はじめに
ストックマークHR高橋です。今回は、私たちプロダクトエンジニア組織が取り組んだ、採用ブランディングプロジェクトについてお話ししたいと思います。これは単なる採用強化策ではなく、「私たちはどんな組織でありたいか」をガチ議論し、言語化するプロセスでした。
アウトプットはもちろん、みんなで議論するプロセスに価値があり、多くの発見がありました。納得いく結論を導くために想像以上に時間と労力をかけました。改めて振り返ってみると、5ヶ月という想像以上の期間をかけていました。(議論にトコトン付き合ってくれたエンジニアメンバーには本当に感謝です!)
採用ブランディングプロジェクトは以下のように進行していきました

なぜ今、私たちがこのテーマに取り組んだのか。どのように取り組み、その過程でどのような発見があり、どんな「ありたい姿」にたどり着いたのか、プロジェクトの裏側をお見せします。エンジニア採用に関わる人たちに少しでもヒントになればと思います。
読んでいただきたい方
- 自社の採用ブランディングを強化していきたい人事、経営者
- エンジニア採用に向き合っており、アトラクトに課題を感じている人事
- エンジニア組織のマネジメントを試行錯誤しているVPoE、エンジニアリングマネージャー
なぜ採用ブランディングプロジェクトを発足することに至ったのか
まず前提として、当時のストックマークの技術広報の状況をお伝えさせてください。
- 採用活動をしていく中で、Webエンジニア界隈ではストックマークの認知がほぼないことがわかり、1年ほど前の2024年からPR活動に力を入れていくことにした
- 同年2024年に技術広報のAndoさんを迎え、CTO×VPoE/エンジニアリーダー×技術広報×HRで技術広報を本格始動
- その後、カンファレンスの出展やテックブログでの発信、Xでの発信を強化
- しかし発信する内容の整理やメッセージング、どこにどう発信するのか戦略が固まっておらず、その場その場で関係者で話し合いながら進めるORメンバーが自主的に発信したいことを発信することに留まっていた。
技術広報に取り組もうというモチベーションはあるものの、明確な方針がなく、他社の取り組みを参考にしながらとにかく挑戦したり、自主的に発信していただけるメンバーに頼っていた期間でした。しかし中期で目指す姿の共通認識が取れておらず、戦略的に尖った発信もできていなかったため、結果として明確な採用市場における認知も形成できていませんでした。
そこで技術広報について議論していく中で、CTOから「我々も3年後のエンジニア組織における理想状態を言語化し、中期の技術広報のゴールを定めた方が良いのでは」という発言があり、採用ブランディングプロジェクトを発足することになりました。
採用ブランディング言語化の5Step
「ストックマークにおける3年後のエンジニア組織における理想状態を言語化する」という大きなテーマを掲げ、エンジニアメンバー×HRで議論をしながら進めて参りました。具体的には以下の5つのStepで議論を進めていました。
議論するメンバーは、VPoE、HRに加え、各エンジニアチームのリーダー陣や技術広報など10名ほどの多様なメンバーで構成しています。主要な議論は10名ほどで進めつつ、タイミングで全メンバーも巻き込んで議論することもありました。
議論していくと多様な視点によってアイデアが発散され、議論が発展しました。多面的に組織について向き合って考えることができたのは良い機会だったと思います。また余談ですが、「そもそもこんな10名ほどのメンバーが参加し、真剣に議論してくれる会社って素敵だなー」と思っていました。
Step1 過去の成功パターン(メンバーの入社理由)を言語化する
まずは過去2年に入社したエンジニアメンバーの応募理由や入社理由をアンケートで集めることにしました。受注理由を分析し、再現性高く営業すると売上が上がるのと同じく、これまで採用成功してきたパターンを言語化することで、強化するべきメッセージングが見えてくると考え、強力をいただきました。参考となるフレームワークが欲しかったので、4Pの魅力分析を基にアンケート項目を設計し、成功パターンを分析して参りました。
参考:https://www.hear.co.jp/recruit/4p
特に以下のポイントをヒアリングしていました
