
会議が終わった直後。いつもの先輩が「ちょっと聞いてよ、今日も部長がさ……」と始める。結局私はいつもその愚痴に、30分ほど付き合ってしまう……。
断れない自分にもイライラするけれど、なぜか私は職場の面倒な人に絡まれる存在。隣の同僚のまわりには、前向きで協力的な人ばかりが集まるのに。
「私だけ対人運が悪いのかな?」
――そんなふうに「人に恵まれていない」と感じたことはないでしょうか。
でも実際には、私たち自身が無意識のうちに、そうした人々を引き寄せています。それは神秘的な現象ではなく、科学的なアプローチから説明できるものです。
だからといって落ち込まないでください。
今回の記事では、心理学の観点から「対人運のいい人」に共通する言動を3つ紹介します。ネガティブな人間関係のストレスを避け、一緒に成長できる仲間を引き寄せる言葉の表し方を、ぜひ実践してください。
自分と似ている人を引き寄せる科学的な理由
「いつも厄介な人ばかりが寄ってくるAさん」と「周囲に恵まれているBさん」
この両者の違いは何でしょうか。
じつは、AさんもBさんも、自分の心理状態の影響によって人々を引き寄せているだけなのです。それは、自分の内面がフィルターとなり、周囲の環境から特定の情報や人を無意識に選び取っていることを意味します。
私たちは、周囲にある特定の物事に強い注意を向ける一方で、ほかの物事を無視してしまうことがあります。これは思考の偏りの一種で、「注意バイアス」と呼ばれています。*1
心理学教育の専門家で作家のKendra Cherry氏によれば、人は限られた認知リソースを有効に使うため、「何に注意を向けるか」を無意識に選び、優先づけているそうです。*1
この「注意バイアス」は、私たちの気分や置かれている状況によって生じやすくなることが指摘されています。不安が強い場合、期待がある場合などは特定の情報に目が向きやすくなり、注目する情報に偏りが生じてしまうといいます。*1
たとえば、気分が落ち込んでいるときにSNSを見ると、ポジティブな投稿よりも不満や悩みを吐き出している投稿のほうに目が行きやすいですよね。そして投稿に反応するうちに、同じような悩みを抱えている人とのつながりが増えていきます。
つまり、"対人運をあげる" ためには、一緒にいて「気分がいい」「成長の刺激になる」プラスの影響を与えてくれる人と関わることが大切です。
そして、その関わりを維持することが鍵なのです。

「対人運のいい人」に共通する言動
ではここから、心的なメカニズムに基づいて、「対人運のいい人」に共通する言動を紹介していきましょう。
言動1. 全員と仲良くしようと振る舞わない
対人運がいい人は「全員に好かれよう」とはしません。必要以上に踏み込まない "境界線" を引いて、対人関係を良好に保っています。
医学博士・産業医・公認心理師の上谷実礼氏は、心理学における他者と自分の境界について、「自分の領域を守り、他者の領域を尊重するために存在」すると伝えています。これを「バウンダリー(境界線)」と呼びます。*2
この境界は、弱くても強くても問題があります。上谷氏は次のように説明しています。*2
- 他者との境界が弱い人:周囲からの影響を必要以上に受けやすく、「社会への追随、迎合、同化なども起きやすく」なる。
- 他者との境界が頑丈すぎる人:「環境とほどよく柔軟な関わり」を築くのが難しくなる。
つまり、境界が弱いと個人の主体性を失ったような状態になり、強すぎると孤立してしまう危険性があるのです。
また、先述のとおり境界線は自分と同じく相手にも存在します。自分の領域を守りながら、相手への干渉を避けることも忘れてはなりません。*2
これまでの内容をふまえ、柔軟かつ適切なバウンダリーの築き方(◎)をご提案しましょう。NG例(✕)と見比べてみてください。
- <同僚の愚痴に巻き込まれた場合>
✕「そうなんだ―」とただ愚痴を聞き続ける
◎「どうすればいいか、いつか一緒に考えよう。いまは私も忙しいので気持ちに余裕がない。ごめんね……!」 - <思う通りに動かない部下に対して>
✕「やる気がないなら、とにかく言われた通りにやって」
◎「私はこう考えているけど、あなたはどう感じている?」
相手からの影響を避けるため、境界線を示す一方で——こちら側も相手の領域を尊重する言動を心がけてみましょう。
相手も自分も心地よいと感じる距離感を保つのが、対人運をあげる秘訣です。

