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高校教諭から生徒への言動がハラスメント(パワハラ)には該当しないとされた例

1.学校が独自に設けているハラスメント規程

 労働施策総合推進法30条の2第1項は、

「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」

と規定しています。

 男女雇用機会均等法11条1項は、

「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」

と規定しています。

 これらの規定に基づいて、事業主は、労働者がパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントの被害を受けないよう、必要な措置を講じて行く必要があります。

 しかし、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントから保護する必要があるのは、「その雇用する労働者」に限られるわけではありません。例えば、学校にとっての学生や生徒は、「その雇用する労働者」には該当しませんが、教師や職員からのハラスメントからは保護して行く必要があります。

 そのため、各事業者は、法律で定められているもののほか、独自にハラスメント防止規程を設け、保護される対象を拡張していることがあります。各大学が設けているアカデミックハラスメント防止規程などは、その典型です。

 大学でアカデミックハラスメント防止規程の整備が進むのと並行して、高校以下の教育機関でもハラスメント防止規程の作成も進められてきています。従来、教師⇒生徒へのセクシュアルハラスメントが問題となる事例は一定数あったのですが、パワーハラスメントの成否が問題とされた公表裁判例はそれほど多くなかったように思います。

 しかし、近時公刊された判例集に、高校教諭の生徒への言動のパワーハラスメント該当性が問題になった裁判例が掲載されていました。東京地判令7.1.29労働判例ジャーナル160-44 学校法人A事件です。

2.学校法人A事件

 本件で被告になったのは、中学校・高等学校(本件学校)を設置する学校法人です。

 原告になったのは、本件学校の英語専任教諭として、高等学校の2年生のクラス副担任を務めていた方です。高等学校の2年生に在籍していた生徒Eに対する言動がパワハラに該当するとして譴責処分とされたことなどを受け、その無効確認等を求める訴えを提起したのが本件です。

 問題となった言動の存否には争いがありましたが、裁判所で認められたのは、スタンフォード・イー・ジャパンのオンライン講座(本件講座)の参加のための推薦状(本件推薦状)の作成を依頼したところ、「この時期(期末試験期間中 括弧内筆者)どれだけいろんな書類作成で忙しいか分かっているの?」と発言したこと等です。

 被告のハラスメント防止規程では、

「パワハラ 職員が、職権などの力関係を利用して、相手の人格や尊厳を侵害する言動を繰り返し行い、精神的な苦痛を与えることにより、その人の学習、教育、研究及び労働の環境を悪化させたり、あるいは雇用不安を与えること」

と定義されていました。

 この定義規定を前提に、裁判所は、次のとおり述べて、原告の言動がパワハラに該当することを否定しました。

(裁判所の判断)

「本件で、被告は、本件推薦状の作成に関するやり取りにおける原告の本件生徒に対する言動につき、本件各懲戒処分対象事実の存在を認めた上、同事実は、原告の本件生徒に対するパワハラに当たり、本件就業規則40条6号所定の懲戒事由である『ハラスメントにあたる言動によって職員または児童・生徒等に不快な思いを抱かせたとき』・・・に該当すると主張する。」

「しかし、令和3年12月7日及び同月9日の原告の本件生徒に対する言動として認められるのは、前記・・・で述べた限度にとどまるため、前記・・・で認定した原告の本件生徒に対する言動(以下、当該言動を単に『本件言動』ということがある。)が上記懲戒事由に該当するか否かについて、以下、検討する。」

「本件ハラスメント防止規程2条6号は、同規程における『パワハラ』の意義につき、『職員が、職権などの力関係を利用して、相手の人格や尊厳を侵害する言動を繰り返し行い、精神的な苦痛を与えることにより、その人の学習、教育、研究及び労働の環境を悪化させたり、あるいは雇用不安を与えること』と定めている・・・。」

「前記・・・で述べたとおり、原告は、本件推薦状の作成について本件生徒とやり取りする中で、同月7日には、『この時期どれだけ色んな書類作成で忙しいか分かっているの?』と述べたり、本件生徒において本件参考資料等を原告に提出する日が同月11日では遅すぎる旨述べたこと、また、同月9日には、同月8日に本件生徒が本件参考資料等として提出した文書の不備を指摘し、同月13日に再提出するよう指示したことが認められる。

この点、前記認定事実・・・によれば、同月7日及び同月9日の本件生徒とのやり取りの際、原告としては、本件推薦状を期限内に提出するには時間的余裕がないという認識であり、焦りの気持ちもあったことから、本件生徒にも当該状況を理解してもらい、危機感を抱かせるため、相当程度厳しい言い方で、本件生徒に対して速やかに本件参考資料等の準備をするよう求めたことが認められる。そして、本件生徒は、原告の口調が攻撃的であるように感じたことや、期末試験期間中に本件参考資料等の準備もしなければならないことに不安ないしプレッシャーを感じたことなどから、同月7日の原告とのやり取り直後には、号泣し、過呼吸を起こすに至ったことが認められることからすれば、同月7日及び同月9日の原告の本件生徒に対する上記言動が、本件生徒に少なからず精神的苦痛を与えるものであったことは否定できない。

もっとも、原告の本件言動は、本件講座に参加したいという本件生徒の希望を叶えるため、期限内により良い内容の本件推薦状を提出することを目指して、原告において本件生徒が行うべき準備の内容やその期間について必要な指導を行う目的でなされたものと認められ、その内容や態様に照らし、客観的にみて、本件言動が、教員の生徒に対する指導の範囲を逸脱し、本件生徒の『人格や尊厳を侵害する』ようなものであったとまで評価することはできない。

したがって、原告の本件言動が、本件ハラスメント防止規程2条6号に規定する『パワハラ』に該当するものとは認められない。

「なお、被告は、ある行為が労働施策総合推進法に規定するパワハラに該当する以上は、当該行為は本件ハラスメント防止規程2条6号に規定するパワハラにも該当すると解すべきであるところ、本件各懲戒処分対象事実における原告の言動は、『学校において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、生徒の学習環境が害されるもの』として、労働施策総合推進法に規定するパワハラに当たるなどと主張するが、前記・・・で述べたところによれば、原告による本件言動は、その内容や態様に照らし、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであるとまでは評価し難く、本件言動が労働施策総合推進法に規定するパワハラに該当するものと解することもできない。」

「そうすると、令和3年12月7日及び同月9日の原告の本件生徒に対する言動について、本件就業規則第40条6号所定の懲戒事由である『ハラスメントにあたる言動によって職員または児童・生徒等に不快な思いを抱かせたとき』に該当するものとは認められない。」

3.パワハラ該当性が否定された

 上述のとおり、裁判所は、原告の方の言動のパワハラ該当性を否定しました。

 学校の教諭の方や、大学教員の方から生徒・学生へのハラスメントの加害者扱いされているという相談は結構多いのですが、対応をしていると、単なる厳しい言動に対し、学校が過剰反応をしているというケースをそれなりの頻度で目にします。

 本件は高校における教師から生徒へのパワハラの否定例として、実務上参考になります。

 




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