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未払残業代についての訴訟提起で、未払役職手当の時効完成を阻止できるか?

1.訴訟中の請求の拡張(訴えの追加的変更)

 労働事件には、

契約(ないし就業規則等の諸規程類)で定められている内容が多岐に渡っており、法律関係が複雑である、

契約の存続期間が長期に渡っていて、その間、しばしば法律関係が変更されている、

資料の多くが使用者側に偏在している、

という特徴があります。

 こうした特徴があるため、労働者側が訴訟提起するにあたっては、訴えの提起時に全ての請求権を捕捉できないことがあります。そのため、訴訟提起中に請求の拡張(訴えの追加的変更)を行うことは少なくありません。

 ここで問題になりやすいのが、時効との関係です。

 民法147条1号は「裁判上の請求」を時効の完成猶予事由として規定しています。言い換えると、裁判上の請求をしている場合、裁判が終了するまでの間は、時効が完成することはありません。

 しかし、「裁判上の請求」で時効の完成が猶予される範囲については、条文の字面からは分かりません。

 例えば、残業代を請求する訴訟を提起した場合、時効の完成が猶予される範囲は、未払役職手当の支払を請求する権利にも及ぶのでしょうか?

 近時公刊された判例集に、この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、大阪地判令7.1.30労働判例ジャーナル159-22 トーアスポーツマシーン事件です。

2.トーアスポーツマシーン事件

 本件で被告になったのは、野球用ピッチングマシーン等の運動競技用器具の製造販売等を業とする株式会社です。

 原告になったのは、被告で営業部長として働いていた方です。残業代のほか、在職中に減額された役職手当の支払等を求めて被告を提訴したのが本件です。

 本件は令和4年11月22日に割増賃金(残業代)の支払が求めて提訴された後、令和5年6月20日に未払役職手当の支払を求める請求が追加されたという経緯があり、未払役職手当の一部が消滅時効にかかっているのではないかが争点の一つになりました。これは、残業代請求訴訟を提起した時点で、未払役職手当にまで時効完成猶予の効力が及んでいるのかという問題です。

 裁判所は、次のとおり述べて、時効は完成していないと判示しました。

(裁判所の判断)

1個の債権の一部についてのみ判決を求める趣旨が明示されずに訴えを提起した場合には、訴えの提起により、当該債権の同一性の範囲内において、その全部につき時効の完成猶予の効力を生ずるものと解するのが相当である(最高裁判所昭和45年7月24日第二小法廷判決・民集24巻7号1177頁参照)。

これを本件についてみると、原告は割増賃金及び付加金の支払を求めて本件訴訟を提起しており、割増賃金請求の法的根拠は労働契約に基づく賃金請求権とみるのが自然であるところ、訴状において債権の一部についてのみ判決を求める趣旨を明示した事実は認められない(なお、訴状には退職金の差額請求を追加予定である旨記載されているが、飽くまで将来的に請求を追加する予定を示したものにすぎず、実際にはその後も退職金請求が追加されなかったことにも照らすと、未払退職金の存在を確定的に主張する趣旨とは解されない。)。

そうすると、本件訴訟の提起による時効の完成猶予の効力は、労働契約に基づく賃金請求権の範囲内において生じ、未払役職手当請求権にも及ぶものと解するのが相当である。

「したがって、令和2年4月27日支払分及び同年5月27日支払分の未払役職手当請求権については、令和4年11月22日にされた訴え提起により、時効の完成が猶予されているから、消滅時効は成立しない。」

「以上によれば、被告は、原告に対し、令和2年4月支払分から令和3年4月支払分まで、毎月27日限り、月額2万円の未払役職手当を支払う義務を負う。」

3.「賃金項目」ではなく「賃金」で括られた

 未払残業代と役職手当とは、賃金項目としては異なります。

 しかし、裁判所は「賃金」という括りで見れば同じであるとして、未払残業代の請求に未払役職手当の時効完成猶予効が及ぶことを認めました。この判断は、残業代請求を行うにあたり、実務上参考になります。

 なお、裁判所は一部請求であるという明示がないことを前提とした判断ですが、最一小判平25.6.6最高裁判所民事判例集67-5-1208は、

「明示的一部請求の訴えにおいて請求された部分と請求されていない残部とは,請求原因事実を基本的に同じくすること,明示的一部請求の訴えを提起する債権者としては,将来にわたって残部をおよそ請求しないという意思の下に請求を一部にとどめているわけではないのが通常であると解されることに鑑みると,明示的一部請求の訴えに係る訴訟の係属中は,原則として,残部についても権利行使の意思が継続的に表示されているものとみることができる。」

「したがって,明示的一部請求の訴えが提起された場合,債権者が将来にわたって残部をおよそ請求しない旨の意思を明らかにしているなど,残部につき権利行使の意思が継続的に表示されているとはいえない特段の事情のない限り,当該訴えの提起は,残部について,裁判上の催告として消滅時効の中断の効力を生ずるというべきであり,債権者は,当該訴えに係る訴訟の終了後6箇月以内に民法153条所定の措置を講ずることにより,残部について消滅時効を確定的に中断することができると解するのが相当である。

と判示しています。

 以上の判示に鑑みると、退職金の差額請求を予告していたことを捉え、原告の請求を残業代に限定した明示的一部請求だったと理解したとしても、役職手当を請求しない意思を明確にしていない限りは、結局、時効完成猶予効の対象となるのではないかとも思われます。

 




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