- ストックマークの応募理由
- ストックマークの入社理由
- 入社後感じたストックマークのギャップ(良い所も悪い所も)
実際に入社したメンバーの生の声を聞くことで、これまでどういう魅力が候補者に刺さってきたのかが見えてきました。ただ一方で、全然伝わっていない魅力もたくさんあるなという印象もありました。
Step2 採用したいエンジニアペルソナと想定されるキャリアの悩みを洗い出す
続けて今後の事業戦略やプロダクト戦略、開発組織戦略を基に、今後採用していきたいエンジニアペルソナを以下の4パターンで整理しました。ストックマークは自社LLMを開発し、AI SaaSを提供する会社のため、LLMやRAG、MLや検索に強いエンジニアが必要となっております。またストックマークのエンジニア組織で求めている人物像として、プロダクトエンジニアとして事業志向やプロダクト志向のある方を採用してきたいため、以下の4つの観点で考えました。網羅性を求めすぎると議論が発散しすぎてしまうため、まずは採用ブランディング観点で強めていきたいキャラクターは何かという所に絞って考えました。
- LLM RAG ML 検索系に強いエンジニア
- 事業志向/プロダクト志向が強いハイクラスエンジニア
- PdMなど目指している事業観点ある若手のポテンシャルエンジニア
- 技術の幅広げたい、ML挑戦したい若手ポテンシャルエンジニア
みんなでディスカッションをしていく中で、求めているエンジニアに応じて抱える悩みやキャリアで求めることが変わるため、複数の観点でPRしていくことが必要だと気づきを得ました。

キャリア悩み例 一部抜粋
- 実際の事業の社会貢献性・意義が見いだせるかどうか
- 自身の専門性を活かせる開発、プロダクト、戦略がありそうか
- 企画含めてフルサイクルに開発の幅を広げられる環境か
- エンジニアの理解があるのPMがいるか
Step3 採用したいエンジニアに対して訴求できる弊社のアトラクトポイントを整理する
先ほど洗い出した4パターンのペルソナに対して、自社が訴求できるアトラクトポイントを洗い出していきました。自社が採用していきたい人物像に対して、課題を解決できる組織的な強みやプロダクトの面白さを整理してみました。

みんなで考えるとアイデアが集まり、以下のようなアトラクトポイントが出てきました
- 業務効率化や明確なわかりやすい課題がない、価値創造型のプロダクトである
- Biz側の商談がフルオープンなど情報透明性が高く、オープンなカルチャー
- 学会に論文を出すようなAIリサーチャーが在籍しており、AI やLLMなどの専門的な知識に関する議論や質問・業務の連携ができる
- スキトラ文化が作れており、フルスタックに育成される環境
- 研究日や社内勉強会などインプットできる環境がある
みんなでブレインストーミングをすることで、自社の魅力が少しずつ言語化されていきました。「ここを魅力だと感じているのか」「この観点もあったな!」と気付きと発見が多く、この時点でもカジュアル面談や面接に使えるネタがたくさん集まりました。
Step4 技術広報としてPRしていきたい内容を4象限で整理する
技術広報においては、企業の発信状況によって、以下の4パターンが存在すると考えました。現在ある魅力をPRするのはもちろん大事ですが、今後PRしていきたいことを足していく、組織を進化させてPRできそうな魅力を創出していくことも大事だと思ったため、以下の4つのポイントを導き出しました。
- 【PRを強化する】既にある伝わっている魅力で、今後もPRしたい魅力
- 【PR開始する】既にある伝わっていない魅力で、PRしたい
- 【魅力を創出する】現在ない今後作っていきたい魅力で、今後PRしていきたい
- 【PRとして捨てる】現在ない魅力で、今後もPRしない

この議論を通じて「フルリモートで全国から働けることをもっとアピールしたいよね」「AIを作ってる・使ってなんかやってる企業としての知名度がまだ足りないからもっとPRしたいよね」「エンジニアもディスカバリーに手を挙げられる環境あるから、ブログにしたいよね」といったテックブログネタのようなアイデアも出てきており、ワクワクしてきました。議論するプロセスを通して「うちら意外とイケてるじゃん」という前向きなマインドも作られていったので、プロセス自体にも意味があったと思います!
