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労働時間を労働者の概括的な主張に沿って認定することが許容され得ると判示された例

1.実労働時間の主張立証責任

 割増賃金(残業代)を請求するにあたっての実労働時間の主張立証責任は、原告である労働者の側にあります。したがって、割増賃金を請求するにあたっては、労働者の側で始業時刻・終業時刻を特定し、その間、労務を提供していたことを立証する必要があります。

 実労働時間の立証について言うと、タイムカード等の客観的証拠がある事案では、それほどの困難はありません。

 しかし、労働時間管理が完全に放棄されている会社では、実労働時間を立証するための記録がないことがあります。こうした会社に対して残業代を請求して行くにあたっては、立証責任のハードルを乗り越えるため、主張や立証の方法に工夫が必要になります。そうした工夫の一つに、推計計算や概括的主張と呼ばれるものがあります。これは文字通り日々の始業時刻・終業時刻を推計したり概括的に主張したりすることをいいます。

 一般論として言うと、裁判所は推計計算や概括的主張を簡単には認めないのですが、近時公刊された判例集に、労働時間を労働者の概括的な主張に沿って認定することを許容され得ると判示した裁判例が掲載されていました。一昨日、昨日とご紹介している、福岡地小倉支判令5.6.21労働判例1332-86 大栄青果事件です。

2.大栄青果事件

 本件で被告になったのは、農林水産物の売買を目的としていた清算中の株式会社です。

 原告になったのは、被告との間で期間の定めのない雇用契約を締結していた個人複数名(原告個人ら)と原告個人らが加入する労働組合(原告組合)です。この事件の原告個人らは未払割増賃金(いわゆる残業代)と付加金、退職金等を請求していました。

 本件では被告が労働時間管理を行っていなかったことから、原告個人らは次のとおり述べて、労働時間を概括的に認定すべきだと主張しました。

(原告らの主張)

「本件において、被告は労働時間の管理を一切していないこと、元々はタイムカードで管理をしていたのを止めて、自ら労働時間管理を放棄しており、対応が悪質であることから、原告個人らの労働時間は、自由な心証により概括的に認定されるべきである。この際、個別労働日によっては個別の証拠との関係で一定の齟齬が生じる可能性はあるが、かかる齟齬は許される。」

 これに対し、裁判所は、次のとおり述べて、原告の主張を採用しました。

(裁判所の判断)

原告個人らの主張する始業時刻及び終業時刻については、基本的には、おおよその記憶に基づく概括的な主張となっているところ、被告において始業時間及び終業時間の管理を目的とするタイムカード等が全く採用されていなかったことにも鑑みれば、客観的な証拠に反し、または明らかに不合理な内容を含むといった場合には格別、そうでない限りは、上記のように概括的な主張に沿って認定することも許容され得るとするのが相当である。

「これを本件について見るに、原告個人らの業務は、午前7時に開始されるセリに向けての準備から始まり、セリを経て、商品を販売先に配達する準備や在庫管理を行い、販売先への配達業務を行うという流れになっているところ、これら業務の流れからすれば、原告個人らの主張する始業時刻及び終業時刻は明らかに不合理な内容を含んでいるとは認められず、また、請求期間全体としてみた場合において、客観的な証拠に反するとまでは認められない。」

「そうすると、始業時刻及び終業時刻については、原告個人らの主張どおり認めるのが相当である。

3.概括的主張、概括的認定が許容された

 残業代請求の場面では、裁判所が推計計算や概括的認定に消極的な姿勢をとる結果、労働時間をきちんと管理している会社よりも、労働時間管理を完全に放棄している会社の方が得をする(立証の壁を利用して残業代の支払義務を踏み倒せる)という逆転現象が生じることが少なくありません。

 ただ、推計計算や概括的認定を採用した裁判例も少しずつ積み重なってはいます。本件はそうした裁判例群に一例を加えるものとして、実務上参考になります。

 




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