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退職の申出と有給休暇の申請に対し、1日でも早く辞めて欲しいと迫ったり、有給休暇の取得を否定する発言を迫ったりすることがパワハラになるとされた例

1.退職する意思を示した労働者への嫌がらせ

 職場に対して退職(辞職)の意思を伝えると、会社側から嫌がらせを受けることがあります。この場合に行われる嫌がらせには、

早く辞めろと罵るなど、辞めることを前提としたパターン、

退職妨害など辞めさせないために種々の圧力が加えられるパターン、

の両方があります。

 最近は人手不足であるからか、退職妨害の類型が目立っていましたが、近時公刊された判例集に、辞意を表明した従業員に対して不穏当な言動が加えられるパターンでのハラスメント事案が掲載されていました。東京地判令6.7.25労働判例ジャーナル156-44 NJH事件です。

2.NJH事件

 本件で被告になったのは、

補聴器、聴力測定器等の医療用具の輸出入、製造、販売等を目的とする家族経営の株式会社(被告会社)

被告会社の代表取締役C(被告C)

被告会社の代表取締役D(被告D)

の三名です。

 原告になったのは、被告で経理全般を担当していた方です。

 違法な退職勧奨、パワーハラスメントを受けたこと等を理由として損害賠償を請求したほか、退職合意の不成立を理由とする未払賃金等を請求したのが本件です。

 原告の問題提起は多岐に及びますが、本日、注目したいのは、ハラスメントを理由とする損害賠償についてです。

 原告の方は、被告Cから次のようなパワーハラスメントを受けたと主張しました。

(原告の主張)

「被告Cは、原告が被告会社の金品を横領したと疑い、顧問税理士に調査を行わせていたが、令和4年9月12日に顧問税理士と被告Cとで被告会社の会長室の金庫の現金を数えた結果、問題はないことが確認され、原告による横領の嫌疑は誤りであったことが明白となった。しかしながら、被告Cは、被告Dとともに、同日、上記確認がされたにもかかわらず、原告を会長室に呼出して本件面談を行い、本件面談において、原告に対し、別紙1のとおりの発言を行い、原告に関し、

〔1〕原告が訴外Eを操って自身や子飼いの社員のボーナスを上げるなどの操作をしている、

〔2〕会社がぐちゃぐちゃになったことの元凶である、

〔3〕監視カメラを付けて被告Dを監視して追い出そうとしていた、

〔4〕普通の精神ではない、夜叉である、

〔5〕ほかの社員に恨まれて刺されてもおかしくない、

〔6〕懲戒免職にするつもりである、退職金もなしにしたい、

〔7〕普通の死に方をしない、

〔8〕人間だと思えない、早く消えてほしい。一刻も早く、

〔9〕窓際族みたいになっていればいいじゃん、

などと罵った上で、原告に対し、

〔10〕退職日までの有給休暇の申請を撤回すること、

〔11〕同日をもって直ちに退職すること、

〔12〕受領したボーナスを全額返上すること

を要求した。原告は、もともとは同月16日までは被告会社に出社して引継ぎを行う予定になっていたが、本件面談を経て完全に体調を崩してしまい、翌日からは出社できない状況になった。」

「このような被告Cの言動は、パワーハラスメントに該当するものといえ、原告に対する違法な不法行為を構成するものである。」

 これに対し、裁判所は、次のとおり述べて、パワーハラスメントの成立を認めました。

(裁判所の判断)

「被告C及び被告Dは、令和4年9月12日、被告会社の一室で、原告と本件面談を行い、被告Cは、本件面談において、原告に対し、別紙1の『甲3の2内容』欄記載の各発言(ただし,被告Dの発言を除く)を含む発言を行ったところ、本件面談における上記各発言を含む会話の流れ・・・を通覧しても、被告Cは、原告に対し、原告の経理部での仕事ぶりに対する被告Cの認識に関する発言の域や、原告の経理部での働きぶりに対して原告に反省を求める発言の域を超えて、

『うーん。すごい人だね、あなたね。心の中、のぞいてみたいよね。夜叉だよ、夜叉。そんなことをね、言う人はね、普通じゃないって。』(甲3の2・11頁)、

『この人が聞いたら、あんた、刺し殺されちゃうよ。』(同17頁)、

『夜叉です。あなたはね、そういうことして平気でいることも、普通の人間じゃ考えられない。』(同頁)、

『私は悪いと思ってるの、あなたを。普通の神経では考えられない。で、みんなEのせいにするの。』(同18頁)、

『あなたね、普通の死に方しないですよ、そんなことしてたら。』(同22頁)、

『私はあなたを、もうほんと、人間だと思えないぐらい、普通の人じゃないと思う。って思ってます。』(同23頁)

などと、原告に対する個人的な人格非難と評価されてもやむを得ない発言をするとともに、

『もうあなたに給料出す気はないし、早く、1日でも早く辞めてほしい。いなくなってほしい。』(同18頁)、

『有休マックスなんか、取れると思っちゃ、お、大間違いだからね。言っとくけど。大間違い。』(同28頁)などと、

有給休暇の取得を否定する発言をしたことが認められる。」

「本件面談において被告Cが行った発言のうち、少なくとも上記各発言に関しては、原告に対する違法なパワーハラスメントとして不法行為を構成する。」

(中略)

「本件面談時の被告Cの発言によって原告は精神的苦痛を被ったものと認められるところ、原告の人格を否定するような内容の発言が本件面談を通じて繰り返されていたことに加え、本件退職願に記載の退職日を待つことなく即時の退職を求める旨の発言や、有給休暇の取得を否定する内容の発言もあったことからすると、たとえ原告が実際には本件退職願に記載の退職日である令和4年11月20日を変更することなく同日に退職し、かつ、その間の有給休暇を取得することができていたこと(当事者間に争いがない)を考慮したとしても、原告が被った精神的苦痛を慰藉する慰謝料としては、10万円を下らないものと解するのが相当である。」

3.退職日、有給の取得に影響がなくてもハラスメントが成立するとされた

 この種の退職促進型のハラスメントでしばしば問題になるのは、

会社側からの退職日の繰上げ、有給の撤回の要望に応じてしまうと、労働者が自らの判断で応じたのだからということで、

会社側からの退職日の繰上げ、有給の撤回を突っぱねると、実害が発生していないのだからということで、

慰謝料請求が否定されてしまうのではないか? という論点です。

 被告代表者の言い方が激しかったことも考慮されているとは思いますが、本件の裁判所は、

実際に退職日が動いていなかったり、有給休暇を取得したりしていたとしても、不法行為は成立する、

実際に退職日が動いていなかったり、有給休暇を取得していたりしたことは、違法性の次元ではなく、損害の部分で考慮する、

と判断しました。この判断は、退職促進型のハラスメントで慰謝料を請求する場面において、他の事案にも活用できる可能性があり、実務上参考になります。

 




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