1.解雇回避措置としての休職命令
私傷病休職制度がある場合に、休職制度を利用することなく行われた解雇の効力をどのように理解すべきかという論点があります。
佐々木宗啓ほか『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』〔青林書院、改訂版、令3〕470-471頁は、
「病休職制度がある場合に同制度を利用することなく解雇したその一事をもって、当該解雇が無効とはならないであろう」
としつつも、
「治ゆの見込みがないことが明らかなケースはともかく、使用者が、労働者に休職制度を適用すれば治ゆする見込みがないとはいえないのに、これを適用せずに労働者を解雇した場合には、解雇権の濫用として無効とされる可能性が高い」
と記述しています。
そのため、休職を要する健康状態にある労働者が休職を経ない即時解雇を阻止するにあたっては、使用者側の「休職命令を発令しようにもできなかったんだ」という主張が成り立たないような環境形成をして行くことが必要になります。そうした観点からは、勤務先が主治医と接触したいと言ってきた時に、これを拒絶することは良手とはいえません。近時公刊された判例集にも、主治医への事情確認に協力しなかったことが、休職を経ない解雇を有効とする根拠とされた裁判例が掲載されていました。大阪地判令7.9.26労働判例ジャーナル165-14 パナソニックインフォメーションシステムズ事件です。
2.パナソニックインフォメーションシステムズ事件
本件は9つの事件が併合されている複雑な事件です。
その中の一つに、普通解雇の無効を理由とする地位確認等を求める事件がありました。地位確認請求との関係で被告になっているのは、情報処理サービス等を業とする株式会社です(被告会社)。原告になったのは、被告の開発設計ソリューション事業部に所属し、技術系IT開発業務に従事していた方です。
本件の原告は、
「平成30年8月2日、被告らのパワハラにより精神障害を発症した。原告の精神障害は業務上生じたものであり、そのような原告に対してされた本件解雇は無効である。」
「仮に精神障害が業務によるものと認められないとしても、被告会社は原告の精神障害に配慮すべきであり、それにもかかわらず、休職命令を発令するなど治療に専念できるようにする配慮をしなかった以上、本件解雇は合理的な理由を欠き無効というべきである。」
と述べ、解雇の効力を争いました。
しかし、裁判所は、次のとおり述べ、休職命令を経ない解雇も有効だと判示しました。
(裁判所の判断)
「原告は、平成31年1月以降、上司や人事総務部長からの指示・命令事項を拒否し続け、令和2年12月21日の本件在宅勤務取消後も正当な理由なく欠勤を続けて本件出勤停止処分を受けた・・・ところ、その後も出社を求める要請を拒み続け・・・、診断書〔1〕及び診断書〔2〕を提出した後も、その記載の趣旨の確認のための医師に対する事情確認への協力を求められても協力する姿勢を見せず、かえって、被告会社からの業務連絡等を拒絶する状況にあった・・・。」
「そうすると、原告は、被告会社との間で業務のための必要最低限の意思疎通も図れない状況に至っていたといわざるを得ず、就業規則62条4号(業務能力または勤務成績が著しく不良のとき)及び9号(その他、従業員としての適格性に欠けるなど、前各号に準ずるやむを得ない事由があったとき)に該当するといえ、本件解雇には客観的合理的理由があるといえるし、正当な理由なく欠勤した期間や連絡拒絶の態様に照らすと、本件解雇が社会通念上相当性を欠くものとは認められない。」
「原告は、自身が精神障害を発症しており、これは業務上生じたものであるから本件解雇は許されないとか、被告会社は原告の体調不良を認識していたのに休職命令を発するなどの配慮をしなかったから本件解雇は合理的な理由を欠くなどと主張する。しかし、後記4のとおり、被告らによるパワハラがあったとは認められないところ、少なくとも、原告が業務上の疾病により休業すべき状態にあったと認めることはできないし、原告が提出した診断書〔1〕及び診断書〔2〕の内容は、文面上、被告会社が就業規則で定める休職の要件(乙12・57条〔1〕1項:業務外の傷病により半月以上欠勤するも、なお引続き1ヶ月以上休業を要すると認められるとき)を満たすものとは直ちには認められないところ、原告が主治医への事情確認に協力する姿勢を示さず、被告会社において休職の要件を満たすことの確認ができなかった経緯・・・を踏まえると、被告会社が休職を命じなかったからといって、本件解雇が合理的理由を欠くとか、相当性を欠くということはできない。」
「よって、本件解雇は有効と認められる。」
3.解雇回避のためには不信感は飲み込んだ方がいいこともある
休職を要する場面では、使用者と労働者との間で緊張が高まっていることがあります。また、疾患がメンタルに関係する場合には、合理的な判断をし辛くなっていることもあります。そうした背景もあり、使用者に対して医療情報のようなセンシティブな情報へのアクセスを認めることに抵抗感を持つ方は少なくありません。
しかし、本件のような判断がされることもあるため、解雇を避けるという局面においては、医療情報の提供には応じておいた方が無難です。