1.1か月単位変形労働時間制
労働基準法32条の2第1項は、
「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、又は就業規則その他これに準ずるものにより、一箇月以内の一定の期間を平均し一週間当たりの労働時間が前条第一項の労働時間を超えない定めをしたときは、同条の規定にかかわらず、その定めにより、特定された週において同項の労働時間又は特定された日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる。」
と規定しています。
これは、いわゆる1か月単位変形労働時間制の根拠条文です。
この条文に関し、労働基準法施行規則12条の2第1項は、
「使用者は、法第三十二条の二から第三十二条の四までの規定により労働者に労働させる場合には、就業規則その他これに準ずるもの又は書面による協定(労使委員会の決議及び労働時間等設定改善委員会の決議を含む。)において、法第三十二条の二から第三十二条の四までにおいて規定する期間の起算日を明らかにするものとする。」
と規定しています。
要するに、1か月単位の変形労働時間制を適用するにあたっては、変形期間の起算日が明らかにされていなければならないということです。変形期間の起算日が定められていない場合、適法要件に欠けるものとして、1か月単位の変形労働時間制の効力は否定されます。
それでは、給与規程上の給与の計算期間の定めをもって、この起算日の定めであると主張することはできるのでしょうか? 昨日ご紹介した福岡地判令7.3.27労働判例ジャーナル161-20 東輪ケミカル事件は、この問題を考えるうえでも参考になる判断を示しています。
2.東輪ケミカル事件
本件で被告になったのは、一般区域貨物自動車運送事業等を目的とする株式会社です。
原告になったのは、被告との間で雇用契約を締結し、化学薬品等をトラックやトレーラーで運搬する業務に従事してきた方3名(原告A、原告B、原告C 原告運転手ら)と原告らが加入する労働組合(原告全国一般)です。
原告運転手らの訴えは、いわゆる残業代請求です。
原告運転手らと被告との間には多数の争点がありましたが、その中の一つに1か月単位の変形労働時間制の有効性がありました。
本件では起算日が具体的に定められていなかったのですが、被告は、
「本件就業規則に基づき、4週間を平均して1週間の労働時間が40時間を超えない限り、特定の日において7時間又は特定の週において40時間を超えて労働させることができるところ、本件給与規程で給与の計算期間を毎月14日から翌月13日までとしていることと相まって、毎月14日を起算日とする1か月単位の変形労働時間制を採っている」
として、変形労働時間制の有効性を主張しました。
しかし、裁判所は、次のとおり述べて、変形労働時間制の効力を否定しました。
(裁判所の判断)
「被告は、本件就業規則の変形労働時間制の定めと、本件給与規程における給与の計算期間の定めによって、毎月14日を起算日とする1か月単位の変形労働時間制を採用している旨主張する。」
「しかしながら、労働基準法32条の2における変形労働時間制を採用するためには、就業規則その他これに準ずるものにより、変形期間の起算日を明らかにする(労基則12条の2第1項)とともに、同期間における各日・各週の労働時間を具体的に定めることを要し、変形期間を平均して週40時間の範囲内であっても、使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更するような制度はこれに該当しない(昭和63年1月1日基発第1号・婦発第1号、平成9年3月25日基発第195号、平成11年3月31日基発第168号参照)。給与の計算期間と変形期間の起算日は必ずしも一致するものではないから、本件給与規程の定めのみをもって変形期間の起算日を明らかにしたということはできない。本件全証拠を精査しても、被告において、就業規則その他これに準ずるものにより、変形期間の起算日及び同期間における各日・各週の労働時間が具体的に定められたとは認められないから、被告の上記主張は採用の限りでない。」
3.有効性は否定された
以上のとおり、裁判所は1か月単位変形労働時間制の効力を否定しました。
変形労働時間制の適用要件は複雑であるうえ、裁判所は各要件の充足性を比較的厳格に理解する傾向にあります。変形労働時間制が採用されていたとしても、適法要件に欠ける場合、普通に残業代が計算されることになりますが、この金額は高額になることが少なくありません。
裁判所の判断は、変形労働時間制の効力を突き崩して行く場面で、実務上参考になります。