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技術等の進歩が速く、競争の激しい分野において、2年の競業禁止期間は長いとされた例

1.退職後の競業避止義務を定める合意

 就業規則等で従業員の退職後の競業が禁止されていることがあります。

 こうした退職後の競業避止義務を定める合意の効力は、一般に、次のとおり理解されています。

「就業規則によって退職後の競業行為を禁止したとしても、退職後には労働者に職業選択の自由(憲22条)が保障されていることに照らし、その競業禁止規定の効力を無制限に認めることはできない。多くの裁判例は、①退職時の労働者の地位・役職、②禁止される競業行為の内容、③競業禁止の期間の長さ・場所的範囲の大小、④競業禁止に対する代償措置の有無・内容等を考慮し、合理的な範囲でのみ競業禁止の効力を認めている・・・。なお、最近の裁判例は、制限の期間、範囲を必要最小限にとどめることや、一定の代償措置を求めるなど、厳しい態度をとる傾向にあると指摘されている。」(佐々木宗啓ほか『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』〔青林書院、改訂版、令3〕595頁参照)。

 以上の記述からも分かるとおり、競業避止義務を定める合意の効力は、

競業禁止期間が長くなればなるほど否定されやすく、

競業禁止期間が短くなればなるほど肯定されやすい、

という相関性があります。

 しかし、競業避止義務を定める合意の効力の有無が、期間の長短だけを要素とするものではないことも相俟って、何をもって「長い」「短い」というのかは、それほど明確ではありません。

 こうした不明確性の中で、実務上の指標とされていたものに、平成25年3月に公表された「平成24年度 経済産業省委託調査 人材を通じた技術流出に関する調査研究
報告書」という資料があります。

https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/houkokusho130319.pdf

 この資料の中で、競業避止義務期間について、

「1年以内の期間については肯定的に捉えられている例が多い。」

「近年は、2年の競業避止義務期間について否定的に捉えている判例が見られる。」

という記述があります。これを手掛かりに、

競業避止義務を定める合意の期間は、1~(長くて)2年程度

というのが実務家の相場観を形成しているように思われます。

 こうした状況の中、2年の競業禁止期間を否定的に理解した裁判例が、また一つ、近時公刊された判例集に掲載されていました。昨日もご紹介した、東京地判令6.9.24労働経済判例速報2577-7 ビットウェア事件です。

2.ビットウェア事件

 本件で原告になったのは、コンピュータハードウェア・ソフトウェアの開発、製造、販売業務等を目的とする株式会社です。

 被告になったのは、

原告の代表取締役を退任後、原告との間で労働契約を締結し、従業員として働いていた方(被告P1)、

被告P1の部下として原告の従業員として働いていた方(被告P3)、

IT産業に関するソフトウェア及びシステムの設計等を目的とする株式会社(被告会社)、

被告会社の代表取締役であった方(被告P4)

の4名です。

 本件の原告は、被告らの競業行為について、

営業秘密を利用した不正競争行為である、

就業規則に定められている競業禁止規定に違反している、

などと主張し、損害賠償を請求する訴えを提起しました。

 競業禁止規定違反との関係で言うと、原告会社の就業規則には、

「従業員は在職中、退職後2年間は、会社と競業する企業に就職したり、役員に就任するなど直接・間接を問わず関与したり、または競業する企業を自ら開業したりしてはならない。なお、本条に違反した場合は、それにより会社が被った一切の損害を賠償する責任を負う。」

という規程がありました。

 本件ではこの規定に基づく退職後の競業避止義務の有無が問題になりました。

 この事案で、裁判所は、次のとおり述べて、退職後の競業避止義務を否定しました。

(裁判所の判断)

使用者と労働者の間に、労働者の退職後の競業避止義務を定める合意があり、それが使用者の正当な利益の保護を目的とするものであったとしても、何人にも職業選択の自由が保障されていること(憲法22条1項)からすれば、労働者の契約期間中の地位、競業が禁止される業務、期間、地域の範囲、雇用者等による代償措置の有無等の諸事情を考慮し、その合意が合理性を欠き、労働者の上記自由を不当に害するものであると認められる場合には、公序良俗に反するものとして無効となると解すべきである。そして、本件においては、原告と被告P1及び被告P3との間で競業避止義務を定めた個別の合意はされていないことから、本件就業規則中の本件競業禁止規定につき、基本的には前記の諸事情を考慮してその効力を検討し、労働契約法7条に基づいて原告と被告P1及び被告P3との間の労働契約の内容となるかを判断するのが相当であるが、本件就業規則はパートタイム労働者等を除く原告の全ての労働者に適用されるものであるから(本件就業規則2条)、その合理性を検討する際に、特定の労働者の契約期間中の地位や代償措置の内容等の個別事情を考慮することはできないというべきである。」

「本件競業禁止規定は、その文理に照らせば、在職期間中の地位、役職等に関係なく、退職後にその職種や態様を問わず、競業企業に直接又は間接に関与する行為を包括的に禁止するものであり、特に、被告P1及び被告P3を含む原告のSEについては、人材派遣会社から競業企業に派遣されることにより、又は個人的な紹介等を通じて、競業企業の指示の下にシステム開発等の業務の一部に従事するにすぎないような場合であっても、禁止の対象とするものと解さざるを得ず、SEが退職後にその知識、技術、経験を生かしてシステム開発等の業務を継続することを事実上不可能とする点において、競業が禁止される業務の範囲が広汎に過ぎるものといわざるを得ない。また、本件競業禁止規定の定める競業が禁止される期間は2年とされているところ、証拠(被告P1、被告P3)及び弁論の全趣旨によれば、システム開発の分野においては、その技術等の進歩が速く、競争が激しいことが認められることを考慮すると、原告のSEは、原告を退職してから上記期間が経過するまでの間に、SEとして活動することができず、その知識、技術、経験等が陳腐化することなどによって、その後、再びSEとして活動することについて困難を来す可能性も否定できない。そして、本件競業禁止規定においては、競業が禁止される地域の範囲についての限定も一切されていない上、本件就業規則51条においては、退職金を支給しないことが明文で定められており、従業員が本件競業禁止規定の適用を受けることの代償措置があるなどの事情もうかがわれない。」

「以上の事情を総合的に考慮すると、本件競業禁止規定のうち退職後の競業避止義務を定める部分は、合理性を欠き、労働者の職業選択の自由を不当に害するものであるから、公序良俗(民法90条)に反し、無効となるというべきである。」

2.技術等の進歩が速く、競争の激しい分野において2年は長い

 上述のとおり、裁判所は、

「システム開発の分野においては、その技術等の進歩が速く、競争が激しいことが認められること」

を考慮すると、2年の競業避止期間は、

「その知識、技術、経験等が陳腐化することなどによって、その後、再びSEとして活動することについて困難を来す可能性も否定できない」

と述べ、競業避止期間に否定的評価を与えました。

 「技術等の進歩が速く、競争が激しい」というのは、SEに限らず、大抵の業界に当てはまります。

 また、本件の裁判所は、

競業できなくても、その間、勉強していれば技術は維持できるではないか

といった考え方は採用せず、

知識、技術、経験等の陳腐化を防ぐためには、その仕事に就き続けることが重要だ

という考え方を基礎に置いているように思われます。これはSEに限らず専門職労働者全体にとって好ましい判断だと思います。

 裁判所が述べているロジックは、様々な場面で応用することが可能であり、実務上参考になります。

 




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