1.自衛隊の懲戒処分
国家公務員に対する懲戒処分の標準的な処分量定を定めた文書に、
人事院総長発平成12年3月31日職職-68「懲戒処分の指針について」
があります。
個別に懲戒処分の指針を定めている代表的な組織が自衛隊です。
例えば、陸上自衛隊には、陸上自衛隊達24-4号「懲戒処分等の基準に関する達」(最終改正:令和2年2月21日達第24-4-5号)というものがあります。
http://www.clearing.mod.go.jp/kunrei_data/f_fd/1978/fy19780707_00024_004.pdf
今日、注目したいのは、この「達」に定められている処分の軽減事由です。
「達」は、規律違反者に対する懲戒処分について、次のとおり減軽事由を定めています。
(第16条2項)
規律違反者が、次の各号の一に該当する場合は情状をしゃく量し、懲戒処分を軽減することができる。
(1)極めて困難な任務遂行中の場合
(2)過剰防衛又は過剰非難の場合
(3)心神耗弱中の場合(本人の責めに帰すべき理由がある場合を除く。)
(4)平素の勤務態度が優良な場合
(5)自首した場合
(6)改しゅんの情が顕著である場合
(7)未遂の場合
(8)その他軽減すべき相当徳勇がある場合
懲戒処分が初度目である場合、しばしば第4号の
平素の勤務態度が優良な場合、
に該当するという主張がなされるのですが、この
平素の勤務態度が優良な場合、
とは、具体的にどのような場合を言うのでしょうか?
昨日ご紹介した、東京地判令6.8.7労働判例ジャーナル157-50 国・陸上自衛隊関東補給処長事件は、この点を判示した裁判例としても重要な意義を持ちます。
2.国・陸上自衛隊関東補給処長事件
本件で原告になったのは、陸上自衛官であった方です。
複数の他人名義でコンサートチケットの購入を申込み、チケット44枚(約35万円分)を購入したこと(本件非違行為)を理由に懲戒免職処分・退職手当支給制限処分(全部不支給)とされたことを受け、各処分の取消を求めて出訴したのが本件です。
裁判所は、結論として、懲戒免職処分・退職手当支給制限処分のいずれも適法と認め、原告の請求を棄却しているのですが、その中で、次のような判断を示しています。
(裁判所の判断)
「陸上自衛隊における懲戒処分の判断にあたっては、本件処分基準第16条2項により、『平素の勤務態度が優良な場合』や『改しゅんの情が顕著である場合』に『該当する場合は情状をしゃく量し、懲戒処分等を軽減することができる。』とされている。」
「もっとも、本件処分基準16条2項柱書の文言等によれば、同項各号に列挙された事由が認められる場合に懲戒処分等を必ず軽減しなければならないわけではない。そして、同項において、懲戒処分等を軽減することができる場合として他に列挙されている事由が相当限定的なものであることにも鑑みれば、『平素の勤務態度が優良な場合』とは、単に平均的な自衛官において認められる程度の優良な勤務態度であるのみでは足りず、部隊に相当又は、複数の貢献があった隊員であることが必要であるというべきである。」
「また、同様に『改しゅんの情が顕著である場合』についても、対象者が自身の規律違反行為について、依願退職を申し出る等、反省・自戒の念が顕著であり、これらが客観的な形でも表れているような場合に、総合的に勘案して処分を軽減することができるという趣旨であると限定的に解するべきである。」
「そうすると、原告が、職務遂行につき、それぞれ賞詞第5級の表彰を3回受けていること等を考慮しても、本件処分基準16条2項により、『平素の勤務態度が優良な場合』として本件免職処分を軽減しなければならないとはいえない。」
「また、本件各処分に至るまでの手続における原告の供述調書等・・・の内容を見ても、原告が本件非違行為自体について明確に反省の弁を述べているとは認められず、その他、反省・自戒の念が顕著に示されていると認めるに足りる証拠もないことを踏まえると、本件処分基準16条2項により『改しゅんの情が顕著である場合』として本件免職処分を軽減しなければならない対象となるとはいえない。」
「原告はその他、家族の事情等が『その他軽減すべき相当の理由がある場合』に該当する旨主張するが、前記のとおり、本件処分基準16条2項において列挙されている場合と比較し、検討すると、原告の主張する事情により、本件免職処分を軽減しなければならないとは認められない。」
3.「平素の勤務態度が優良」のハードルが高すぎないか?
上述のとおり、裁判所は、平素の勤務態度が優良といえるためには、
「単に平均的な自衛官において認められる程度の優良な勤務態度であるのみでは足りず、部隊に相当又は、複数の貢献があった隊員であることが必要」
だと判示しました。
しかし、単なる処分の任意的軽減事由(別段、それがあったからと言って、必ず減軽しなければならないわけではない事由)について、そこまで高いハードルを設定することが合理的なのかは、やや疑問に思います。
原告が受賞していた賞詞第5級というのは
職務の遂行に当たり、功績があった者
技術上発明をした者、
国際連合派遣自衛官であって、国際連合の業務に当たり、功績があったもの、
派遣隊員であって、派遣先の機関の業務の遂行にあたり、功績があったもの、
に授与される賞詞です(表彰等に関する訓令第7条参照)。
3回も受賞していれば、相当な功績があったと評価して良さそうにも思うのですが、それでも、裁判所は「平素の勤務態度が優良」とは言えないと判示されました。ここまで行くと、「平素の勤務態度が優良」な者として、どのような方が想定されているのか分からなくもなります。
昨日も述べましたが、懲戒処分の量定相場の推移は一方通行です。時代が進むにつれて、重くなることはあっても、決して軽くはなることはありません。不祥事が生じる度に再発防止策として処分の強化が図られるからです。そのため、理論上、何をしても懲戒免職になるまで加重されて行くし、実際、そうした徴候は既にみられるように思います。結果として処分は取り消されましたが、処分行政庁レベルでは、既に、保存期間経過後にクロワッサン等を窃取しただけでも、普通に懲戒免職処分を科してくるところまで来ています。
保存期間経過後のクロワッサン等を窃取した給食調理員に対する懲戒免職処分が違法とされた例 - 弁護士 師子角允彬のブログ
このような様相が呈されているため、公務員の方は、不祥事には細心の注意を払う必要があります。