Step5 3年後のエンジニア組織における理想状態を言語化する
最終Stepですが、ここが最も生みの苦しみがあり、議論を繰り返し、固めていきました。納得いく結論を出すには観点、切り出し方、表現、文言の一つひとつまで拘っていったので、煮詰めていく所は妥協せず、時間をかけて取り組みました。
一度仮ぎめしたものをメンバー全員ともすり合わせする会を設け、いただいたメンバーからの意見を基に再度ブラッシュアップするなども行っていきました。

作っては再構成を繰り返し、みんなで納得するアウトプットが出るまで考え続けました。
最終アウトプット
一連のディスカッションを通じて、最終的に整理したアウトプットがこちらです!こちらもせっかくなので共有できればと思います。
1. 顧客を進化: 顧客課題に深く潜り込み、テクノロジーで解決する
我々のプロダクトは単なる業務効率化に留まらない、顧客の価値創造のためのプロダクトなので、顧客課題を深く理解しながら開発しながら、顧客解像度を高めていくことが重要である。その上で、顧客課題の解決という目的に向かって、自分の役割を制限せず、たとえばDiscoveryプロセスにも積極的に関わったり、ビジネス側とも交渉したりしながら、テクノロジーで顧客価値を届ける開発者とのしての責任を果たす。
直近でも、AIエージェントの開発が急務になっているが、LLMのモデルそのものはコモディティ化しつつある中で、どのデータをどういう切り口、どういうタイミングで顧客に届けると価値が最大化されるのかが差別化要因になるうると考えられる。したがって、エンジニアの立場でも何をどうやって届けるかという目的を念頭に、それに向かってシステムを構築する責任を持つ。
2. 組織を進化: 能動的に課題を発見し、周囲を巻き込んで解決する
開発組織やその中でのプロセスについて、非効率になっていたり隙間に落ちている問題があったりするところがあれば、能動的に発見し自ら解決に向けて動くようにする。解決するにあたっては、個人で閉じるのではなく周囲の関係者にも積極的にコミュニケーションを図り、よりスケールする解決策を取れるようにする。そこで得られたナレッジは社内外に共有、発信することで、より大きな改善のフィードバックループがまわる状態にしていく。
最近は、開発プロセスそのものもAIに侵食されていき、かつ、日々ベストプラクティスも変動しているので、積極的なノウハウの共有が必要になっており推進していくようにする。プロダクト開発自体もチャレンジングな内容が増えていくので、スピード感は保ちつつ、エージェントの量産に向けてスケーラブルな開発体制を構築していく。
3. 自分を進化: 事業成長に繋がる技術を見定めて、自己を拡張し続ける
AI領域はもちろんのこと、SaaSそのものの開発や業務効率化、開発環境改善、プロダクトマネジメントなど、多様なテーマに挑戦できる環境であることを活かして、自身の得意領域を深めつつ、必要とあれば隣接領域にも積極的に取り組んでいく。自分の趣味や興味の範囲だけに留まらず、事業やプロダクトの成長を見越して取り組むことで、エンジニアのケイパビリティがボトルネックにならず、むしろ、先回りして対応できる状態を目指す。
これからの機能開発においても、プロンプトエンジニアリングを駆使したAIエージェントの構築などの生成AI活用はもちろんのこと、従来の開発領域でもよりパフォーマンスやセキュリティが求められることも想定されるので、そのために先んじて技術を研鑽する。 さらに、必要に応じてプロダクトマネジメントやビジネスの領域にも染み出した上で、「技術」をコアに課題解決できるようになっていく。
今後は上記アウトプットを発信の軸やブログのネタ、メッセージングに活用していきたいと考えています、この組織を実現するために、組織開発にも取り組んでいきたいと考えています。
進化に込められた想い
当初は「顧客課題に深く潜り込み、テクノロジーで解決する」といった文章表現を用いていました。しかしCTO有馬の「シンプルな言葉でなければ浸透しないのでは?」というコメントを受け、より端的に表現できるワードを検討しました。
どういった言葉であれば伝えたいことを削ぎ落とさずにキャッチーにできるのか、じっくり考え、議論をしていきました。ある議論の中で、チームリーダー築谷さんから「『進化』という表現でまとめるのはどうか」と提案をいただき、進化をキーワードに3つの言葉を整理していくと全員にしっくりきて、最終的に採用することになりました。
