1.1年単位の変形労働時間制
1年単位の変形労働時間制を適用するにあたっては、「対象期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間」を特定しておく必要があります(労働基準法32条の4第1項4号参照)。労働日を特定するというのは、裏を返すと、休日を特定しておかなければならないということです。
この休日の特定は割と厳格で、休日の振替にも一定の制約が課せられています。具体的に言うと、平6.5.31基発第330号、平9.3.28基発210号、平11.3.31基発168号は、
問.休日の振替を行うことがあっても、一年単位の変形労働時間制を採用することができるか
答.一年単位の変形労働時間制は、使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更することがないことを前提とした制度であるので、通常の業務の繁閑等を理由として休日振替が通常行われるような場合は、一年単位の変形労働時間制を採用できない
などと規定しています。
しかし、1年単位の変形労働時間制のもとにおいても、休日勤務命令、時間外勤務命令は可能ですし、休日振替も制限が課せられているだけで禁止されているわけではありません。
それでは、休日に多数勤務していることが確認される1年単位の変形労働時間制の効力は、どのように理解されるのでしょうか?
昨日ご紹介した東京地判令7.6.27労働判例ジャーナル164-18 ヤマダ工業事件は、この問題を考えるうえでも参考になる判断を示しています。
2.ヤマダ工業事件
本件で被告になったのは、鉄骨構造物の加工及び施工等を業とする株式会社です。
原告になったのは、被告との間で雇用契約を締結し、正社員として鉄骨の加工や取付業務等を行っていた方です。退職後、被告に対して、残業代等を請求する訴えを提起したのが本件です。
本件の争点は多岐に渡りますが、その中の一つに、1年単位変形労働時間制の効力がありました。本件の原告は、
「原告は、1年単位の変形労働時間制に関する労使協定に添付されたカレンダーにおいて指定休日とされた日に多数出勤しており、労使協定の内容は遵守されていない。1年単位の変形労働時間制は所定要件を満たしておらず、無効である。」
と主張しました。
原告の主張を受け、裁判所は、次のとおり述べて、1年単位変形労働時間制の効力を否定しました。
(裁判所の判断)
「1年単位の変形労働時間制を実施するためには、労使協定を書面で作成し、これを締結する必要があり、この労使協定において、〔1〕対象労働者の範囲、〔2〕対象期間、〔3〕特定期間、〔4〕労働日及び労働日ごとの労働時間の特定、〔5〕労使協定の有効期間について定めておかなければならないが(労基法32条の4)、労働者への影響が大きいことから、いったん特定された労働日を対象期間の途中で変更することは許されないと解される。」
「本件においては、前記認定事実・・・のとおり、従業員代表との間で1年単位の変形労働時間制に関する労使協定の締結自体はされているものの、原告は、かかる労使協定によって労働日とされていない法定休日や所定休日に多数勤務している実態があり、労基法32条の4が求める労働日等の特定の要件が満たされているとはいえない。」
「そうすると、被告における1年単位の変形労働時間制は無効といわざるを得ず、原告に1年単位の変形労働時間制を適用することはできない。」
3.1年単位変形労働時間制の無効事由-休日に多数勤務している
以上のとおり、裁判所は、休日に多数勤務している実態があることを指摘したうえ、1年単位変形労働時間制の効力を否定しました。
1年単位の変形労働時間制のもと一定数の休日労働があることは、意識していなければ、単なる時間外労働の問題として片付けてしまいがちです。
しかし、ある程度多数になってくると、1年単位の変形労働時間制の効力そのものを否定する材料になります。
「多数」がどの程度かという問題はありますが、1年単位変形労働時間制の無効事由に係る裁判例として、本件は実務上参考になります。