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国外での労働にも最低賃金法は適用されるのか?

1.最低賃金法

 「最低賃金法に基づき国が賃金の最低額を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければならないとする制度」を最低賃金制度といいます。

あなたの賃金を比較チェック|最低賃金制度

 この最低賃金制度の根拠になっているのが「最低賃金法」という法律です。

 最低賃金には、都道府県別に定められる「地域最低賃金」と産業別に定められる「特定最低賃金」があります。いずれにせよ、最低賃金以下の賃金を定める合意は無効となり、この場合、賃金は最低賃金に代置されます(最低賃金法4条2項)。

 それでは、この最低賃金は、海外での就労にも適用されるのでしょうか?

 日本法に準拠する労働契約であったとしても、外資系の会社では海外で研修等が実施されることがあります。そうした場合、最低賃金法の適用を主張し、差額賃金の支払を請求することができるのでしょうか?

 昨日ご紹介した東京地判令5.9.11労働判例1335-22 中華航空事件は、この問題を考えるうえでも参考になる判断を示しています。

2.中華航空事件

 本件で被告になったのは、旅客運送、貨物運送等を主な目的とする中華民国法に準拠して設立された外国法人です。

 原告になったのは、被告と有期雇用契約を交わし、日本・台湾間の国際旅客便で客室乗務員として働いていた方です。

 雇止めの適否を争って地位確認等を請求するとともに、台湾本社で実施された初期訓練中に被告から支払われた手当と最低賃金法との差額等を請求したのが本件です。

 裁判所は、準拠法が日本法であることを認めつつも、次のとおり述べて、最低賃金法の適用を否定しました。

(裁判所の判断)

「本件各労働契約の成立及び効力についての準拠法は日本法であると認められるが、最低賃金法の法的性質を踏まえ、台湾における本件訓練期間中の原告らと被告との間の本件各労働契約に同法4条1項が適用されるか否かについて更に検討する。」

「最低賃金法は、賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もって、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的としているところ(同法1条)、労働者の最低賃金の水準は、国の経済状況、経済政策及び労働政策等によって大きく左右され得るところであることに鑑み、最低賃金法は、最低賃金額について、最低賃金審議会の調査審議に基づく意見を聴いた上で、厚生労働大臣又は都道府県労働局長が地域における労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の賃金支払能力を考慮して決定するものとし(同法9条2項、10条1項)、使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならず、最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効とし、この場合において、無効となった部分は、最低賃金と同様の定めをしたものとみなすものと規定している(同法4条1項、2項)。」

「以上のような最低賃金法の法的性質や具体的な最低賃金の水準が我が国における地域ごとの労働実態や賃金水準を踏まえた上で個別に決定されるものとされていることに照らせば、最低賃金法は、我が国において就労する労働者に係る労働条件のうちの賃金に関し、社会政策的見地から所要の地域ごとに賃金の最低水準を定め、これを個別の労働契約の効力要件とするという立法政策に基づいて措定されたものと解し得るから、前示のような最低賃金の私法上の効力(同法4条)も、国の枠を超えて国外の事業の労使関係に適用されることは同法の予定するところのものではなく、同規定の適用範囲は日本国内の事業の労使関係に限定されているものと解するのが相当である。

以上の検討を踏まえ、本件訓練期間中の原告らが日本国内の事業に関して使用されている労働者であったといえるか否かについて更に検討する。

「前提事実等によれば、本件訓練は、原告らが日本支社に帰属する客室乗務員として本採用されるために必要なものとして位置づけられていたこと、日本支社の有期雇用客室乗務員に適用される本件就業規則においても、本件訓練は試用期間に含まれるものと規定されていること(本件就業規則5条1項)、本件訓練の期間は2か月程度であり、客室乗務員訓練生は訓練修了を条件に客室乗務員として就労することが予定されており、現に、原告らは、本件訓練に合格した後、直ちに日本に帰国して成田ベースに配置され、客室乗務員としての勤務を開始したことが認められる。以上の諸事情に照らすと、本件訓練は、成田ベースに所属する客室乗務員として業務遂行をするに当たって必要となる知識や技能を修得させ、客室乗務員としての適性の有無を測るために実施されたものであると認められる。」

「他方で、前提事実等によれば、本件訓練は、被告に客室乗務員候補者として採用された労働者に対し初期訓練として実施されたものであるところ、①原告らを含む410期の客室乗務員の採用計画の策定及び採否の判断は、いずれも台湾本社が行っており、本件訓練の企画・立案及び実施も全て台湾本社の担当部署が台湾本社の施設や設備を用いて行っていたこと、②本件訓練期間中の客室乗務員訓練生への宿泊施設の提供や、本件訓練の修了判定及び不合格者に対する退職手続も台湾本社が行っていたこと、③本件訓練期間中の客室乗務員訓練生に対する手当の支給も台湾本社の計算において行われ、支給された手当も現地通貨である台湾ドルで支給されていたこと、④被告及び日本支社は、本件訓練期間中の原告らを含む410期の客室乗務員訓練生を「Trainee」(訓練生)として扱い、同訓練に合格して日本に帰国するまでは日本支社の客室乗務員室(EM)に所属する従業員としての処遇は行っておらず、日本支社も本件訓練期間中に原告らに対して業務指示をすることはもとより、連絡を取ることすらなかったこと、⑤本件訓練期間中、原告らを含む410期の客室乗務員訓練生に対して日本支社から賃金等は支払われておらず、日本の社会保険の加入手続もされていなかったことが認められる。」

「これらの諸事情を総合すれば、本件訓練は、日本支社としての取組みではなく、台湾本社の取組みとして、原告らを含む410期の客室乗務員訓練生に対し被告の客室乗務員として要求される知識や技能を修得させ、台湾本社が設定する水準の資質を有する客室乗務員を確保するために実施されたものといえるのであって、その期間中、原告らは台湾本社の指揮命令下にあったものと認められる。したがって、本件訓練期間中、原告らは、専ら台湾本社の事業に従事、使用されていたものであり、日本国内の事業に従事、使用されていたとは認め難いものといわざるを得ない。したがって、最低賃金法4条1項は本件訓練期間中の原告らと被告との間の本件各労働契約には適用されないものと認められる。

3.「外国で働いている=日本国内の事業に使用されていない」ではないようだが

 裁判所の判断を見ると、外交で働いているからといって、直ちに日本国内の事業に使用されていないということにはならなそうです。

 しかし、本件においては、

日本国内の事業に使用されているか、

という基準を持ち出し、裁判所は、原告らの台湾での労働に最低賃金法が適用されることを否定しました。

 珍しい論点についての司法判断であり、参考になります。

 

 

 

 




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