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社内で上司から示された規程を撮影していたことで、会社が主張する就業規則の周知性を否定できた例

1.就業規則の周知性

 労働契約法7条本文は、

「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。」

と規定しています。

 噛み砕いて言うと、就業規則の内容は、「周知」を条件に、労使間の労働契約の内容に取り込まれるという意味です。

 ここで言う「周知」とは、実質的周知、すなわち「労働者が知ろうと思えば知りうる状態に置くことを指す。労働者が実際にその内容を知っているか否かは問われない。」(水町勇一郎『詳解 労働法』〔東京大学出版会、第3版、令5〕197頁参照)と理解されています。そして、「知ろうと思えば知りうる」といるためのハードルは極めて低く、就業規則の周知性が否定されることは、実務上、決して多くはありません。

 しかし、近時公刊された判例集に、就業規則の周知性を否定した裁判例が掲載されていました。福岡地判令7.3.27労働判例ジャーナル161-20 東輪ケミカル事件です。

2.東輪ケミカル事件

 本件で被告になったのは、一般区域貨物自動車運送事業等を目的とする株式会社です。

 原告になったのは、被告との間で雇用契約を締結し、化学薬品等をトラックやトレーラーで運搬する業務に従事してきた方3名(原告A、原告B、原告C 原告運転手ら)と原告らが加入する労働組合(原告全国一般)です。

 原告運転手らの訴えは、いわゆる残業代請求です。

 原告運転手らと被告との間には多数の争点がありましたが、その中の一つに「乗務手当」の固定残業代としての有効性がありました。

 被告の給与規程には、

「乗務手当 長距離及び地場と区別し、それぞれ運行距離1kmにつき時間外業務分を含む単価を定めて支給する。」

「地場1km当たり19円(時間外業務分9円を含む)、長距離1km当たり13円(時間外業務分8円を含む)とし、長距離とは2日行程以上の日数で走行距離が500km以上のものをいい、長距離に該当しないものは地場扱いとする。」

との記載がありましたが、原告らは、

「被告社内で周知されていた給与規程には、・・・時間外業務分を含むとの記載がなかった」

と主張していました。

 このような状況のもと、裁判所は、次のとおり述べて、周知性を否定しました。

(裁判所の判断)

被告は、乗務手当に時間外労働の対価が含まれる旨定めた本件給与規程を社内に備付けていたとして、本件給与規程が雇用契約の内容となっていた旨主張するが、被告の主張によっても本件給与規程がどのように周知されていたのかは明らかでなく、被告社内に本件給与規程が備え付けられていたことを認めるに足りる証拠もない。なお、証拠(甲16)によれば、原告Aが令和4年1月25日に被告社内でGから示された資料を撮影したことが認められ、同資料に給与の内訳が記載されていることを踏まえると、被告社内には本件給与規程ではなく同資料が備え付けられていたことがうかがわれるところ、同資料には、乗務手当に時間外労働の対価が含まれる旨の記載はない。

「被告は、原告運転手らの雇用に当たり、その当時のF事業所長が本件給与規程の内容や雇用条件について説明し、時間外労働の対価を含んで乗務手当を支給するとの雇用条件について合意した旨主張し、Gがこれに沿う供述をする(証人G 2頁)。」

「しかしながら、原告運転手らと被告の間で雇用契約書は交わされておらず(前提事実・・・、上記合意を裏付ける客観証拠はない。Gは、原告運転手らの採用後に被告F事業所の所長に就任しており、自らが所長となった後の雇用時の説明について述べているに過ぎないから(証人G 1、2頁)、上記供述を踏まえても、被告と原告運転手らとの間の上記合意を認めるに足りない。」

「被告は、平成25年、平成27年及び平成30年に本件給与規程を改定し、社内ミーティングで本件給与規程の内容(乗務手当の単価の改定)を従業員に説明したことから、時間外労働の対価を含んで乗務手当を支給するとの雇用条件に係る合意が推認できる旨主張し、被告の完全親会社である株式会社Hで管理本部の人事部長を務めるJ(以下『J』という。)がこれに沿う供述をする(証人J 4頁)。」

「しかしながら、本件全証拠を精査しても、ミーティングで本件給与規程の内容(乗務手当の単価の改定)が説明されたことを認めるに足りる的確な証拠はなく、J自身が、親会社の人事部長であって被告の人事担当者でないため具体的な説明内容はわからない旨述べていること(証人J 34頁)に照らしても、上記供述を信用することはできない。」

「したがって、被告において、従業員が本件給与規程の内容を把握するための措置を執っていたと認めるに足りる証拠はなく、本件給与規程は周知性を欠いており無効であるから、本件給与規程の定めが、原告運転手らと被告との間の雇用契約の内容となっていたとは認められない。乗務手当との名称からは時間外労働の対価が含まれることが明らかでなく、給与明細にも乗務手当に時間外労働の対価を含む旨の記載はないから・・・、雇用契約上、乗務手当時間外労働分が時間外労働の対価として支給されていたとは認められず、対価性を欠く。(なお、トレーラー乗務手当としての上乗せ分については、前提事実・・・のとおり、本件給与規程上も、時間外業務分の対価を含む旨の定めはない。)」

「よって、乗務手当は、時間外労働分も含め、全額が基礎賃金に算入される。」

3.所長から示された資料の撮影が効いた

 上述のとおり、本件では、事業所長から示された資料を原告運転手らの一人が撮影していたため、それと被告提示の規程とを比較することで、就業規則の周知性を否定することができました。

 周知性は要件が極めて緩やかであり、使用者側で言いさえすれば認められるといった様相が呈されています。そのためか、ミスを糊塗したいという動機が生じがちです。

 こうした使用者側の主張に対抗するためには、見せてもらったらコピーをしておく/写真撮影をしておくといった手段が有効に機能することがあります。

 裁判所の判断は、周知性を否定するための立証活動を考えるにあたり、実務上参考になります。

 




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