
いつも成果を出している先輩は、公園を散歩したり、窓の景色を見ながら会社の廊下を歩いたり、デスクでご飯を食べたり、昼休憩はいつもひとり。頭の回転が速い同僚もちょっと行動が似ているかも……。
——「優秀な人ほど、ひとりでいることが多い気がする。なぜ?」
みなさんの職場でも同じ光景を目にしたことはないでしょうか。ひとりでいる人を見ると、「人づきあいが苦手なのかな」「寂しくないのかな?」と気になってしまうかもしれません。
でも、彼らが「ひとりの時間」を大切にするのには理由があります。
本記事では「頭のいい人がひとりの時間を確保する理由」を、脳科学や心理学の研究をもとに3つご紹介します。
- 理由1. 頭のいい人が「ひとりの時間」で思考のノイズを減らしている理由
- 理由2. 「ボーッとする時間」がアイデア創出と問題解決力を高める
- 理由3. 「自分で考え行動したい」という自主性の高さ
- よくある質問(FAQ)
理由1. 頭のいい人が「ひとりの時間」で思考のノイズを減らしている理由
現代のビジネスパーソンは、いつでも身近に情報があふれています。頭のなかにもたくさん詰め込まれているのではないでしょうか。
だからこそ頭のいい人は、「脳を休ませる」ための静かな時間を大切にしているのです。
たとえば――
"静かな環境で心を整える実践" として知られるプログラムの研究結果を見てみましょう。
ハーバード・メディカル・スクールを含む研究グループは、8週間の「マインドフルネスストレス低減法(MBSR)」に参加した人を対象に、脳の変化を調べました。
その結果、左海馬をはじめ、学習・記憶や感情調整、自己認識に関わる複数の脳領域で灰白質濃度の増加が確認されたといいます。*1
「灰白質濃度の増加が確認された」とは、端的に言うと脳の一部が構造的に発達・活性化したことを示唆しています。
また――
私たちは日常的に、意図せず多くの情報刺激にさらされています。そうした刺激が一時的に遮断されるだけでも、脳にいい影響を与えることができるかもしれません。
定期的に、各感覚の刺激を和らげてみてはいかがでしょう。以下はそのアイデアです。
- <聴覚のノイズを減らす>
BGMを止める
静かな場所に移動する - <視覚のノイズを減らす>
照明を落とす
目を閉じて休む - <嗅覚のノイズを減らす>
香りが強いものを避ける
こまめに換気を行なう - <触覚のノイズを減らす>
体を締めつけない服を選ぶ
常に触れているデバイスを手放す - <味覚のノイズを減らす>
間食を控えて何も口に入れない時間をつくる
味を楽しめないほどに食事バランスを優先しない
この情報過多な時代に感覚を休ませることは、脳を休ませることにもつながります。そしてそれは、あなたの知性を守ることにもつながるはずです。

理由2. 「ボーッとする時間」がアイデア創出と問題解決力を高める
頭のいい人がひとりの時間を確保するのは、ボーッとして心をさまよわせるためでもあります。
じつはこの「心がさまよう」状態が、アイデアの創出や柔軟な思考と関連していることが研究で示されているのです。
ジョージア工科大学やニューメキシコ大学など、アメリカの複数機関による研究では、日常的に "心がさまよいやすい" 傾向と、流動性知能や創造性との間に正の相関が見られました。
その背景には、デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)と前頭頭頂制御ネットワーク(FPCN)の結合の強さがあると示唆されています。*3
流動性知能とは、「新しい問題に対して、これまでの知識に頼らず、その場で考えて解決する力」のこと。
注意したいのは、この研究はあくまで「心がさまよいやすい特性」と知能・創造性の相関を示したものであり、「意図的にボーッとすればすぐに賢くなる」という意味ではないということです。
ただし、ひとりの静かな時間は心がさまよいやすい環境を自然とつくり出します。先の見えない時代において、柔軟に状況に合わせて判断する力と創造力はますます重要になっています。
ぜひ、1日のうちに「ボーッと心をさまよわせる時間」をつくってみてください。いままで出なかった新しいアイデアや、難しい問題の解決策が思い浮かぶかもしれません。

理由3. 「自分で考え行動したい」という自主性の高さ
頭のいい人が単独行動をする傾向にあるのは、人が苦手なわけでも、嫌いなわけでもありません。
他者から指示される前に、自分のやるべきことを理解し、率先して判断・行動したいから——つまり自主性が高いからだと考えられます。
