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未払賃金立替制度の落とし穴-解雇の効力を争う係争中に会社が事業活動を停止(事実上の倒産)してしまった場合の留意点

1.地位確認等請求訴訟と未払賃金立替制度

 解雇の効力を争う場合、労働者側は解雇が無効であることを前提に、労働契約上の権利を有する地位の確認と賃金の支払いを請求する訴えを提起します。この訴訟に勝つと、裁判所は、労働契約が存続していることを認めたうえ、相手方会社に解雇日から判決確定に至るまでの賃金の支払いを命じてくれます(バックペイ)。

 しかし、時々、係争中に相手方会社が倒産してしまうことがあります。

 この「倒産」が破産法に基づく破産申立であれば話は簡単なのですが、中には事業活動を停止しているにもかかわらず、破産申立をすることもなく、応訴活動だけは続けるという会社もあります。

 こうした場合、労働者側としては二つの選択があります。

A案:勝訴しても実益がない(働く場所もなければ賃金も回収できない)として訴えを取り下げてしまう、

B案:気にせず、勝ち切るため、訴訟を追行する、

の二つです。

 B案が選択肢の一つになるのは「未払賃金立替制度」を当て込んでのことです。

 未払賃金立替制度とは、

「労働者とその家族の生活の安定を図る国のセーフティネットとして、企業倒産に伴い賃金が支払われないまま退職した労働者に対し、『賃金の支払の確保等に関する法律』・・・に基づいて、その賃金の一部を政府が事業主に代わって立替払する制度」

をいいます。

Ⅰ未払賃金の立替払制度の概要

https://www.johas.go.jp/Portals/0/data0/kinrosyashien/pdf/tatekaebaraiseido_annnai_R402.pdf

 ここで言う「企業倒産」には法律上の破産だけではなく、事実上の倒産も含まれます。そのため、

労働契約が存続していることの確認を受けたうえ、

蓄積したバックペイを未払賃金立替制度を使って回収する、

という訴訟戦略が成立します。

 しかし、こうした戦略を行うには注意が必要です。未払賃金立替制度の利用条件は非常に複雑で、どこに落とし穴があるか分からないからです。近時公刊された判例集にも、事業活動を停止した会社を相手取って地位確認等請求事件で勝ち切ったにもかかわらず、未払賃金の支払を受けられなかった裁判例が掲載されていました。東京地判令6.11.25労働判例ジャーナル158-40 国・三田労基署長事件です。

2.国・三田労基署長事件

 本件で原告になったのは、不動産の売買や管理等を目的とする株式会社E(本件会社)の従業員であった方です。

 本件会社は平成30年6月5日付けで原告を懲戒解雇しました(本件解雇)。

 原告の方は本件解雇が無効であるとして、地位確認等請求訴訟を提起しました。途中、被告は事業活動を停止しましたが、令和3年2月15日に勝訴判決(労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、未払賃金の支払いを命じることなどを内容とする判決)が言い渡されました。

 令和3年2月26日、原告は処分行政庁(三田労働基準監督署長)に対して未払賃金の立替を求めるにあたり、本件会社が事実上倒産していることの認定を申請しました。

 しかし、処分行政庁は法所定の要件を満たさないとして、不認定処分を行いました。

 処分行政庁が不認定処分を行ったのは、

認定申請書を退職の日の翌日から起算して6か月以内に提出していないから、

というものでした。

 これは、

「第二項の申請書の提出は、退職の日の翌日から起算して

六月以内に行わなければならない」

と規定する賃金の支払の確保等に関する法律施行規則9条4項に基づく措置です。

 ここで多くの方は、

「退職(本件解雇)の効力が生じていないとして頑張って勝ち切ったはずなのに、なぜ退職して6か月以上経過していることになっているのか?」

という疑問を抱くのではないかと思います。

 本件の原告も納得することはなく、国を相手取って不認定処分の取消を求める訴えを提起しました。

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、原告の請求を棄却しました。

(裁判所の判断)

