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懲戒事由にあたらない事実が、多数、懲戒処分の理由として組み込まれているとどうなるか

1.多数の懲戒事由

 懲戒処分の効力を争うと、使用者側から懲戒事由として大量の事実を主張されることがあります。その根底には、たくさんの事実を挙げておけば、多少、事実にぐらつきが生じたとしても、懲戒処分の効力は維持されるはずだという発想があるのではないかと思います。

 しかし、懲戒事由に該当するのかさえ怪しい事情がたくさん含まれているケースでは多少の問題があったとしても、雪崩を打ったように懲戒処分の効力が否定されることがあります。考えてみれば当たり前のことで、インプットに問題がありすぎれば、アウトプットにも問題があるに決まっています。

 昨日ご紹介した東京地判令7.8.26労働判例ジャーナル167-38 PKUTECH事件の判示は、こうした視点で捉えることもできます。

2.PKUTECH事件

 本件で被告になったのは、コンピューターソフトウェアの企画、開発、販売等を目的とする株式会社です。

 原告になったのは、被告との間で期間の定めのない雇用契約を締結して働いていた方です。賃金を月額43万円から月額38万7000円に減額されたり(本件賃金改定)、出勤処分を受けたり、配転拒否を理由とする懲戒解雇を受けたりした後、各措置の効力を争い、賃金の支払等を請求する訴えを提起したのが本件です。

 本件で注目したいのは、出勤停止処分の効力についての判断です。

 裁判所は、次のとおり述べて、出勤停止処分は無効だと判示しました。

(裁判所の判断)

「前記認定によれば、原告は、客先において、離席が多い、居眠りをする、スマートフォンを頻繁に操作する、始業時間に遅れて出社する、出社後に朝食をとりながら作業をするといった行為をし、これらについて客先からクレームを受けた(前記1(3)イ)というのであり、これにより、被告の信用は害されたということができるから、原告のこれらの行為は、就業規則52条1項、53条(1)、(2)、(13)、60条1項、62条1項に反し、72条(1)、(2)、(5)懲戒事由に当たる。

しかしながら、被告は、上記の他に、本件出勤停止処分の理由として、〔1〕不眠症や金銭的な余裕がないことを理由に出張できないと申し出たこと、〔2〕業務に対する理解が浅く、適切な作業ができないため、他の従業員が作業のやり直しをしていたこと、〔3〕完成条件を満たしていないものを完成品と報告したことを挙げている(前記1(4)イ)が、〔1〕については、被告自身、原告の申し出を認めてD支社の案件に関する業務を在宅で行うことを認めていた(前記(1)ア)のであり、これを懲戒事由とみることはできないし、〔2〕及び〔3〕についても、原告の業務の状況が芳しくなかったとはいえるものの、そのことから直ちに懲戒事由に当たるということはできない。しかも、被告は、〔1〕から〔3〕までの事情を踏まえて、原告に対し賃金の減額を提案し、本件賃金改定を行っている(前記1(2))のであり、既に〔1〕から〔3〕までの事情を理由に原告に対して一定の不利益を課しているということができる。その他、出勤停止処分は、被告において、諭旨解雇の次に重い懲戒処分とされており、出勤停止期間中、賃金は支給されない(前提事実(1)ウ、別紙『就業規則の定め(抜粋)』の5)など、不利益の程度が大きい処分であって、その相当性は慎重に判断すべきであると解されること、本件出勤停止処分は、就業規則上の上限である1か月間の出勤を停止するものであり、出勤停止処分の中でも最も重い処分であることも考慮すると、前記のとおり原告において懲戒事由に当たる事情が認められるとしても、本件出勤停止処分は、原告の非違行為の内容、程度に比して重過ぎる処分といえ、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとは認められないから、懲戒権が濫用されたものとして無効というべきである。

「したがって、令和5年4月分の賃金の支払を求める原告の請求は理由があるが、前記2のとおり、原告の賃金は本件賃金改定により月額38万7000円と改定されているから、原告の上記請求は38万7000円の支払を求める限度で理由がある。」

3.たくさん挙げられている場合、むしろ争いやすいこともある

 懲戒事由は懲戒処分を行うにあたっての判断の基礎事情を構成します。

 比喩的に言うと、10の行為を懲戒事由として構成したのに、懲戒事由が5の行為分しか認められなければ、判断の前提が大きく狂ってきます。その基盤は5の行為を懲戒事由として構成して5の行為が認定された場合よりも遥かに脆弱になります。

 「多ければ多いほど良い」といった感覚で大量の事由を主張されると辟易とすることも多いのですが、ただ辟易とするだけで脅威と思うことはあまりありません。判断の基盤をぐらつかせ易くなることが多いからです。特に、出勤停止などのように、処分が上限に達していない場合には、猶更、そのように言える傾向があります。

 たくさんの懲戒事由を突き付けられると怯んでしまう方も多いのですが、懲戒処分の効力を争うにあたっては量よりも質を分析することが大切です。

 




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