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言い分を考慮することなく、再度反省文の提出を指示し、反省文を提出しないと減給処分にせざるを得ないと警告したことがパワハラに該当するとされた例

1.考慮されない弁明

 懲戒処分を行うにあたっては、弁明の機会付与など適正な手続を踏むことが必要だと理解されています。例えば、水町勇一郎『詳解 労働法』〔東京大学出版会、第3版、令5〕600頁には、次のような記述があります。

「懲戒処分を行うにあたっては適正な手続を踏むことが必要である。労働協約や就業規則上,労働組合との協議や懲戒委員会(賞罰委員会)の開催等の手続を経ることが規定されている場合には,その手続を経ずになされた懲戒処分は原則として無効となる。懲戒委員会等では,事実関係を具体的に明らかにしたうえで,懲戒事由該当性や懲戒処分の必要性・相当性を具体的に検討することが求められる。これらの手続のなかで最も重要なのは,労働者(被処分者)に弁明の機会を与えることである。被処分者に懲戒事由を告知して弁明の機会を与えることは,就業規則等にその旨の規定がない場合でも,事実関係が明白で疑いの余地がないなど特段の事情がない限り,懲戒処分の有効要件であると解される」

 こうした理解がなされているため、労働者に対して懲戒処分ほか何等かの不利益取扱いが行われる場合、事前に弁明の機会が付与されることが多く見られます。

 しかし、使用者側が真面目に弁明を聞いているかというと、首を傾げたくなるようなことが少なくありません。①形式的に弁明の機会を付与するだけで、当初より労働者の側の話を聞くつもりがないとしか思えないケース、②処分前に労働者側から情報を搾り取り、その供述を固定化するための手段として弁明の機会付与を利用しているケース、③弁明の内容が反省していない根拠として利用され、処分を加重する事由として用いられているケースなどが散見されます。

 このように弁明の機会が形式的で空疎なものとして捉えられていることについては常々問題だと思っていたのですが、近時公刊された判例集に、こうした一部現状を改善する梃子になりそうな裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、東京地判令5.12.7労働判例1336-62 TCL JAPAN ELECTRONICS事件です。

2.TCL JAPAN ELECTRONICS事件

 本件で被告になったのは、中国系企業の日本法人で、アマゾンのECサイト等を通じて電気製品を販売していた株式会社です。

 原告になったのは中国籍の女性で、被告の営業本部計画物流部で働いていた方です。上司からパワハラを受け、適応障害を発症して休職になったと主張し、休職期間満了による自然退職の効力を争うとともに、慰謝料の支払等を請求する訴訟を提起したのが本件です。

 原告が主張したパワハラは多岐に渡りますが、その中の一つに、

業務連絡の在り方に関する反省文の提出指示を受けたこと

がありました。

 これについて、裁判所は、次のとおり述べて、パワーハラスメントに該当すると判示しました。

(裁判所の判断)

「Eは、原告がM営業本部長及びEの不在を認識していたと一方的に断定したうえ、原告がM営業本部長及びEの不在を認識しながら回答期限内又は回答期限後速やかに物流会社からの回答を取引先に伝えなかったことが責任放棄に当たると非難しているが、原告は、Eから事務所で業務をする予定であると聞かされていたことから、Eもメール対応可能であると認識していたうえ、そもそもM営業本部長からもEからも取引先に対し直接回答するよう指示されていなかったことが認められる。これらの事実を前提とすると、Eが前記反省文の提出を指示した時点で、原告がEの不在を認識していたと断定する根拠を欠き、また、原告が取引先に対し物流会社からの回答を速やかに伝えなかったことが責任放棄に当たるとの評価自体が適切なものであったとは認め難く、Eの前記指示はその前提を欠くものであったと認められる。そして、この件に関するM営業本部長、E及び原告とのメールのやり取りを見れば、M営業本部長及びEが原告に対し取引先に直接回答するよう指示していないことは明白である。」

「そうすると、Eは、原告がEの不在を認識していたと断定する明確な根拠を欠くこと及び原告が取引先に対し直接回答するよう指示されていないことを認識し又は容易に認識することができたのに、原告がM営業本部長及びEの不在を認識していたと誤った事実を断定したうえ、回答期限内又は回答期限後速やかに物流会社からの回答を取引先に伝えなかったことが責任放棄に当たるとの不適切な評価をし、このような事実誤認に基づき反省文の提出を指示したものと認められる。そして、原告がEの前記指示に従って提出した反省文は、上司の指示不足や上司の言動を信じたことにより顧客に迷惑がかかるおそれがあるので、そのことを見越して対応する必要があるという内容であって、原告自身が反省するというより婉曲的にEを非難する論調となっているため一見すると分かり難いものの、原告が指示に基づいて行動し、Eが事務所で業務をするとの言葉を信じていたことによるものであることが記載されていたのに、Eはこれらの原告の言い分を考慮することなく、再度反省文の提出を指示し、反省文を提出しないときは減給処分にせざるを得ないとの警告までしており、これらEの一連の行為は、職務上の地位を背景に、適正な指導の範囲を超えて精神的苦痛を与えるものであったと認められ、パワーハラスメント行為に該当するといえる。

3.懲戒ではなく反省文のケースではあるが・・・

 本件は懲戒処分ではなく反省文の提出指示に係る事案ではあります。

 しかし、「原告の言い分を考慮することなく」再度反省文の提出を指示したり、懲戒処分(減給処分)の警告を行ったことがパワーハラスメントと認定されたことは、注目に値します。弁明の機会付与を、単に形だけ付与すれば良いとするのではなく、労働者側からされた弁明を考慮したうえで次段の措置・処分をとらなければならないといったように、実質的なものとして捉えているように読めるからです。しかも、弁明書という形式ではなく、反省文という形式で出された「一見すると分かり難い」論調の文章の内容を考慮するようにと言っている点は、画期的と言っても良いように思います。反省文を出すようにと言われると、責任転嫁の誹りを受けかねないため、自分の言い分を述べて行くことが難しいのですが、こうした労働者の立場を適切に考慮してくれたように思います。

 裁判所の判断は、弁明やヒアリングを形式的にしか捉えていない使用者に対抗して行くにあたり、実務上参考になります。

 




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