ストックマークのミッションは「価値創造の仕組みを再発明し、人類を前進させる」です。事業を通じてお客様の業務を変革することは、すなわちお客様を進化させること。そのために私たち自身も進化していく――この思想を3つのありたい姿に込め、「進化」というキーワードを共通言語としました。
キャッチフレーズを見出してからは覚えやすく、組織の方向性もさらに腹落ちしやすくなりました。めちゃくちゃ気に入ってます。
3つのステートメントは、3年後目指すエンジニア組織なのか、採用ブランディングなのか、コアバリューなのか
まず、なぜエンジニア組織のありたい姿としてまとめたのか、背景について補足させてください。
元々のプロジェクトのゴールは「3年後のエンジニア組織における理想状態を言語化する」でした。しかし大分方向性が固まってきたある日、技術広報のAndoさんから「確かに我々はまだできていないことも多い。ただ3年後目指す姿ではなく、今すぐにでも目指したい姿ではないか」という発言があり、「3年後に拘らなくても良いのでは」と考えるようになりました。
そうなると、我々がずっと考えてきたものは、何と表現すると適切なのかという問に立ち返るようになり、また議論が始まることになりました。プロジェクトの終盤ではありましたが、だからこそ締めくくりは最後まで拘って納得する結論を出したいと思い、ここにも時間をかけました。
最初は「採用ブランディングではないか」という話が挙がりました。確かに今回のプロジェクト名としては、エンジニア採用ブランディングプロジェクトでしたが、採用ブランディングは3つのステートメントだけでは成り立ちません。ブランドを定め、一貫したメッセージを発信し続けることで最終的に候補者の中で築かれていくものが採用ブランディングです。そのため採用ブランディングに活用はしていきたいが、採用ブランディングそのものではないという解釈になりました。
またエンジニア組織の理想状態について、ずっと議論していたのでアウトプットの形としてはエンジニアのコアバリュー・クレドのようなものではないかと考えました。しかし「コアバリューを決めよう!」と走り始めたプロジェクトではなため、適切ではないと思いました。
結論としては、エンジニア組織のありたい姿としました。我々はずっとエンジニア組織としての理想状態をイメージしながら言語化を進めてきました。その議論を思い返すと、技術広報のAndoさんより「図で表すとこうですよね」と神的な図を制作いただき、一気に認識が揃えられました。

その中で「これはやはり採用ブランディングそのものやクレドではない。定めたものはまだできていない姿ではあるが、我々がありたい姿そのものだよね」と考えるようになり、この3つのステートメントとナラティブはエンジニア組織としてのありたい姿であると決めました。
また3つのステートメントだけでは伝えたいニュアンスが伝わりきらないと思い、ナラティブとセットで定めることにしました。
3つのステートメントは今後はどう活用していくのか
しっかりステートメントとして固めることができたので、今後は採用や組織開発、技術広報の指針にしていきたいと考えています。まだ具体的な施策までは固めきれていませんが、次のような活用方法を想定しています。
組織運営において
- 組織目標・個人目標の設計時に、立ち戻る基準とする
- 制度の企画・設計における思想のベースとする
- 組織施策やカルチャー醸成の方針策定時に参照する
採用活動において
- カジュアル面談:候補者に対して「ありたい姿」を伝える材料として活用する
- 採用ペルソナ設計:「この姿に共感してくれる人を採用したい」という基準にする
- 採用ピッチ資料:エンジニア向け採用資料に掲載し、組織の理想像として提示する
- テックイベント・勉強会:開催テーマの設計やコンテンツの切り口に活用する
- テックブログ等の発信:ありたい姿に沿った取り組みがあれば積極的に発信する
Take Away 振り返りや発見
ここまで読み進めてくださり、ありがとうございます。私達が取り組んできて良かったことは、「未来の組織を真剣に徹底的に議論するプロセスを歩めた」ことが一番の収穫だったかなと思います。もちろん最終アウトプットも大事ですし、今後も維持していくつもりではありますが、話すプロセスを通して自分たちの組織の強みを再認識し、自信にもなりました。それぞれの会社にはそれぞれの歴史があり、強みがあると思いますので、エンジニアの採用をしている方は、ぜひ実践してみることをオススメします!ご相談があればいつでもご連絡ください!
とはいえ、これからがスタートです。せっかくしっかり固める経験ができたので、次は採用や組織開発、技術広報に実践していった時の成果を報告できるように引き続き頑張っていきます!