「法7条による未払賃金の立替払制度は、企業の倒産により賃金の支払を受けることが困難となった労働者の当面の生活を救済するため、国が未払賃金の一定の範囲を立替払するものであり、同条・同法施行令2条1項4号・規則8条により、破産手続開始決定等の法的手続がとられない場合であっても、事業主が『事業活動が停止し、再開する見込みがなく、かつ賃金支払能力がないこと』(事実上の倒産状態にあること)を労働基準監督署長が認定することで、上記法的手続がとられた場合と同様に、未払賃金の立替払を行い労働者の救済を図ろうとするものである。」

「また、規則9条4項は、労働基準監督署長に対する事実上の倒産状態にあることの認定申請書の提出を労働者の『退職の日の翌日から起算して6月以内』に行わなければならないと規定するところ、これは、事実上の倒産の場合における未払賃金の立替払に関する法律関係を早期に確定させるため、上記の認定申請の除斥期間を定めたものと解される。」

「このような立替払制度及び除斥制度の各趣旨に鑑みれば、規則9条4項の『退職の日』とは、当該労働者が退職の意思表示をした場合に限定されるものではなく、契約期間の満了、解雇等による雇用契約関係の終了の場合を含むほか、企業が事実上倒産して事業活動を廃止し、その結果労働者の就労が不可能となることで雇用契約が終了したと解される場合も含むものというべきである。

(中略)

「本件会社は、遅くとも同年7月31日時点で事実上倒産し、事業活動を廃止していたものと考えられ、本件会社が本件申請日(令和3年2月26日)の6か月前(令和2年8月26日)まで事業を継続していたとは認められない。」

(中略)

原告は、本件会社が事実上倒産して事業活動を廃止した時点で別件訴訟を提起しており、その時点から6か月が経過した後に別件判決が言い渡されたことから、別件判決の言渡し日を『退職の日』と解すべき旨主張する。

しかしながら、原告と本件会社との間の雇用に関する法律関係と、原告と被告との間の規則9条4項所定の企業の事実上の倒産の認定申請に係る除斥期間に関する法律関係とは、その目的及び内容を異にするものであり、前者において別件訴訟が係属中であることをもって直ちに後者の除斥期間の進行に影響を与えるものとは解されない。また、規則9条4項は、除斥期間の適用について、労働者らの個別の事情によらず、企業の事実上の倒産という客観的な事実により一律に定めようとしているものと解されるから、別件判決の存在により『退職の日』の認定は左右されない。

以上によれば、令和3年2月26日にされた本件申請は、『退職の日の翌日から起算して6月以内』にされたものとは認められず、不適法であるから、本件処分に違法はない。

3.非常に酷ではないかと思うが・・・

 退職していないと言って頑張っているのに、

「企業が事実上倒産して事業活動を廃止し、その結果労働者の就労が不可能」

となった場合も、未払賃金立替制度との関係では「退職」にあたるという解釈を条文の文言から読み取れというのは無茶な話ではないかと思います。

 また、働いていたのであればともかく、職場から締め出されている労働者にとって、相手方会社が何時事業活動を停止したのかなど分かりようがありません。相手方が応訴活動を継続していれば、活きている会社だと思うのが普通です。事業活動を停止しているのかを調べようという契機がありません。

 しかし、裁判所は、

「企業が事実上倒産して事業活動を廃止し、その結果労働者の就労が不可能」となった場合も、未払賃金立替制度との関係では「退職」に該当し、その時点から6か月の期間制限が進行する、

民事訴訟で解雇の効力を争って係争していたとしても例外は認めない、

という判断をしました。

 労働者側に酷に過ぎる判断でないかと思われますが、未払賃金立替制度の利用を視野に入れた訴訟戦略をとるにあたっての落とし穴の一つとして、本判決の存在は、実務上、留意しておく必要があります。

 




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