
「組織改革」という言葉は、しばしば壮大な制度設計やトップダウンの号令と結びつけて語られます。しかし現実には、どれほど精緻な戦略を描いても、人の行動様式と日常の慣性は容易には書き換わりません。変化とは、どこから立ち上がっていくのでしょうか。『チームプレーの天才』(ダイヤモンド社)の著者であり共創型組織づくりを提唱する沢渡あまねさんは、その起点は「半径5メートルの風景」に宿ると指摘します。制度ではなく文化を動かす、共創型チームの思考法と実践知に迫りました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
【プロフィール】
沢渡あまね(さわたり・あまね)
1975年生まれ、神奈川県出身。作家・企業顧問/組織開発&ワークスタイル専門家。あまねキャリア株式会社 代表取締役/一般社団法人ダム際ワーキング協会代表、『組織変革Lab』『あいしずHR』『越境学習の聖地・浜松』主宰。磐田市“学び×共創”アンバサダー。大手企業 人事部門・開発部門、食品製造業ほか顧問。労働法大改正戦略コンソーシアム総合顧問、プロティアン・キャリア協会アンバサダー、DX白書2023有識者委員。日産自動車、NTT データなど(情報システム・広報・ネットワークソリューション事業部門などを経験)を経て現職。500以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。主な著書に『新時代を生き抜く越境思考』(技術評論社)、『EXジャーニー』(技術評論社)、『組織の体質を現場から変える100の方法』(ダイヤモンド社)、『「推される部署」になろう』(インプレス)、『バリューサイクル・マネジメント』(技術評論社)がある。趣味はダムめぐり。#ダム際ワーキング 推進者。
チーム改革に立ちはだかる「4つの壁」
多くの職場で「チームをよくしよう」「組織を変えよう」と多様な取り組みが行われています。しかし、最初は盛り上がってもいつの間にか立ち消えになってしまうといったことも少なくありません。その要因は、主に以下のようなものです。

成果を出せるチームはなにがちがうのか
では、逆にうまく機能しているチームはなにが違うのでしょうか? 先に挙げた要因を払拭することの他の要素を挙げるなら、以下の3つの共通点が見られます。
まず特徴的なのは、「①意外な変化や成果も言語化して称賛する(楽しむ)」姿勢です。たとえ計画通りにいかなかったとしても、「でも、これって意外とよかったよね」と変化を価値として受け取ります。
想定外を失敗ではなく「発見」として扱えるチームでは、挑戦への心理的ハードルが下がります。結果として、試行回数が増え、新しいアイデアも生まれやすくなるでしょう。意外性を歓迎する空気こそが、イノベーションの土壌になるのです。
続いては、「②個の体験をチームや組織のナレッジに変える」ことです。スーパープレーヤーの活躍に依存するのではなく、「なぜうまくいったのか」を言語化し、ナレッジとして共有します。そうすることで属人化を防ぎ、メンバーの誰もが再現可能な仕組みにしているわけです。
最後は、「③必ず事業成果を出す」ことです。どれだけチームの雰囲気がよくても、成果が出なければ単なる仲良しクラブで終わってしまいます。楽しいだけの活動は、トップが変わった瞬間に「意味がない」と切り捨てられてしまうでしょう。利益を追求することこそが組織の目的である以上、そこは絶対に無視してはいけません。

誰もができる「半径5メートル」の小さなアクション
しかしながら、若い読者のみなさんなら、「自分の立場では組織なんて変えられない」と感じる人もいるでしょう。そういう人には、ぜひ「半径5メートルから変える」という意識を持ってほしいと思います。大きな制度改革ではなく、まずは自分の手が届く範囲から景色を変えてみるのです。
たとえば、会議の進め方を少し変えてみる、いつもと違う人にファシリテーションを任せてみる、会議室ではなくコワーキングスペースで話してみる。人間は意外に単純な生き物で、座り方を車座にするだけでも意見の出方は驚くほど変わります。環境の変化は、関係性の変化につながるからです。
こうした小さな工夫で「意外といいね」という成功体験が生まれると、自然と次の挑戦をしたくなります。なぜなら、「変えられた」という実感が、自己効力感を高めるからです。共創の第一歩は、じつはとてもささやかなところから始まるのです。
もうひとつ大切なのが、組織内における日常的なポジティブフィードバックです。たとえば、あなたの商談のための資料を、バックオフィスのスタッフが作ってくれたとします。その資料がとてもよく、商談がうまくいった。そのとき、そのスタッフにこんなひとことをかけてみてはいかがでしょう。
「あなたの資料のおかげで商談がスムーズに進みました、ありがとうございます」
このような具体的な感謝のひとことが、相手の貢献実感とモチベーションを高め、チームの空気も変わります。
もちろん、組織は急には変わりません。しかし、小さな変化の積み重ねは、確実に新たなカルチャーをつくります。半径5メートルの行動変化が、やがてチーム全体を変えていく——。その一歩を、まず自分から踏み出してみませんか。

【沢渡あまねさん ほかのインタビュー記事はこちら】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。