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退職勧奨に続くキャリアを無視した配転(マーケティング部マネージャー⇒掃除、片付け、粗大ごみ担当)が違法とされた例

1.退職勧奨に引き続いて行われる配転命令

 退職勧奨については、

基本的に労働者の自由な意思を尊重する態様で行われる必要があり、この点が守られている限り、使用者はこれを自由に行うことができる。・・・これに対し、使用者が労働者に対し執拗に辞職を求めるなど、労働者の自由な意思の形成を妨げ、その名誉感情など人格的利益を侵害する態様で退職勧奨が行われた場合には、労働者は使用者に対し不法行為(民法709条)として損害賠償を請求することができる。」

と理解されています(水町勇一郎『詳解 労働法』〔東京大学出版会、第2版、令3〕996頁参照)。

 このようなルールが採用されていることもあり、明確に拒絶すると伝えれば、それ以上、退職勧奨が継続することは、それほど多くありません。

 しかし、それで会社が退職させることを諦めるかといえば、必ずしもそうではありません。明示的な退職勧奨を継続できない中で何が行われるかというと、最も典型的なのは配転命令権の行使です。

 配転命令権が権利濫用となる要件について、最高裁判例(最二小判昭61.7.14労働判例477-6 東亜ペイント事件)は、

「使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に、労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することの許されないことはいうまでもないところ、当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であつても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもつてなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである。右の業務上の必要性についても、当該転勤先への異動が余人をもつては容易に替え難いといつた高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである。

と判示しています。

 この規範の特徴は、会社側に極めて広範な裁量が認められていることです。

 企業の合理的運営に寄与する限り、業務上の必要性は認められます。後は、

不当な動機・目的が立証された場合か、

通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合

でない限り、配転命令は違法になりません。

 目的のような主観的な要件の立証は容易ではありませんし、「通常甘受すべき程度を著しく超える」などという枕詞のついた不利益性を立証することも簡単ではありません。このように、配転命令権行使の可否について会社側に極めて有利なルールが採用されていることを利用して、従前のキャリアを無視した配転命令を実行し、労働者を自主退職するように促します。これが問題視されると「退職勧奨に応じないと言われた。解雇を回避するためには配転を行うしかなかった。退職を強要する目的などない。」と反論されます。

 これは退職させることを諦めない会社がとる典型的なパターンですが、近時公刊された判例集に、この手法を否定した裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、東京地判令5.4.28労働判例1328-71 メドエルジャパン事件です。

2.メドエルジャパン事件

 本件で被告になったのは、聴覚障害者用の人工内耳など聴覚インプラントの輸入・販売を行う株式会社です。

 原告(昭和39年生)になったのは、平成22年に被告にマーケティング部のオペレーティングマネージャーとして入社した方です。違法なパワーハラスメント行為や配転命令によって精神的損額を被ったなどと主張して、被告に対して慰謝料等を請求する訴えを提起したのが本件です。本件は原告の在職中に訴訟提起されている点にも特徴があります。

 原告が主張するパワーハラスメント行為は複数に上りますが、その中の一つに、

原告をマーケティングマネージャーから総務アシスタントに配置転換及び降格をし

(本件配転命令〔1〕)、原告の職歴に全く合致しない業務(掃除、片付け、粗大ごみ担当)に就かせた

ことがありました。

 これは退職勧奨に引き続いて行われたものですが、裁判所は、次のとおり述べて、上記行為の違法性を認めました。

(裁判所の判断)

「被告は平成24年12月1日に本件配転命令〔1〕を行っているところ、被告には配転命令に関する就業規則の定めが存在し、被告は原告に対する配転命令権を有していることが認められる・・・。」

「もっとも、配転命令権の行使も濫用にわたることは許されず、当該配転命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合でも、当該配転命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなど、特段の事情が存する場合は、人事権の濫用となると解される(最高裁昭和59年(オ)第1318号同61年7月14日第二小法廷判決・集民148号281頁参照)。」

「以上を踏まえて本件を見るに、被告は、原告はマーケティング業務に従事する適性がなかったが、小規模会社で他の業務への配転も容易ではなく、総務担当に配置転換することに業務上の合理的理由があったと主張する。」

「この点、c社長は、原告について自己中心的な就業態度や他者との協調性の欠落などを繰り返し指摘しているものの、本件証拠を精査しても、そのような判断に至った具体的な出来事の詳細は不明である上、原告はc社長の指摘に反論をしており・・・、原告に一方的に非のある問題なのか判然としない。また、被告が、原告の上記課題を踏まえて、どのように改善に向けた指導を行い、どのように原告の能力に適した業務内容ないし配置を検討したかも証拠上明らかでない。以上によれば、仮に原告に一定の課題があったとしても、原告の従前の職歴と明らかに異なる掃除等の担当にせざるを得ない業務上の必要性がこの時点であったと直ちに認めるのは困難である。

「また、前記・・・のとおり、本件配転命令〔1〕は原告が一連の退職勧奨を拒絶した後に行われていること、同命令の前後を通じてc社長は原告を精神的に追い込む発言を続けていること、本件配転命令〔1〕の後には半額以上に及ぶ本件賃下げ〔1〕を行っていることからすれば、本件配転命令〔1〕は、退職勧奨を拒否した原告を退職に追い込むため、又は合理性に乏しい大幅な賃金減額を正当化するためであったと推認せざるを得ない。

「以上によれば、本件配転命令〔1〕は人事権を濫用して行われたものと認められるから違法である。」

3.典型パターンが崩れた事案

 以上のとおり、本件では会社側の鉄板とも言える主張が通用しませんでした。

 判決文を見る限り、

従前のキャリアと断絶した業務の担当にせざるを得ないことの必要性を十分に説明できなかったこと、

退職勧奨拒絶後に行われているというタイミング、

配転命令後も精神的に追い込む発言が継続されていること、

大幅な賃金減額が伴われていること、

が効いているように思われます。

 個人的に注目しているのはキャリアの断絶に対して一定の配慮が示されたことです。古い裁判例には労働者のキャリア形成への配慮に乏しいものが少なくありませんが、近時、労働者のキャリア形成上の利益に対して理解を示す裁判例が増えてきつつあるように思います。終身雇用が崩れている中、転職市場で通用するだけのキャリアを形成することの重要性は高まっており、こうした裁判所の傾向は積極的に評価できます。

 




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