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「他社からの誘いがあり、そこに行きたいと思っていたから、ちょうどよかった」などの発言による合意退職が認められなかった例

1.退職の意思表示の慎重な認定

 労使間でトラブルになっている時に、売り言葉に買い言葉で辞意を口にしてしまうことがあります。こうした軽率な発言によって、本意ではないにもかかわらず退職扱いされてしまった場面で労働者を保護する法律構成の一つに、

退職の意思表示が行われたといえるのかどうかを慎重に認定すべきである

という議論があります。後先のことを慎重に考えず口をついて出た辞意は「退職の意思表示」とは認められない、ゆえに合意退職(退職の意思表示の合致)は成立しないとする主張です。こうした理屈で合意退職の効力を否定した裁判例が多々あることは、このブログでも紹介してきたとおりです。

 昨日紹介したように退職と伴う場面での「自由な意思の法理」の適否には争いがあるのですが、退職の意思表示に係る事実認定を慎重にしなくても良いとの立場をとる裁判例はなく、「退職の意思表示の慎重な認定」は労働者側にとって手堅い論理構成として知られています。

 近時公刊された判例集にも、これと類似した論理を用い、合意退職の効力を否定した裁判例が掲載されていました。東京地判令7.3.26労働判例ジャーナル163-50 にし山事件です。

2.にし山事件

 本件で被告になったのは、飲食店の企画及び経営等を目的とする株式会社です。

 原告になったのは、被告と雇用契約を交わしていた方です(令和3年9月1日契約締結)。被告から合意退職扱いないし解雇されたことを受け、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。

 合意退職との関係で、被告は、次のとおり主張しました。

(被告の主張)

「被告が、令和3年11月30日、原告と面談(以下『本件面談』という。)し、原告にC店への配置転換ないし退職を打診したところ、原告は、同年12月末日をもって退職の意向を示し、被告はこれを承諾したから、原告と被告は、同日をもって本件雇用契約を解約する旨合意した。原告は、同日時点で就労の意思を失っており、そのことは、本件雇用契約の合意解約を裏付けている。」

 これに対し、裁判所は、次のとおり述べて、合意退職の成立を否定しました。

(裁判所の判断)

「Eは、同年11月30日、原告とオンラインで面談(本件面談)をした。」

「Eは、原告に対し、被告の売上が悪く、本件店舗の経営が難しいので閉店せざるを得ないことを伝え、C店への配置転換を打診したが、被告の具体的な経営状況までは説明しなかった。原告は、配置転換には応じず、Eに対し、他社からの誘いがあり、そこに行きたいと思っていたから、ちょうどよかったなどと述べて、一旦は同年12月末での退職を了承する意向を示す発言をした。

「Eは、同日午前10時38分頃、被告代表者及びHに対し、原告が年内退職となった旨を報告した。また、原告は、同日午後0時19分頃、被告に連絡することなく、被告の事務的業務を行う従業員等が参加するグループLINEを退会し、同日以降、被告に出勤しなかった。被告は、同日以降、原告に退職届を送付するなどの手続まではしなかった。」

(中略)

「被告は、原告と被告が、令和3年11月30日、退職合意をした旨主張し、Eは、これに沿う供述をする。」

退職の意思表示は、労働者にとって重要な意思決定であるところ、口頭による退職の意思表示がされたと認めるには、慎重な判断が必要であるといえる。

この点、原告は、本件面談時に一旦は同年12月末での退職を了承する意向を示す発言をしたことが認められる。また、原告が、本件面談のあった同年11月30日中に被告のグループLINEを退会する手続をし、同日以降出勤しなかったこと(ただし、原告は、原告の父親に相談していた旨供述している・・・。)は、原告が被告を退職することを承諾したことをうかがわせる事情とはいえる。

しかし、本件面談以前に原告と被告との間で退職に関するやりとりがされたとは認められず、本件面談が初めてであった。被告が、退職届の作成等、退職に向けた手続を取ったとは認められない。原告は、一旦は同年12月末での退職を了承する意向を示す発言をしたものの、本件面談の4日後である同月4日には、原告が被告に同月31日に退職ができず、転職先が決まるまでの雇用の継続を希望したことからすれば、原告が、本件面談で、明確な退職の意思を述べたとまでは直ちに認められない。そして、原告は、同月7日付けで本件解雇をされたことを受けて、同月中に2度解雇の撤回を求める書面を送付したことからすれば、原告が同年11月30日の本件面談で確定的に退職の意思表示をしたとまでは認めるに足りない。

「これに対し、被告は、退職合意を裏付ける主張として、同日時点で、原告に就労の意思がない旨主張するが、原告が同日から間もない時期に退職合意や解雇に異議を述べるなどしたことからすれば、原告は、同日時点では就労の意思を有していたと認められ、被告の主張は採用できない。」

「よって、原告と被告が同日退職合意した旨の被告の主張は採用できない。」

3.早まったことを言ってしまったと思ったら、すぐに記録に残る形で撤回を

 本件では面談4日後に雇用の係属を希望していたことが指摘されたうえ、確定的に退職の意思表示をしたとまでは認められないと判示されました。

 一般論として、一旦約束してしまったことは、後になって気が変わったとしても、なかったことにはできません。

 しかし、退職の意思表示に関していえば、一旦それっぽいことを言ってしまったとしても、時間がそれほど経っていないうちに反対の意思を表明していれば、「確定的な退職の意思表示」はなかったとして、救済を得られることがあります。

 裁判所の判断は、合意退職の効力を否定して行く場面で、実務上参考になります。

 




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