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復職拒否(就労拒否)をしていることは、懲戒処分に先立つ弁明手続を省略する理由になるか?

1.懲戒処分と弁明の機会付与

 懲戒処分と弁明の機会付与の関係は、次のように理解されています。

「懲戒処分を行うにあたっては適正な手続を踏むことが必要である。労働協約や就業規則上,労働組合との協議や懲戒委員会(賞罰委員会)の開催等の手続を経ることが規定されている場合には,その手続を経ずになされた懲戒処分は原則として無効となる。懲戒委員会等では,事実関係を具体的に明らかにしたうえで,懲戒事由該当性や懲戒処分の必要性・相当性を具体的に検討することが求められる。これらの手続のなかで最も重要なのは,労働者(被処分者)に弁明の機会を与えることである。被処分者に懲戒事由を告知して弁明の機会を与えることは,就業規則等にその旨の規定がない場合でも,事実関係が明白で疑いの余地がないなど特段の事情がない限り,懲戒処分の有効要件であると解される。」(水町勇一郎『詳解 労働法』〔東京大学出版会、第3版、令5〕600頁参照)。

 それでは、弁明手続の省略が許容される「特段の事情」とは、どのような事情を指すのでしょうか? 「事実関係が明白で疑いの余地がない」場合が例示されていますが、これ以外には考えられないのでしょうか? 例えば、労使間での対立が先鋭化し、労働者が就労を拒否している場合は、これに該当しないのでしょうか? 一昨日、昨日と紹介している、東京地判令6.8.16労働判例ジャーナル157-44 リンクスタッフ事件は、この問題を考えるうえでも参考になる判断を示しています。

2.リンクスタッフ事件

 本件で被告になったのは、職業紹介事業を目的とする株式会社です(被告会社)。

 被告会社の代表者は代表取締役B(被告社長)です。

 原告になったのは、令和4年6月1日、被告との間で期限の定めのない雇用契約を締結した方です。令和4年6月24日付で被告から自己都合退職扱いされたことを受け、労働審判を申し立てた後、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。

 本件の特徴は、被告側が労働審判手続中に、原告の真意を正確に理解したとして、自己都合退職したとの主張を撤回し、復職命令通知書を発している点にあります。

 この復職命令書には、次のような記載がありました。

「貴殿に対し、本書面をもって、出勤して頂くよう通知いたします。万一、出勤する上で、ご不安な点等があれば、ご相談に応じますので、E本社管理部のCまでお問合せください。なお、通知書に対して、貴殿の言い分があるときは、この文書を受領後、1週間以内に文書で当社宛に提出してください。」

 これに対し、原告は、

「復職の意思はあるとしつつ、

〔1〕復職の条件等が記されておらず、不当な対象処分の取消し、賃金の未払い、パワハラ等の不当な取り扱いについての解決がなされていないこと、

〔2〕復職の前提条件として、これらの問題の解決が不可欠であり、解決について双方が合意した後、復職をすること、

〔3〕和解提案として、月額30万円の賃金(バックペイ)及び慰謝料100万円の復職前日までの支払、社会保険資格の回復等、管理部総務及び経理補助としての就労、謝罪及び名誉回復措置、パワハラ防止措置を提示することを内容とする回答書」

を送付しました。

 このようなやりとりを経た後、被告は、弁論準備手続期日と内容証明郵便とで二度に渡って解雇権を行使しました。

 この時、被告が解雇理由として内容証明郵便に書いたのは、次の事実です。 

「貴殿は当社に対し一旦は退職の意思を明らかにした後これを撤回したため、当社は復職を求めましたが、貴殿は法外な損害賠償や謝罪文の掲示及び全社員に対するメール送信等が復職の条件であるとして出社を拒否する一方、賃金の支払い要求を継続しています。このような言動は当社の就業規則に違反するものであることから、当社は本書をもって貴殿を懲戒解雇し、万一懲戒解雇が認められなかった場合は普通解雇します。」

 裁判所は、次のとおり述べて、原告が主張するハラスメントの成立を否定したうえ、懲戒解雇の効力も普通解雇の効力も否定しました。

(裁判所の判断) 

原告は、本件行為1から4のとおりの事実があった旨の陳述書・・・を提出し、同旨の供述をしている。

(中略)

「以上によれば、本件行為1から4は、いずれも認定することができないし、仮に類似する事実があったとしても、指示や指導として社会通念上許容されないような態様のものであったと認めることはできないから、パワハラと評価することはできない。

(中略)

・懲戒解雇について

「就業規則58条によれば、懲戒に当たっては、懲戒被疑行為の事実関係の調査及び確認や懲戒に付することの適否の判断、懲戒に付する場合における懲戒区分の判定を懲罰委員会において審議することが必要であるところ、本件解雇1、2のいずれについても、懲罰委員会が開催された旨の主張はない。また、審議に当たっては、懲戒被疑者を懲罰委員会に呼び出し、弁明の機会を与えることも必要であるところ、被告は原告の連絡先を知っており、原告が被告からの連絡を受領することを拒んでいるような状況でもないから、被告が復職を拒んでいることをもって、原告に弁明の機会を与える必要がないとはいえない。

以上によれば、本件解雇1、2はいずれも、就業規則所定の懲戒手続を経ないものであるから、懲戒解雇として有効ということはできない。

・普通解雇について

「前記・・・のとおり、復職命令が有効と認められないから、原告は被告の業務命令により自宅待機しているといえ、原告が出勤しないことが、就業規則19条12号、26号、26条1項に反するとはいえない。」

「また、本件訴訟において、被告社長のパワハラを主張し、慰謝料等の支払を求めるなどしていることは、単なる権利行使であって、その態様や主張内容が明確な証拠に反して明らかに虚偽であるとか、権利のないことを不当に請求しているということはできないから、これが就業規則19条27号、33号に反するということもできない。」

「加えて、原告が、就業規則47条1号、2号に該当するということもできない。」

「そうすると、原告に解雇事由があるとは認められない。」

3.連絡受領を拒んでいなければ弁明の機会付与の省略は許されない

 労務提供を拒否している以上、会社から出頭して弁明するよう求められたとしても、唯々諾々と会社に赴くことは考えにくいように思われます。

 しかし、裁判所は、だからといって弁明の機会付与を省略することは許されないと判示しました。連絡自体の受領を拒否しているような状態ではなかったのであるから、弁明の機会を付与する必要はあったというのがその論旨です。弁明は書面を提出するなどの方法をとることも可能で、出頭に限られるわけではありません。裁判所の判断は、至極、妥当なものであるように思われます。

 労務提供拒否のような労使間の緊張状態が極限まで高まった状況のもとでは、使用者側も強硬な方法をとりがちです。労働者側が労務提供拒否の理由としてパワハラを主張している中、使用者側にはパワハラをしたという認識がなければ猶更です。

 本件の場合、裁判所はパワハラを認定しませんでしたが、それでも、弁明の機会付与は必要だったと判示しました。裁判所の判断は、同種事案の処理にあたり、実務上参考になります。

 




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