1.雇用継続の可否の判断と改善可能性(反省)
問題行動を理由とする普通解雇や懲戒解雇の可否を判断するにあたり、しばしば「改善可能性」という概念が登場します。「事前の注意・指導による改善の可能性が残されている以上、解雇をするのは行き過ぎではないのか?」といったような脈絡の中で用いられます。
この「改善可能性」の有無を判断するにあたり、行為者に反省の気持ちがあるのかに言及する裁判例は少なくありません。
確かに、同じような間違いを何度も犯されることを使用者としても許容できないことは分からないではありません。その意味で、本人に改める意思(反省)があるのかば、ある程度重要な考慮要素になることは否定できません。
しかし、使用者の中には、大した問題行動に及んでいないにもかかわらず、本人に反省の意思がないのだから雇用継続することはできないといったように、労働者の内心を解雇事由のインパクトのなさを補完するものとして活用しようとする動きを示すものがあります。厄介なのは、この「反省の気持ち」がしばしば解雇の法的効力を争おうとする手続態度と結び付けられることです。自分達が主張する事実を認めないのは反省をしていない証拠だ、自分達の法的主張を争うのは反省をしていない証拠だといったようにです。こうした論法に従うと、法的措置をとっているケースは全て反省がないことになります。
ただ、こうした怪しげな論理展開に労働者の側が押し負けてしまうのかというと、そういうわけでもありません。近時公刊された判例集にも「反省の弁を述べたことがうかがわれない」としつつ、懲戒解雇は重すぎるとして、労働者の地位確認請求を認めた裁判例が掲載されていました。東京地判令7.6.25労働判例ジャーナル165-32 学校法人新宿学園事件です。
2.学校法人新宿学園事件
本件で被告になったのは、C専門学校を設置する学校法人です。
原告になったのは、被告で経理主任として働いていた方です。被告から懲戒解雇されたことを受け、その効力を争い、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。
本件で解雇事由とされたのは、次の各行為であったとされています。
「原告は、令和5年9月27日、B理事長から、既に校長を解任されていたH(以下『H前校長』という。なお、解任の効力は別の訴訟において争われている。)に渡った校長職宛ての郵便物を取り戻して現在の校長に渡すこと及び当該郵便物の送り主が誰であるかなどを報告することを命じられたのに、これらの業務命令に従わなかった(以下『本件懲戒事由〔1〕』という。)。」
「原告は、令和6年2月10日、業務時間中に業務外の書面(以下『本件書面』という。なお、本件書面が業務外のものであるかは争いがある。)を作成した(以下『本件懲戒事由〔2〕』という。)。」
「原告は、令和6年2月10日、被告職員室において、F課長から本件書面を取り返そうとしてF課長を引き倒し、その際に被告の理事長補佐であるJ(以下『J理事長補佐』という。)の右手を引っかいた(以下『本件懲戒事由〔3〕』という。)。」
これに対し、裁判所は、次のとおり述べて、懲戒解雇の効力を否定しました。
(裁判所の判断)
・本件懲戒事由〔1〕について
「前記認定のとおり、B理事長は、面談において、原告に対し、原告がH前校長に送付した郵便物について、同席していた被告訴訟代理人が『取り戻してください』『業務命令をしてください』と発言したことに続けて、『業務命令、はい』『業務命令だから』『行ったやつは、誰から来たかだけでも教えてね』と述べたものである・・・。このB理事長の発言は、直前の被告訴訟代理人の発言と相まって、原告に対して、原告がH前校長に送付した郵便物を取戻して現在の校長に渡すことを命ずるとともに、当該郵便物を取り戻すことができない場合は送り主が誰であるかを報告することを命ずる業務命令であると認められる。」
「そして、前記認定のとおり、原告は、これらの業務命令を受けた後、H前校長に対し、郵便物の返還を求めることも、送り主を確認してB理事長に報告することもしなかったものである・・・。この原告の行為は、業務命令違反であり、就業規則21条1号に反する行為として懲戒事由に当たるといえる。」
「もっとも、原告がH前校長に送付した郵便物の数量や内容は明らかでなく、原告が業務命令に違反したために当該郵便物の送り主が誰であるかが特定されないことによって、被告の事業に具体的な支障が生じたとはうかがわれない。」
「これに対して、被告は、被告に届く郵便物はダイレクトメールを除いて全て重要な書面であり、また、少なくともH前校長の解任を知らない当該郵便物の送り主に校長の交代を伝えることは重要な連絡であって、送り主が誰であるかが分からないこと自体が被告の業務上の混乱であると主張する。」
「しかし、郵便物の内容によっては事業に支障が生ずる程度が小さいものもあり得る上、校長の交代を関係者に広く周知することもできるから、当該郵便物の送り主が誰であるかが分からないことで直ちに被告の事業に混乱が生ずるとはいえない。したがって、被告の前記主張は、採用することができない。」
