以下の内容はhttps://sskdlawyer.hatenablog.com/entry/2025/12/16/003812より取得しました。


休職期間の終期に関する問い合わせを受けた使用者には、雇用契約に付随する義務として、その終期を教示すべき義務があるとされた例

1.休職制度

 休職とは「ある従業員について労務に従事することが不能又は不適当な事由が生じた場合に、使用者がその従業員に対して労働契約関係そのものは維持させながら、労務への従事を免除すること又は禁止すること」をいいます(佐々木宗啓ほか『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』〔青林書院、改訂版、令3〕468頁参照)。

 休職事由には様々なものがありますが、比較的普及している仕組みとして私傷病休職があります。私傷病休職制度は、一定期間内に治癒すれば復職し、治癒しなければ自然退職(あるいは解雇)となるという形で設計されているのが一般です。

 私傷病休職に入った労働者にとって、終期が何時なのかは重大な関心事となります。それまでに治癒すれば労働契約上の地位を維持できるのに対し、治癒していなければ労働契約上の地位を喪失してしまうからです。

 通常、休職の始期は使用者から通知されますし、休職期間の満期は就業規則を参照することで確認できます。

 しかし、適切な労務管理が行われていない会社の場合、私傷病休職の時期がはっきりとしないことがあります。大体、休職には欠勤が先行するからです。有給休暇が使われていれば有給の欠勤と無給の休職との間の境目は明確に把握できますが、単なる欠勤が続いてそのまま休職に入るようなケースだと、どこまでの欠勤が単なる欠勤でどこからの欠勤が休職になるのかが分かりづらい場合があります。

 このように終期が明確ではない場合には、労働者から使用者に対して問い合わせて確認をすることが考えられます。

 それでは、このような問い合わせが行われた場合、使用者には休職期間の終期を回答すべき義務があるのでしょうか?

 この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。大阪地判令7.9.18労働判例ジャーナル165-20 B WORLD PATENT&TRADEMARK事件です。

2.B WORLD PATENT&TRADEMARK事件

 本件で被告になったのは、知的財産権に関する秘書業務システム及び管理業務システムの研究、開発、知的財産権及びその権利化に関する企画、相談、助言等を目的とする株式会社です。

 原告になったのは、正社員として被告で働いていた方です。

 精神疾患を発症して休職していたところ、休職期間満了を理由として退職扱いとされたため、その効力を争って地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。

 原告の方は、うつ病との診断⇒欠勤⇒育児休暇⇒休職(本件休職)という形で休職に入っており、休職期間の満了日が何時なのかを明確には把握していませんでした。そのため、原告の方は、複数回に渡り被告に対して休職期間の満了日を問い合わせていました。しかし、被告は休職期間の満了日を教示することなく退職扱いとしました。

 これに対し、原告の方は、

「被告は、原告に対し、いつ休職を発令したかを全く連絡しなかったことから、原告は、本件休職の終期を把握できなかった。そのため、原告は、被告に対し、本件休職の期間を繰り返し尋ねたが、被告は本件休職の期間がいつ満了するかを一切原告に教えなかった。被告の言い分(令和5年12月8日付け『質問状』・・・)によれば、『「親切」は、誰にでも一律に与えられるのではなく、「親切」を受けるのに相応しい人達だけが、その程度に応じて享受できる』ことが『「世の習い」であり、「社会通念」であり、亦、「条理」』とのことであり、要するに、被告は、休職をしていた原告は『親切』を与えるにふさわしくなかったため、休職期間を教示しないという態度を取ったのであり、被告は、使用者として精神疾患を患った原告の職場復帰に協力しようという姿勢を全く見せなかった。」

「また、原告は、被告に対し、リワークプログラムを円滑に進めるため、同プログラムを実施するD病院との連携(具体的には、休職に至ったきっかけ等に関する情報提供)を行うよう幾度も求めたが、ことごとくこれを断り、D病院との連携を一切行わなかった。」

「このような経緯からすれば、就業規則の規定を適用し、本件契約を休職期間の満了により終了させることは、信義則違反等に当たり許されない。」

と主張しました。

 これに対し、裁判所は、次のとおり述べて、自然退職の効力を否定しました。

(裁判所の判断)

被告の就業規則上の休職に関する定め・・・は、本件契約の内容を構成するものであるうえ(労働契約法7条),休職中の労働者にとって、休職期間の終期は、リワークプログラムを含む治療計画の期間や内容、これらを踏まえた復職の可否等を検討するにあたり極めて重要な情報である。また、復職までの猶予が一旦与えられた以上、休職期間が終了するまでは退職にならないという労働者の期待は法的に保護されるべきである。

以上からすれば、休職期間の終期に関する問い合わせを受けた使用者は、休職中の労働者に対し、雇用契約に付随する義務として、その終期を教示すべき義務を負うというべきである。

「ところが、本件では、

〔1〕被告から原告に対する明示的な休職命令は発令されておらず、休職期間の始期も説明されていなかったこと・・・に加え、原告は令和3年8月30日から12月31日まで育児休業を取得していたこと・・・からすれば、休職中の原告にとって、休職命令の発令時期やこれを前提とする休職期間の終期を把握することは困難であったこと(認定事実・・・のとおり、被告も、組合に対し、休職期間について就業規則には定められていない特別の取扱いを行ったと説明しており、本件訴訟に提出した2024年10月17日付け被告第1準備書面・・・においても同旨の主張をしている。)、

〔2〕このような状況を踏まえ、原告は、令和4年10月以降、被告に対し、休職期間の終期を再三にわたって問い合わせたが、被告は全く回答しなかったこと・・・、

〔3〕原告は、休職期間の終期に関する照会と並行して、被告に対し、リワークプログラムを実施するD病院との連携を求めたが、被告はこれにも応答せず、連携を事実上拒絶したこと(前同)、

〔4〕原告は、休職届とともに令和5年3月10日付け診断書を提出し、休職を続けていたところ、同月24日付け通知により、休職期間が既に満了した事実を初めて知らされたこと・・・、以上の事情が認められる。」

「上記・・・によれば、被告が、休職期間の終期を教示すべき義務を怠ったことは明白であり、ひいては、同義務に違反したことにより、原告の復職の機会を不当に制限し、あるいは事実上失わせたというべきである。そうすると、本件において、被告が、休職期間の終期までに復職可能である旨の診断書の提出がなかったこと等を理由に、原告を退職扱いとすることは、信義則違反あるいは権利の濫用として許されないというべきである。

以上によれば、争点(2)(本件休職期間満了時点で休職事由が消滅したか。括弧内筆者)について判断するまでもなく、いずれにせよ原告の地位確認請求には理由がある。

3.退職扱いが無効になる類型(信義則違反/権利濫用)

 休職期間満了による自然退職の効力が争われる事案では、治癒が認められるのか否かをめぐって争われるのが通例です。しかし、本件では、信義則違反/権利濫用により、休職事由が消滅したかとは無関係に退職扱いが無効となると判示しました。

 退職扱いが無効となる類型に一例を加えるものとして、裁判所の判断は、実務上参考になります。

 




以上の内容はhttps://sskdlawyer.hatenablog.com/entry/2025/12/16/003812より取得しました。
このページはhttp://font.textar.tv/のウェブフォントを使用してます

不具合報告/要望等はこちらへお願いします。
モバイルやる夫Viewer Ver0.14