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パワハラで部下を自殺させた公務員に対し、5000万円以上の求償義務が課された例

1.パワハラをした公務員の個人責任

 民間の場合、ハラスメントの被害者(被害者が自殺してしまった場合は遺族)は、会社を訴えるとともに、加害者個人を訴えることもできます。

 これに対し、公務員の場合、ハラスメントの被害者が加害者個人を訴えることは、基本的に認められていません。国家賠償法という法律の解釈についての最高裁判例で、公務員個人の責任を問うことはできないと理解されているからです(最三小判昭30.4.19民集9-5-534、最二小判昭53.10.20民集32-7-1367等参照)。

 しかし、これは公務員個人が責任を問われないことを意味するわけではありません。国家賠償法1条は、第1項で、

「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる」と、

第2項で、

前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する

と規定しています。

 被害者に損害賠償を支払った国や公共団体は、この国家賠償法1条2項に基づいて、故意や重過失のある公務員に対し、個人責任を問うて行くことができます。

 ただ、「故意又は重大な過失」という法文から分かるとおり、軽過失があるにすぎない場合にまで、公務員個人が責任を負うことはありません。公務員の職務行為に故意や重過失があることは稀であり、国家賠償法1条2項に基づいて国が公務員に訴訟を提起する例はそれほど多いわけではありません。

 しかし、近時公刊された判例集に、遺族に多額の損害賠償金を支払った地方公共団体(一部事務組合)が、パワハラの加害者に対して求償権を行使した裁判例が掲載されていました。熊本地判令7.7.17労働判例ジャーナル164-14 上益城消防組合事件です。

2.上益城消防組合事件

 本件で原告になったのは、消防に関する事務を共同処理するため地方自治法によって設置された一部事務組合です。

 被告になったのは、原告消防本部予防指導課の課長であった方です。

 被告の部下Dは、被告によるパワハラを苦に自殺を図ることなどを内容とする遺書等を残し、実際に自殺しました。Dの遺族は原告に損害賠償請求訴訟を提起し、原告は損害賠償金とその遅延利息として、1億0931万6583円を支払いました。

 その後、原告が被告に対し、国家賠償法1条2項に基づいて、求償義務の履行を請求する訴えを提起したのが本件です。

 本件には幾つかの注目すべき点がありますが、その中の一つにパワハラの加害者(被告)に負わされた債務の大きさがあります。

 裁判所は、被告の重過失を認めたうえ、次のとおり述べて、5000万円以上にも及ぶ求償債務を負わせました。

(裁判所の判断)

「国賠法1条2項は、国又は公共団体が国賠法1条1項に基づき損害賠償責任を負う場合において、『公務員に故意または重大な過失があつたときは,国または公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。』旨を定めるも、この求償権行使については、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、制限を加えることができると解するのが相当である(最高裁昭和49年(オ)第1073号同51年7月8日第一小法廷判決・民集30巻7号689頁、最高裁昭和59年(オ)第1085号同60年2月12日第三小法廷判決・集民144号99頁、最高裁平成28年(行ヒ)第33号同29年9月15日第二小法廷判決・集民256号77頁参照)。」

「これを本件についてみると、原告の求償権の内容は、業務上の優越的地位にあった被告のDに対する日常的かつ継続的なパワハラにより、Dが本件自殺に至ったことについて、原告がその遺族に対して国賠法1条1項に基づく損害賠償責任を負い、その損害賠償金の支払をしたというものであり、被告のDに対するパワハラについては、職務上の注意義務違反の程度が著しいものであったこと等からすれば、被告が種々主張する点のほか、被告が本件懲戒処分を受けたこと等を踏まえても、損害の公平な分担という見地から原告の被告に対する求償権の行使自体を制限すべき事情があるということはできない。 

他方、〔1〕原告は、平成31年当時、パワハラ防止のための規程も相談窓口も設けていなかったこと、〔2〕被告の部下や業者に対する言動や対応については、Dの異動以前から、上司として、あるいは、社会人として著しく適切さに欠けるものがあったにもかかわらず、被告に対する職務上の職務監督権限を有する原告が、被告に対して、その点について注意、指導、研修をするなどしたことはなく、むしろ予防指導課課長に昇進させており、このような原告の対応が被告を助長させた面があること、〔3〕Dに対する職務上の指揮監督権限を有する原告は、Dが危険物係長への異動を嫌がるなど、不安等を募らせていたにもかかわらず、その執務環境に対する適切な措置を執るなどの対応を取ることなく異動させ、その後も適切な措置を執るなどしていないこと、その他本件に表れた諸事情を総合考慮すると、原告の被告に対する求償権の行使に当たっては、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、制限を加えるのが相当である。本件においては、前記認定説示に照らすと、原告は、被告に対して5割の限度でその求償権の行使ができるにとどまるというべきである。

前記前提事実のとおり、原告は、Eらに対し、令和6年3月1日、前訴判決に基づき、本件損害賠償金1億0931万6583円を支払ったことから、被告に対し、その5割に当たる5465万8291円(1円未満切捨て)の限度で行使することができる。

3.パワハラの代償は大きい

 以上のとおり、被告は5000万円以上にも及ぶ求償義務の履行を命じられました。

 人が死亡している事案である以上、当然ではあるのですが、パワハラを行った被告は高い代償を支払うことになりました。

 近時、企業や国、地方公共団体は、パワハラに厳しい姿勢を取るようになっています。求償が現実味を帯びていることも考えると、部下を管理する立場にある方は、ハラスメントの行為者にならないよう、日頃から注意しておく必要があります。

 




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