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免職無効のその後の問題-職場復帰の期待権侵害を理由とする損害賠償請求が認められた例

1.解雇無効/免職取消

 解雇が違法無効であるとして地位確認請求が認められたり、免職処分が違法であるとして取り消されたりした場合、通常、労使間で復職に向けた協議が開始されます。そうした協議を通じ、労働者や公務員の方は、それぞれの居場所に戻って行くことになります。

 しかし、稀に司法判断の趣旨を十分に受け止めず、労働者らに賃金を支払いながら職場復帰を拒否したり、解雇・免職以前の職務内容とは懸け離れた嫌がらせとしか思えないような業務が割り当てたりする使用者もいます。

 こうした場合、労働者に対抗する手段はないのでしょうか?

 昨日ご紹介した甲府地判令5.6.27労働判例1332-70 富士吉田市(職場復帰期待権侵害等)事件は、この問題を考えるうえでも参考になる判断を示しています。

2.富士吉田市(職場復帰期待権侵害等)事件

 本件で原告になったのは、被告富士吉田市が設置、運営する病院(本件病院)の歯科口腔外科において歯科医師として勤務していた方です。パワハラ等を理由に懲戒免職処分が行われたことを受け、懲戒免職処分の取消訴訟を提起しました(本件懲戒免職処分)。裁判所は、被告が主張する非違行為のほとんどについて、これを認めるに足りる証拠はないなどとして、本件懲戒免職処分の取消請求を認めました。

 しかし、被告市長は記者会見の席上で「パワハラがあったということは絶対に間違いないと考えている」などと発言したうえ、判決確定後も原告を原職復帰させず、免職処分時以降の給与も支払わないと司法判断を無視した行動をとりました。

 これに対し、

① 懲戒免職処分時~前訴判決確定日までの未払給与、

② 職場復帰に対する期待権侵害を理由とする損害賠償、

③ 記者会見時の言動により社会的評価が低下したことを理由とする損害賠償

の支払を求める訴えを提起したのが本件です。

 冒頭に掲げたテーマとの関係で注目したいのは、②の請求です。

 裁判所は、次のとおり述べて、②の請求を認めました。

(裁判所の判断)

「証拠・・・によると、原告は、前訴において、本件懲戒免職処分の取消しを求め、本件懲戒免職処分前と同様の職場環境の下で本件病院において勤務するために本件訴訟を提起し、前訴判決確定後も、繰り返し本件病院において職場復帰を求めていることが認められ、そして、そもそも取消訴訟が、行政処分の取消しを求め、元の地位を回復することを目的として提起されることを併せ考えると、前訴判決確定により、原告には、本件病院において本件懲戒免職処分前と同様の職場環境において勤務する期待が生じているといえ、当該期待は、法的利益として保護されるべきである。

「一方、認定事実・・・によると、被告は、前訴判決確定後、原告に対し電話及び書面で連絡を取り、一部、職場復帰に向けたやり取りを開始していることが認められる。」

「しかし、認定事実・・・のとおり、被告は、原告が職場復帰をするに当たって、原告に対し、本件病院での口腔内スクリーニング業務への従事を通知しているところ、証拠・・・によれば、被告が予定していた口腔内スクリーニングとは、歯の状態や口の中の状態を確認するものにとどまり、一般歯科診療は予定されておらず、本件懲戒免職処分前に原告が担当していた周術期口腔機能管理・・・の一環としての口腔内スクリーニングともその内容も大きく異なっていたものと認められる。また、認定事実・・・のとおり、被告は、原告に対し、上記業務のために診察室として使用する場所についても、本件懲戒免職処分前の診察室ではなく、健診センターにて行うよう求めているところ、実際に健診センター内に用意されていた歯科セットは、一般歯科診療ができるような器材ではなかったことからすると、原告が令和2年7月の時点で本件病院において、本件懲戒免職処分前と同様の診察、治療を行うことは不可能であったといえる。」

「さらに、認定事実・・・によると、令和2年9月7日付け書面においてようやく、原告が従来使用していた歯科口腔外科の診察室の使用を可能とするために、歯科口腔外科の治療室を増設すべく作業に入っていると通知しているものの、認定事実・・・のとおり、令和3年1月22日の原告の職場復帰後も、器材や医療スタッフの不足により、診療は制限され、実際の診療も本件病院内の設備ではなく、原告が従前勤務していたいあい歯科の診察室を借りる形で行っており、結局、原告が本件懲戒免職処分前のように本件病院での外来患者の受入れを再開できたのは、令和3年10月6日の、前訴判決確定から約1年4か月後であった。」

「そうすると、原告は、約1年4か月もの間、本件病院において本件懲戒免職処分以前と同様の職場環境において勤務できるか否か、不安定な状態に置かれていたものといえることからすると、職場復帰への期待が侵害されたものというべきである。

そして、このような原告の上記期待権侵害の程度は大きく、その期待権侵害を慰謝するには100万円を下らないというべきである。

「被告は、本件病院の診療体制が、本件懲戒免職処分後から前訴判決確定までの3年7か月余りの間に変化していることから、原告の職場復帰はこの変化と折り合いをつけなければならず、また、原告が一般歯科診療を行う診察室の準備のために増設工事を行うことは予算の関係があるところ、被告としては十分に果たすべき義務を履行しているなどと主張するが、上述のとおり、原告に職場復帰を求めながらも器材やスタッフの整備が不十分であり、外来受入れ再開まで1年4か月もの期間が経過していること、認定事実・・・のとおり、原告が本件懲戒免職処分を受ける前に使用していた診察室には、歯科用治療ユニット椅子が2台あるのだから、原告の職場復帰に当たっては、常勤の医師が使用していない他方の椅子を使用する等の方法により、必ずしも新しい歯科口腔外科の診察室の増設を待たずとも、原告に対し、従前と同様の職場環境を用意することができたものと考えられることなどからすると、本件懲戒免職処分後の本件病院の体制の変化を踏まえても、被告において、前訴判決確定を踏まえた、原告の職場復帰のための環境を整備する義務を果たしたとはいえず、被告の主張は採用できない。」

3.解雇無効のケースに応用できるか、非専門職でも行けるか?

 本件は公務員に対する取消訴訟の事案です。公務員の任用関係と民間の労働契約とでは法的な性質が異なります。また、裁判所は就労請求権の存否について言及していませんが、歯科医師のような専門性の高い職種は就労請求権が認められやすい傾向にあります。こうした特性があることから、本判決の趣旨が民間の労働契約にも及ぶのか、就労請求権が認められにくい職種の労働者/公務員にも及ぶのかという問題は残ります。

 しかし、原職復帰を目的として法的措置に及ぶのは民間の労働者の場合も同じですし、本判決は歯科医師に就労請求権が認められることを理由にはしていません。本判決は射程を広く捉えられる可能性もあり、解雇無効・免職無効を勝ち取った後のトラブルに対処するにあたり、実務上参考になります。

 




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