オーストラリア・ディーキン大学の大規模な研究(15,552名対象)では、認知能力(知能)と価値観の関連を調べました。
その結果、一般知能が高い人ほど、
- 自己決定(self-direction:自分で考えて行動したい)
- 慈悲心(benevolence:身近な人への思いやり)
- 普遍主義(universalism:広く他者や社会への配慮)
といった価値観を強くもつ傾向があったのです。*4
自主性が高いと、自分の価値観や計画に基づいて行動したいという欲求が強まります。
他者と合わせることで生じる妥協や調整のストレスを避けるため、結果としてひとりで行動するほうが合理的だと判断する場面が増えるのかもしれません。
もちろん、この研究は「知能と価値観の相関」を示したものであり、「頭がいい人は必ずひとりを好む」と言い切れるわけではありません。
ただし注目すべきは、研究が示すバランスのよさです。自主性だけでなく、慈悲心や普遍主義——つまり他者への思いやりに関する価値観も同時に高い傾向がありました。
つまり、頭のいい人がひとりを選ぶのは、孤独が好きなわけではなく「ひとりの時間」が多くの価値を生むと理解しているからこそ。他者との交流も大切にしつつ、意図的に「ひとりの時間」を確保しているのです。
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一見すると孤独に見えるその姿は、知性を高めるための、ひとつの選択かもしれません。
日々の仕事ぶりに憧れている先輩や同僚がそのタイプなら、あなたも今日から「ひとりの時間」を確保してみてはいかがでしょう。
よくある質問(FAQ)
Q. 頭のいい人がひとりでいるのは、人間関係が苦手だからですか?
A. いいえ、そうとは限りません。研究では、高い知能をもつ人ほど自主性と他者への思いやりの両方を強くもつ傾向があることが示されています。ひとりの時間を選ぶのは、脳を休ませたり、創造的な思考を促進したりするための意図的な行動です。
Q. ボーッとする時間をつくると、仕事のパフォーマンスが下がりませんか?
A. むしろ逆の可能性があります。心がさまよう状態では、脳のデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)が活性化し、アイデアの創出や問題解決に必要な柔軟な思考が促されることが研究で示唆されています。意図的に「何もしない時間」をつくることが、結果的にパフォーマンス向上につながるかもしれません。
Q. 忙しくて「ひとりの時間」を確保できません。短時間でも効果はありますか?
A. 効果は期待できます。たとえば、BGMを止める、目を閉じて数分間休む、スマートフォンを手放すなど、感覚のノイズを一時的に減らすだけでも脳を休ませることにつながります。まずは昼休憩の数分間から始めてみてはいかがでしょうか。
Q. マインドフルネスと「ボーッとすること」は違うのですか?
A. 異なるものです。マインドフルネスは「今この瞬間」に意識を集中させる実践で、脳の灰白質濃度の増加などが確認されています。一方、ボーッとすることは心を自由にさまよわせる状態で、創造性や流動性知能との関連が示唆されています。どちらも脳にとって有益ですが、目的やメカニズムが異なります。
*1: PMC|Mindfulness practice leads to increases in regional brain gray matter density
*2: PMC|Is silence golden? Effects of auditory stimuli and their absence on adult hippocampal neurogenesis
*3: ScienceDirect|Functional connectivity within and between intrinsic brain networks correlates with trait mind wandering
*4: Sage Journals|Cognitive Ability and Personal Values: A Large Sample Study of Schwartz's Values, HEXACO Personality, Age, and Gender
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。