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基本給を引き下げて出来高払制を導入するなどの減給措置が不法行為を構成するとされた例

1.賃金減額と不法行為

 労働契約法3条1項は、

「労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。」

と規定しています。

 労働契約に限った話ではありませんが、契約した内容を、一方当事者が勝手に変更することはできません。合意した内容を変更するにあたっては、基本的には別の合意が必要になります。労使間で約束された賃金を使用者が一方的に減額することは、原則として許されていません。

 しかし、賃金制度を変更するとして使用者が賃金構成や賃金額を一方的に改変し、これが済し崩し的に適用されていることは、残念ながら少なくありません。

 こうした場合、労働者の側で慰謝料を請求することはできないのでしょうか?

 慰謝料請求を行うにあたって障壁となるのが、「損害」の問題です。

 一方的な賃金の変更は違法であり、労働者は差額賃金を請求することができます。となると、経済的な実害はなくなり、精神的な苦痛にしても、自動的に慰謝されてしまわないのかという問題です。

 この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。東京地判令6.8.21労働判例ジャーナル156-48 弁理士法人平田国際特許事務所ほか1社事件です。

2.弁理士法人平田国際特許事務所ほか1社事件

 本件で被告になったのは、

弁理士法人(被告事務所)、

知的財産権の実施、使用、利用許諾、維持、管理等を主な目的とする株式会社(被告会社)

の二名です。

 原告になったのは、法人化前に被告ら代表者との間で雇用契約を締結し、書類の翻訳作業を中心とする特許関連業務等に従事していた方です。

 原告の方は、

平成17年以降、複数回に渡り給与が減額されたが、これらの措置は、同意を欠く無効なものである、

原告の労働契約は、被告事務所ないし被告会社が承継した、

と主張し、未払賃金や慰謝料の支払を求める訴えを提起しました。

 この事案で、裁判所は、賃金減額を無効としたうえ、次のとおり述べて、減給措置に不法行為該当性を認めました。

(裁判所の判断)

「原告の賃金は、毎月15日締め当月25日払いであり、被告事務所又は被告会社は、平成13年7月から平成26年3月までに、給与及び賞与として、次のとおり原告に支払った。・・・

期間 月額基本給等 賞与

平成13年7月~平成14年3月 32万円 56万円(12月支給)

平成14年4月~平成15年3月 33万円 57万円(6、12月にそれぞれ支給)

平成15年4月~平成16年3月 41万円 64万円(6、12月にそれぞれ支給)

平成16年4月~平成17年3月 41万1000円 64万円(6、12月にそれぞれ支給)

平成17年4月~平成17年7月 41万6000円 64万円(6月支給)

平成17年8月~平成18年3月 35万円及び時間外手当6万6000円 64万円(12月支給)

平成18年4月~平成19年3月 35万円及び時間外手当7万1000円 63万円(6、12月にそれぞれ支給)

平成19年4月~平成20年3月 35万円及び時間外手当7万4000円 62万円(6月支給)、60万円(12月支給)

平成20年4月~平成21年3月 35万1000円及び時間外手当7万4000円 62万円(6月支給)、52万1000円(12月支給)

平成21年4月~平成22年3月 35万6000円及び時間外手当7万4000円 52万円(6月支給)、11万円(12月支給)

平成22年4月~平成24年3月 37万円及び時間外手当7万8344円 なし

平成24年4月~平成25年3月 35万円及び時間外手当5万8344円 なし

平成25年4月~平成26年3月 38万円及び普通残業手当2万8344円 なし」

被告会社は、平成26年4月25日、原告に対し、同月分の給与として、基本給14万1656円、普通残業手当2万8344円、特別手当7万6000円等の合計27万3770円を支払った。

また、被告会社は、同年5月23日、原告に対し、同月分の給与として、基本給14万1656円、普通残業外手当2万8344円、特別手当10万6400円等の合計30万4170円を支払った。・・・

「原告は、平成28年5月から平成30年4月まで休職し、同月復職した。」

被告会社は、平成30年5月以降、原告に対し、給与につき、同月から令和4年3月までは基本給を毎月24万円とし(ただし、平成31年2月分については22万9835円。)、令和4年4月から令和5年3月までは基本給を毎月24万3600円とし、同年4月以降は基本給を毎月24万8600円として支払った。また、被告会社は、原告に対し、賞与として、令和3年6月、同年12月、令和4年6月及び同年12月に、それぞれ40万円を支払った。・・・

(中略)

「原告は、被告事務所又は被告会社による一連の減給措置が不法行為に当たると主張するので、以下検討する。」

「これまで説示したところによれば、平成17年8月の固定残業代制の導入に対する同意、平成26年4月の出来高払制の導入に対する同意及び平成30年4月に原告が復職した際の賃金体系に対する同意はいずれも認められず、被告会社が基本給月額41万6000円を支払わなかったことは雇用契約に違反するものであったと認められる。」

「このうち、平成17年8月の固定残業代制の導入については、雇用契約に違反するものではあるものの、被告会社は基本給と時間外手当を合わせた金額を従前の基本給と変わらないように支給することとし、実際に平成26年3月分までの原告への支給額をみると、月額41万6000円の水準が維持されていたとみるべきであるから、これをもって不法行為と評価するほどの違法性があったとはいえない。」

他方で、平成26年4月の出来高払制の導入は、原告から強い反発があったにもかかわらず、基本給を半額よりも低い金額にした上で、就業規則にも定めのない出来高払制とするものであり、証拠・・・によると、実際の支給額も月額10万円を超える減給となったものと認められることからすれば、不法行為を構成すると認めるのが相当である。そして、被告会社は、平成30年4月に原告が復職した後も、原告が固定給を希望したにもかかわらず出来高払制とし、令和3年5月以降は、出来高払制を取りやめたものの、基本給は月額24万円程度の水準を維持したものであり、これらの被告会社の対応は、上記の減給措置と一連の行為として不法行為を構成するものと認められる。

そうすると、被告会社が、原告に対し、平成26年4月分から令和5年5月分までの給与について、月額41万6000円を支払わず、原告の合意がないのに減額して支払った行為は、不法行為に当たるところ、本件に顕れた一切の事情及び令和2年4月以降の減額分については本判決により支払が命じられること等を考慮すると、原告が被った精神的苦痛は、慰謝料として50万円を認めるのが相当である。また、かかる不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は5万円と認められる。

以上によれば、原告の被告会社に対する不法行為に基づく損害賠償請求は、55万円及びこれに対する令和5年6月1日(不法行為後の日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

3.賃金減額も不法行為を構成し得る

 冒頭で指摘した損害論との関係があるため、賃金減額の効力を争う訴訟で慰謝料請求が併合されることは、それほど多いわけではありません。

 しかし、本件のように極端かつ長期化した事案においては、慰謝料請求の可能性があることが実証されました。本件の訴訟提起は令和5年6月9日なので、判断の背景には、時効消滅してしまった分の賃金について幾許かの代償を認めなければ気の毒ではないのかという法感覚があったのかも知れません。

 いずれにせよ、裁判所の判断は、賃金減額の効力を争う事件に取り組むにあたり、実務上参考になります。

 




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