1.働いている人の姿を衣服の上から撮影する行為
人の性的な部位や人が身に着けている下着を密かに撮影することは、性的姿態等撮影罪で処罰されます(性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律2条1項1号参照)。
また、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影することは条例で禁止されているのが一般です(東京都公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例5条1項2号等参照)。
「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」はプライバシー権として保障されており「その侵害に対しては侵害行為の差し止めや精神的苦痛に因る損害賠償請求権が認められる」と理解されています(東京地判昭39.9.28判例タイムズ165-184参照)。
ここで一つ問題があります。
好意を持っている異性の働いている姿を衣服の上から撮影する行為は、どのように捕捉されるのかという問題です。
性的部位や下着、衣服で隠されている身体部位の撮影に及ぶものではない限り、性的姿態等撮影罪や条例違反は成立しません。また、職業生活上の活動は「私生活」というには無理があります。
「人は,みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する」と判示した最高裁判例はあります(最一小判平17.11.10 最高裁判所民事判例集59-9-2428)。しかし、これは、写真週刊誌のカメラマンが拘束中の被疑者を撮影したものであり、公表行為が伴われている事案です。同僚の写真を密かに盗撮し、自己鑑賞用にとっておくことにまで射程が及ぶのかは判然としません。
このような状況の中、近時公刊された判例集に、好意を抱いている同僚の働いている姿を写真撮影したことが不法行為に該当すると判示した裁判例が掲載されていました。鳥取地倉吉支判令7.1.21労働判例1333-45 ガソリンスタンドA社ほか(盗撮)事件です。
2.ガソリンスタンドA社ほか事件
本件で被告になったのは、
ガソリンスタンド等の事業を営む株式会社(被告会社)、
被告会社の従業員(被告Y1)
の二名です。
原告になったのは、被告会社の従業員の方です。勤務中に被告Y1から盗撮されたことにより損害を被ったと主張して、その賠償を求める訴えを提起したのが本件です。
被告Yは盗撮行為に及んだことを認めたうえ、次のとおり主張しました。
(被告Y1の主張)
「被告Y1は、原告に対して好意を有していたが、その感情を抑えるため、原告の姿をせめて画像に残したいと思い、数回撮影したのである。撮影された画像も、帽子やマスクを着用して勤務する原告の姿にすぎず、わいせつなものではない。撮影行為は原告の同意を得ていないという点においては不適当なものであったが、不法行為にまでは該当しない。」
しかし、裁判所は、次のとおり述べて、被告Y1の主張を排斥し、不法行為の成立を認めました。
(裁判所の判断)
「原告と被告Y1は、令和2年8月頃からAサービススタンドで勤務するようになったところ(なお、同スタンドの従業員数は、4名程度であった。)、被告Y1は、原告に好意を抱き、原告の姿を写真に残そうとして、令和4年7月頃から同年8月頃までの間の勤務時間中、防犯カメラの映像によって確認できるだけでも、同年7月25日、同年8月8日、同月11日、同月12日、同月18日及び同月21日の6日間にわたり、その勤務場所において、複数回、シャッター音が出ない設定にした自己のスマートフォンを原告に向けて構え、帽子、マスク、長袖及び長ズボンを着用して勤務する原告の姿を、原告に無断で近い距離から撮影した(なお、原告は、被告Y1には性的目的があったと主張するものの、撮影態様からは必ずしも性的目的が推認されるとまではいえず、性的目的があったことを否定する被告Y1の供述を覆すに足りる証拠はない。)。」
(中略)
「人は、みだりに自己の容ぼう等を撮影されないことについて法律上保護されるべき人格的利益を有するところ、ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである(最高裁平成15年(受)第281号同17年11月10日第一小法廷判決・民集59巻9号2428頁参照)。」
「これを本件についてみると、原告は、被告会社に勤務する一般人であり、同僚から無断で勤務中の姿を撮影されることなど、通常は想定も許容もしないのであって、被告Y1においても、撮影をしたいのであれば、原告に一言断ってから撮影することが常識的であるのに、原告の感情に十分配慮することなく、確認できるだけでも6日間にわたって、原告の姿を近い距離から繰り返し無断で撮影している。原告が帽子、マスク、長袖及び長ズボンを着用していたことを踏まえても、被告Y1による撮影行為は、その態様において著しく不相当であるといえ、また、撮影の必要性も認められない。以上の事情を総合考慮すると、被告Y1による撮影行為は、社会生活上受忍すべき限度を超えて、原告の人格的利益を侵害するものであり、不法行為法上違法である。以上の認定に反する被告Y1及び被告会社の主張は、いずれも採用することができない。」
「したがって、被告Y1は、原告の姿を撮影したことについて、不法行為責任を負う。」
3.わいせつ性のない盗撮行為でも不法行為の成立が認められた
以上のとおり、裁判所は、公表行為が伴われていないうえ、(単なる行為を超える)性的目的にも欠けていたわいせつ性のない盗撮行為においても、不法行為の成立を認めました。空白部分を埋め、職場における広義の性的自由を強める裁判例として、本裁判例は実務上参考になります。