1.解雇を無効とする判決が出たその後
解雇の効力を争って地位確認請求訴訟を提起して勝訴すると、通常は、使用者との間で復職に向けた協議が行われます。ここで就労条件や就労環境が調整され、労働者は職場復帰して行きます。
しかし、労働者の職場復帰を頑として拒み続ける会社もないわけではありません。
こうした会社も賃金を支払わないことはあまりないのですが、自宅待機命令を出して労働者を職場から締め出し続けます。
確かに、賃金の支払が得られている限り、労働者に経済的な不利益はありません。
しかし、こうした措置は、裁判所の判決の趣旨に沿ったものといえないことはもとより、労働者の人格を毀損するものです。
それでは、このように賃金を支払ってさえいれば良いだろうという態度が、不法行為を構成することはないのでしょうか?
昨日ご紹介した、福岡高判令6.6.25労働判例1337-79 福岡地判令5.6.28労働判例1337-84 西日本総合保険事件は、この問題を考えるにあたっても、参考になる判断を示しています。
2.西日本総合保険事件
本件で被告(被控訴人・附帯控訴人)になったのは、損害保険代理業及び生命保険の募集に要する業務等を目的とする株式会社です。
原告(控訴人・附帯被控訴人)になったのは、平成29年に被告に入社し、主に総務・経理の業務に従事していた方です。
令和2年3月20日に業務縮小を理由に解雇されたことを受け、原告の方は、解雇の効力を争い地位確認等を請求する訴えを提起しました(前訴)。
令和4年6月8日、前訴裁判所は、解雇が無効であるとして、原告の地位確認請求を認めました。
原告の前訴勝訴判決は確定しましたが、令和4年7月1日以降、被告は原告に対し、自宅待機命令を延々と出し続けました。自宅待機命令期間中、被告は、
「会社の都合により、臨時に休業した期間については、休業1日につき平均賃金の60%以上の手当を支払う」(賃金規程9条)
との規定を根拠として、休業手当分のみ支払をするという対応をとりました。
これに対し、原告の方は、被告を相手取って、賃金の全額の支払いや、違法な自宅待機命令を受けたことを理由とする慰謝料の支払いを求める訴えを提起しました。
一審判決は差額賃金については大筋において原告の請求を認めましたが、自宅待機命令の違法性(不法行為該当性)は否定しました。これに対し、原告側で控訴、被告側で付帯控訴を行ったのが本件です。
本日、注目したいのは、自宅待機命令の違法性に対する判断です。
控訴審は、次のとおり述べて一審判断を変更し、自宅待機命令の不法行為該当性を認めました。
(裁判所の判断)
「当裁判所も、本件自宅待機命令は、当初は業務上の必要性があり、被控訴人に対する不法行為を構成するものではなかったと判断する。その理由は、原判決第3の5に記載のとおりであるから、これを引用する。」
「しかしながら、被控訴人は、もともと令和4年7月中には控訴人に復職後の担当業務を伝える予定であったものであり、にもかかわらず令和5年6月30日時点で本件自宅待機命令は1年にも及んでいるもので、上記・・・の事情があることを考慮しても、被控訴人としては、同日までには検討を済ませ、控訴人を復職させていて然るべきであったといわざるを得ない。」
「したがって、本件自宅待機命令は、令和5年7月1日をもって、業務上の必要性を欠く違法なものとなっており、控訴人の雇用契約上の地位を脅かし、その人格権を侵害するものとして不法行為を構成するに至っているといわざるを得ない。」
「本件自宅待機命令が不法行為に転化した令和5年7月1日以降、被控訴人は月額16万8000円の賃金を支払い続けていることなども総合考慮すると、令和5年7月以降、控訴人が本件自宅待機命令により被った精神的損害に対する慰謝料としては50万円が相当と判断する。また、弁護士費用としては5万円を認めるのが相当である。」
3.1年も猶予する必要があるのかは疑問であるが・・・
確かに、解雇を無効とする判決の確定により職場復帰するということになっても、会社側ですぐに受入れの用意を整えられない場合があることは否定できまません。
しかし、1年も時間的な猶予を与える必要があったのかは疑問です。
とはいえ、1年を経過した時点で自宅待機命令が不法行為に転化することを裁判所が認めたことは注目に値します。
裁判所の判断は、判決に従った対応をとらない使用者に対し、その法的責任を問題にして行くにあたり、実務上参考になります。