・本件懲戒事由〔2〕について
「前記認定のとおり、原告は、令和6年2月10日、K宛ての本件書面を作成したものであり、本件書面には『K』『レターパック』『裁判』という文言が記載されていたことが認められる・・・。もっとも、それ以外の本件書面の記載内容は明らかでなく、本件書面が業務外の書面であると認めるに足りる証拠はない。」
「したがって、原告が業務時間中に業務外の書面を作成したとは認められない。」
「これに対して、被告は、『K』『レターパック』『裁判』という文言があることから原告の業務に関連するものでないことは明らかであり、また、原告は本件書面が業務外の書面であるために本件書面を隠匿しようとして暴力をもって本件書面を取り返そうとしたなどと主張する。」
「しかし、他方で、原告は、原告がその業務に関連して卒業生評議員であったKに連絡をする際に被告が当事者である裁判に言及した旨を主張しており、そのような事実関係であったとしても不合理とはいえない。そうすると、前記の文言があることから本件書面が業務外の書面であることが明らかであるとはいえない。また、原告は、J理事長補佐らが本件書面の内容を確認している間、離れた位置に立って本件書面の返却を待つなどしており・・・、原告が本件書面を隠匿しようとしたとは認められない。したがって、被告の前記主張は、採用することができない。」
・本件懲戒事由〔3〕について
「前記認定のとおり、原告は、N課長の背後からN課長の右腕を掴んで引き寄せ、本件書面を取り返そうとし、その際に、N課長は、バランスを崩して尻餅をついたものである・・・。なお、本件証拠によっても、原告がJ理事長補佐の右手を引っかいたとは認められない。)。この原告の行為は、有形力を行使して本件書面を取り返そうとするものであって、風紀・秩序を乱すものであり、就業規則21条8号に反する行為として懲戒事由に当たるといえる。」
「この点について、被告は、この原告の行為は犯罪に準ずる行為であり就業規則45条6号の懲戒事由(前各号に準ずる行為があった場合)に当たると主張するが、前記・・・のとおり、同条各号は犯罪行為を直ちに懲戒事由とするものではなく、原告の行為が同条各号に準ずる行為であるとはいえない。」
「もっとも、原告はN課長に危害を加える意図で有形力を行使したものではなく、また、前記認定の行為態様に加えて、N課長がすぐに立ち上がっていること・・・をみても、有形力の程度は強度のものではないといえる。」
・本件懲戒解雇の相当性について
「以上のとおり、原告について懲戒事由があると認められるが、各行為の態様等をみると、原告の業務命令違反によって被告の事業に具体的な支障が生じたとはうかがわれず、原告が本件書面を取り返そうとして行使した有形力の程度は強度のものではないといえる。そうすると、原告が、令和4年6月以降の業務命令違反等を懲戒事由として、同年11月に戒告の懲戒処分を受け、同年12月に降格の懲戒処分を受け、令和5年2月に懲戒解雇(後に出勤停止に変更)の懲戒処分を受けていたこと・・・、原告が懲戒事由となる各行為について反省の弁を述べたことがうかがわれないこと(弁論の全趣旨。なお、原告が郵便物の内容や有形力の行使の態様・経過について嘘を重ねているとまでは認められない。)を考慮しても、原告の各行為に対する懲戒処分として懲戒解雇は重すぎるといえる。」
・本件懲戒解雇の有効性
「以上のことからすれば,本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当でないから、無効である。」
3.やっていることとの兼ね合いが基本となる
本件の被告も、
「原告の前記各行為は、被告との信頼関係を根本的に破壊し、通常の業務を阻害し、就業環境を悪化させ周囲を恐怖させるものであり、教育機関としての秩序を激しく損壊するものである。そして、原告が令和4年6月以降のわずか1年間に多数の非違行為を繰り返してきたこと、原告が前記各行為について反省することなく嘘を重ねていること、被告の職員らが原告の復職を恐れていることを踏まえると、本件懲戒解雇は懲戒処分として相当である。」
といったように、原告の手続態度と反省、懲戒解雇の相当性とを結びつける議論を展開していたようです。
しかし、裁判所は反省の弁を述べていないことを考慮しても、懲戒解雇は行き過ぎだと判示しました。結局、裁判所も、懲戒解雇の可否は、やったこととの釣り合いを軸に判断しており、表面的な主張、供述がどのようであるのかは(余程の場合を除き)、あまり重視していないように思います。
使用者に法的措置を取る時、相手方から、あるいは、裁判所から反省していないと捉えられるのではないかと気にする方は少なくありません。しかし、法的措置をとるにあたっては、自分の認識を語ることに躊躇する必要はないように思います。