく、"状況"に着目したことで売上改善につながった好例です。
Q. ジョブ理論を学ぶのにおすすめの書籍はありますか?
A. クレイトン・クリステンセン著『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(ハーパーコリンズ・ジャパン)がおすすめです。ミルクシェイクの事例をはじめ、多くの具体例とともにジョブ理論の考え方がわかりやすく解説されています。
*1 | グロービズ経営大学院|ジョブ理論
*2 | プレジデントオンライン|「きれいなキャンパス」「教育環境」「手ごろな学費」ではダメだった…アメリカの大学で売上急上昇の意外な理由
柴田香織
大学では心理学を専攻。常に独学で新しいことの学習にチャレンジしており、現在はIllustratorや中国語を勉強中。効率的な勉強法やノート術を日々実践しており、実際に高校3年分の日本史・世界史・地理の学び直しを1年間で完了した。自分で試して検証する実践報告記事が得意。