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過重業務による鬱病(うつ病)の発症から約2年後の自殺に相当因果関係が認められた例

1.精神障害の発症と自殺との間に時間的間隔がある場合

 鬱病(うつ病)等の精神障害への罹患が自殺に繋がることは少なくありません。

 そのため、加重業務などの強い心理的負荷を生じさせる出来事⇒精神障害の発症⇒自殺という一連の因果の流れが時間的に近接している場合、自殺の業務起因性は比較的容易に認められます。

 しかし、精神障害の発症から自殺に至るまでに長い時間が経過してしまっていると、自殺を業務の過重性と結びつけることができるのかが微妙になってきます。精神障害の影響以外の要因が自殺を引き起こしてしまったのではないのかという疑問を差し挟む余地が出てきてしまうからです。

 このような問題状況のもと、近時公刊された判例集に、精神障害の発症から自殺までに約2年の時間的間隔があったにもかかわらず、過重労働との因果関係が認められた裁判例が掲載されていました。奈良地判令4.5.31労働判例1330-53 奈良県(うつ病自殺)事件です。

2.奈良県(うつ病自殺)事件

 本件で原告になったのは、自殺した奈良県職員の遺族の方です。

 職員が自殺したのは、過重な業務に従事させられたことによる鬱病の発症、増悪が原因であるとして、損害賠償を請求したのが本件です。本件では自殺に公務起因性が認められており、公務災害であるという判断が先行しています。

 本件の特徴の一つは、鬱病の発症と自殺との間に相当な時間的間隔があったことです。平成27年4月上旬頃が鬱病の発症時期であったのに対し、自殺に至ったのは平成29年5月21日でした。

 このように鬱病の発症時期と自殺との間には2年近くの時間的間隔があったのですが、裁判所は、次のとおり述べて、業務の過重性と自殺との間の因果関係を認めました。

(裁判所の判断)

ア 業務の過重性とうつ病の発症との因果関係

「精神障害認定基準によれば、精神障害の発病時期については、特定が難しい場合があり、そのような場合でもできる限り時期の範囲を絞り込んだ医学意見を求めて判断し、強い心理的負荷と認められる出来事の前と後の両方に発病の兆候と理解し得る言動があるものの、どの段階で診断基準を満たしたのかの特定が困難な場合には、出来事の後に発病したものと取り扱うものとされている。」

「本件における亡Dの勤務状況を見ると、亡Dは、恒常的に長時間勤務に従事していたところ、平成27年3月23日から同年4月4日までは、13日間連続勤務をし、その大半の期間が深夜勤務に及び、当該期間の1か月当たりの勤務時間が100時間以上に及ぶものであること、亡Dは、この半年以上前から、業務の負担による疲労感を度々吐露し、教職員課からの異動を希望し、このころにもF課長補佐に給与システム担当に対する不安を述べ、異動希望を伝えていたこと、亡Dは、上記の連日に及ぶ長時間勤務の直後にうつ症状を訴えてクリニックを受診し、担当医は、うつ病の発症時期を平成27年4月頃と判断していること・・・からすると、亡Dは、教職員課のける過重な業務による長時間勤務が強い心理的な負荷となって心身の不調を来し、同年4月上旬頃にはうつ病に罹患したと認めるのが相当である。

「したがって、教職員課における過重な業務と亡Dのうつ病の発症との間には、因果関係が認められる。」

イ 業務の過重性と自殺との因果関係

「F課長補佐は、亡Dがうつ病を発症した頃、その事実は把握していなかったものの、亡Dの異動希望の訴え及び業務に関する意向を踏まえて、平成27年4月以降、給与システムのサポート職員を2名追加で配置するなど亡Dの業務負担の軽減につながる事務分掌の変更をするし、一方で、亡Dは、同月にクリニックに3回通院した後は、通院を自主的に止めた。」

「しかし、亡Dについては、その後も帰宅が深夜に及ぶことになる長時間の時間外勤務が続き、①平成27年10月には、亡Dの祖母が被告人事課を訪問し、亡Dの帰宅時間が深夜に及び、奇行が見られるとして異動を強く要望したり、②その頃、亡DもG係長に対して病院にかかりたいなどと相談したり、また、③同年12月から平成28年1月頃にかけてのF課長補佐との人事評価面談の際に亡Dが業務負荷を理由に降格及び異動を希望したりするなど、業務の負担は依然として大きかったものと認められる。」

「被告は、亡Dの祖母の来訪や亡Dの異動希望等を考慮し、本来の異動期ではなかったものの、人事課に対し、亡Dの異動が可能である旨の意見を出し、亡Dは、平成28年4月、砂防・災害対策課に異動したものの、不眠、憂うつ、疲労感を訴えて、すぐにクリニックへの通院を再開し、恒常的な時間外勤務を伴う長時間労働から解放されることがないまま、通院を継続し、平成28年11月から死亡に至るまでの約6か月間の時間外勤務時間は月平均70時間程度に及んでいたのである。」

以上の事実経過によれば、亡Dは、平成27年3月から4月にかけての過重労働によりうつ病を発症した後、一時的に通院頻度が減少した期間があったものの、恒常的な長時間労働から解放されることはなく、うつ病の状態が改善されないまま、砂防・災害対策課でも長時間の業務に従事することとなり、更なる過重業務による心身の負担にさらされた結果、自殺するに至ったと認められる。

「なお、亡Dは、平成16年、平成21年にうつ病でクリニックに通院歴があったが、その後は私生活においても心身の健康を損なうような出来事はなく、最終通院日から本件のうつ病の発症まで約6年が経過していることから、本件の亡Dのうつ病の罹患及び自殺が過去のうつ病の影響によるものとは認められない。」

3.状態の改善がされていない

 以上のとおり、裁判所は、因果関係の判断を、

業務の過重性と鬱病、

業務の過重性と自殺、

の二段階で検討しています。

 そのうえで、状態が改善されていないことに触れ、加重業務と自殺との間の因果関係を認めました。

 教職員課の加重業務を指しているのか、砂防・災害対策課の加重業務を指しているのかが今一はっきりとはしませんが、いずれにせよ、因果関係は肯定されています。

 精神障害の発症から自殺に至るまでに長期間経過している事案は相当数あります。本件でも一時的に軽快していた節がありますが、職場もメンタルに不調を抱えた職員を漫然と放置してばかりいるわけではないからです。

 本件は精神疾患の発症と自殺とが時間的に離れている事案における主張立証の在り方を考えるにあたり、実務上参考になります。

 




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