言動2. 相手のいいところを素直にほめる
ほめられて、うれしくない人はあまりいませんよね。でも、上手にほめるのは意外と難しいもの。
その点――対人運のいい人は相手のいいところを見つけて、素直にほめることができます。その小さな積み重ねで、対人関係を前向きなものに変えているのです。
これは、科学的にも理にかなっています。
脳科学者の中野信子氏によると、自分をほめた相手に好感を抱くのは、人の脳が社会的な報酬(ほめる・評価する)を好むからです。つまり、「ほめる行為」はその相手に報酬を与えるようなもの。だからこそ、相手を「素直に正しく褒められる人は、他人から好かれる」と中野氏は言います。*3
ただし、ほめるとは、相手をおだてて追従するための「お世辞」を指すのではありません。実際に起こったことから取り出した内容を、素直に口に出してほめることです。
その取り出し方、いわゆる "目の向け方" にはちょっとしたコツがあります。
以下に例を示しましょう。
- 「AIさんがつくってくださったこの資料、わかりやすいですね。図や文章にムダがなく、すんなり頭に入ってきます」
→その人の努力や行動に目を向けることで、「お世辞ではない真実味」が増し、相手の自己肯定感をダイレクトに高めることができます。
- 「Bさんは場の空気を読むのが上手ですよね。おかげで話し合いがスムーズになった気がします」
→周囲や相手も自覚していない長所を拾うことで、「自分のよき理解者である」という深い信頼関係を築くきっかけになります。
事実をもとにほめれば、相手も「おだてられている」という警戒心を抱くことなく、「ちゃんと自分を見てくれていたんだ」と素直に喜び、心地よくなるでしょう。
ぜひ、相手のいいところを探し、ほめてみてください。

言動3. 未来志向で話す
対人運のいい人は、ポジティブな人間関係を築きます。
彼らは、"未来志向で話す" ため、やり取りそのものが前向きになり、「一緒に仕事をしたい人」という印象を与えるのです。未来志向のやり取りは、周囲を前向きにさせる効果があります。
その一例が、リーダーシップ開発を専門とするコンサルティング心理学者のJACKIE GNEPP氏ほかシカゴ大学などの研究グループが行なった「フィードバック」に関する研究です。*4
研究では以下のように、フィードバックが「過去のダメ出し」に終始すると逆効果になり、「未来の行動」に焦点を当てるとやる気を引き出すことが示唆されています。*4
- 否定的なフィードバックを受けた場合
受けた側は「相手の評価自体が間違っている」「相手に評価を行なう適格性がない」と考えやすい。 - 過去のパフォーマンスに対する認識のズレがある場合
その件について話し合うほどズレが大きくなってしまうことがある。 - 将来の行動に焦点を当てている場合
フィードバックの内容が「過去に何が起きたか」の分析よりも、「これから具体的にどう行動するか」に重点が置かれていると、言われたほうは改善への意欲が高まる。
つまり、「未来に向けての話」は否定的なことも受け入れやすく、前向きに行動を見直そうとする姿勢を引き出しやすいのです。
未来志向の会話をする際の具体的なコツは、「これからどうする?」と相手に判断を委ねる方法です。そうすれば相手は「指示」だと受け取りにくく、「自分で考え、選んでいい」ととらえやすくなります。
たとえば――
-
「キャリアアップのために、これからあなたは何を勉強したい?」
→相手の主体性を尊重することで、「やらされている感」が消え、自ら目標に向かって進む意欲を引き出せます。
- 「部署の今後に向けて、変えてみたい方針はありますか?」
→現状を否定するのではなく、よりよい未来を「共に創る」姿勢を示すことで、相手の帰属意識と貢献意欲が高まります。
といった具合です。
未来志向の言葉を増やすほど、お互いに成長できる関係性になるはずです。
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"対人運をあげる" とは、相手も自分も心地よい状態でいられる関係性を築くことです。特別な能力はいりません。
関わりのなかで好循環を生み出す——これが、対人運のいい人なのです。
よくある質問(FAQ)
Q. 対人運がいい人とは具体的にどんな人ですか?
Q. なぜ自分のまわりにはネガティブな人ばかり集まるのですか?
Q. バウンダリー(境界線)を引くと相手に冷たいと思われませんか?
Q. 相手をほめたいのですが、お世辞に聞こえないコツはありますか?
Q. 未来志向の会話とは具体的にどうすればいいですか?
*1:very wellmind|What Is Attentional Bias?
*2: 東洋経済 ONLINE|自分の心を守る「バウンダリー」とは何か。他者に踏み込み過ぎない、踏み込ませ過ぎないためのテクニックを知る
*3: リンネル.jp|「運のいい人」が、人付き合いでやっているたった一つのこと。脳科学者の中野信子さんに聞く
*4: PLOS One|The future of feedback: Motivating performance improvement through future-focused feedback
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。