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勤務態度不良を理由とする普通解雇事案で、3年以上前の問題行動(勤務態度に関する問題)をもって解雇の社会的相当性を基礎付けることが否定された例

1.過去の行為の蒸し返し

 解雇無効を主張する事件でも、懲戒処分の効力を争う事件でも、必ずと言っていいほど問題になることの一つに、過去の行為の取扱いがあります。

 解雇には解雇事由、懲戒処分には懲戒事由があります。普通に考えれば、解雇事由、懲戒事由を構成する事実の存否や評価を争うだけでも良さそうに思います。しかし、使用者側からは「経緯」と称して膨大な事情が主張されるのが通例です。個人的に経験した最も酷いものでは、約10年前まで遡って延々と問題行動を主張されたこともあります。これは労働事件の平均審理期間が通常事件よりも長くなる一因となっています。

 しかし、あまりに昔の出来事を持ち出すことに何の意味があるのかはよく分かりません。所詮、解雇事由でも懲戒事由でもない単なる「経緯」にすぎず、時間と労力を費やす割に、訴訟の帰趨を決めるような影響力は持っていないように思います。近時公刊された判例集にも、3年以上前の問題行動を理由として、解雇の社会的相当性を基礎付けることを否定した裁判例が掲載されていました。東京地判令6.10.4労働経済判例速報2578-19 A東京事件です。

2.A東京事件

 本件で被告になったのは、貨物自動車運送事業等を業とする株式会社です。

 原告になったのは、被告と雇用契約を締結し、大型牽引用貨物自動車(トレーラー)を運転し、荷物の集荷、運搬等を行う業務に従事していた方です。コンビニエンスストア(本件店舗)駐車場において、原告使用の被告所有車両(本件自動車)の運転席タイヤ付近で放尿したことを理由として普通解雇されたことを受け、その無効を主張し、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。

 放尿行為は令和4年8月2日でしたが、本件も類例に漏れず、被告による過去の行為の蒸し返しが行われました。

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、3年以上も前の問題行動が解雇の社会的相当性を基礎付けることを否定したうえ、本件解雇は無効だと判示しました。

(裁判所の判断)

「本件行為自体は1回の行為であり、同様の行為が複数回行われる中で本件行為が行われたと認めるに足りる的確な証拠はないこと、本件行為後、原告が複数回被告との面談に応じ、被告に始末書を提出し、原告訴訟代理人弁護士を通じ協議の意向を示していたこと、原告が本件車両内の片付け等について被告から指導を受けたと認めるに足りる的確な証拠がなく、本件車両内部に業務書類が存在したことをもって直ちに運転手としての就業に適しないとまでは認められないこと、原告が車外を清掃しないことにより本件車両を大きく汚損したと認めるに足りる証拠がないこと、原告の運転手としての業務について、遅刻や欠勤はなく、原告が与えられた業務を行い、他に特段の問題までは認められないことからすれば、被告が主張するその余の事情を踏まえ検討しても、原告の勤務成績が不良で就業に適さず、又は、これに準ずる重要な事由があるとして、上記各解雇事由に該当するとまでは認めるに足りない。」

(中略)

「仮に原告が上記各解雇事由に該当すると認められたとしても、上記・・・の事情に加え、本件行為が、第三者によりDに連絡される事態となったものの、本件行為当時に本件車両がEの名称が記載されたトレーラーを牽引しておらず、Eとの取引に影響を及ぼしていないこと、本件行為は故意に本件車両を汚損する行為であるが、本件車両の使用が困難になるなどしたという事情までは直ちに認められないこと、原告が本件車両の清掃等を怠ったことによって被告の業務に影響を及ぼしたとまでは認められないこと、原告が過去に懲戒処分等を受けたことがないことからすれば、被告が主張するその余の事情を踏まえ検討しても、本件解雇が社会通念上相当であるとは認められない。」

この点、原告について、平成31年2月の出社時にアルコールチェッカーを使用した際、呼気からアルコールが検出されたことがあったこと(ただし、その後、運転可能な状態となった。)や、令和元年10月に台風接近の際の安否確認に問題があったことが認められる。しかし、これらは、本件行為より3年以上前のことであり、それ以上の行為を認めるに足りる的確な証拠がない上、原告の勤務態度に関する問題という点では共通するものの、原告が同種の不適切行為を繰り返したとまでは認められないことやそれ以外の原告の運転手業務に特段の問題までは認められないことからすれば、これらをもって、本件解雇が社会通念上相当であるとは認められない。

(中略)

「以上によれば、本件解雇は、解雇事由があるとまでは認められないか、仮に解雇事由があるとしても、社会通念上相当であると認められないから、無効である。」

3.同じカテゴリーの問題行動でも平穏無事に勤務していれいば加重対象から外せる

 上述のとおり、裁判所は、3年以上も前のことであるとして、呼気からアルコールが検出された事象、安否確認に問題があった事象が解雇の社会的相当性を基礎付けることを否定しました。

 本件で興味深く思ったのは、過去の出来事が「勤務態度に関する問題という点では共通する」と同カテゴリーで括られていることです。異種の問題行動よりも同種の問題行動の方が処分を加重する情状になりやすい傾向にありますが、裁判所は「勤務態度に関する問題」で括れる事象についても、同種の不適切行為を繰り返したとまでは認められないとして、過去の出来事を重視しない判断をしました。

 以前、非違行為の蒸し返しに限度があることをお伝えしましたが、

懲戒処分-2年前の非違行為を蒸し返せるか? - 弁護士 師子角允彬のブログ

本裁判例も過去の出来事の蒸し返しを防いで行くにあたり、実務上参考になります。

 




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