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職務適格性の欠如を理由とする解雇-職種変更の提案をする以外に、元々の職種との関係で業務改善について書面等で明確に具体的な指示を行うべきとされた例

1.職務適格性の欠如を理由とする解雇

 職務適格性の欠如を理由とする解雇の可否が問題になる時、しばしば、配転や職種変更の提案がされたのかどうかが問題になります。

 しかし、仕事に対しては労働者の側もそれなりに思い入れを持っているのが普通です。配転や職種変更の打診に対して応じられないと答えたり、条件提示をしたりするなど、消極的な対応をとることは少なくありません。

 ところが、消極的な対応をとると、待ってましたと言わんばかりに、使用者側から「解雇を回避するための措置は尽くした」として解雇されることがあります。

 それでは、こうした形だけの解雇回避措置に対し、何か対抗できる手段はないのでしょうか? 近時公刊された判例集に、この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、東京地判令6.9.24労働判例ジャーナル156-48 THotel竜王マネジメント・国・長野県事件です。

2.THotel竜王マネジメント・国・長野県事件

 本件は

ホテル、旅館の経営を目的とする株式会社(被告Tホテル)、

東京労働局や長野労働局を設置している国、

長野県中央警察署を設置している長野県、

の三者が被告とされた事件です。

 原告になったのは、被告TホテルでF&B(料飲部門)マネージャーとして勤務していた方です。被告Tホテルに対しては、違法な解雇を受けたことを理由とする損害賠償や残業代を請求していました。

 被告は職務適格性の欠如を主張しましたが、裁判所は、次のとおり述べて、解雇に違法性を認めました。

(裁判所の判断)

「(ア)出張の報告や旅費の精算について」

「被告Tホテルにおいては、出張の報告及び旅費の精算に際し領収書を添付するものとされており、原告は被告Tホテルの担当者から領収書の添付等を指示されても直ちに応じてはいないが、最終的には領収書等を提出したと認められ・・・、こうした原告の対応が、F&Bマネージャーとして不適格とまでいうことはできない。」

「(イ)コミュニケーションの不足について」

「原告は、携帯電話等を所持していなかったと認められるが、本件労働契約上、原告が携帯電話等を所持すべき義務を負っていたと認めることはできず、そのことがF&Bマネージャーとして不適格ということはできない。」

「また、P13は、原告について、内部でのコミュニケーションというところでは非常に不足であった、自分の主張を通す傾向が強く、相手方の意見についてはかたくなな姿勢を示していたと供述し・・・、これに沿う証拠として、原告から本件ホテルの料理長に対しメニューや食材に関する意見を述べたメールが提出されているが・・・、同メールは職務に関する従業員同士の意見の衝突という限度を超えるものとはいえず、その他原告が、F&Bマネージャーとしての職務遂行に困難を来すほどに内部のコミュニケーションに問題があったことを認めるに足りる証拠はない。」

「そうすると、原告の職務遂行についてP13が供述するような傾向があったとしても、これをもって原告が、原告がF&Bマネージャーとして不適格とまでいうことはできない。」

「(ウ)仕事内容について」

「a 原告は、被告ホテルに対し、スムージーの提供を提案しながら、レシピの提供に応じず、本件ホテルのレストランのメニューとして販売することも提案しなかったものである・・・。原告の提案は、被告TホテルのF&Bマネージャーという立場からの提案としては疑問があるものの、あくまで提案の段階にとどまっており、これをもって原告が、F&Bマネージャーとして不適格とまでいうことはできない。」

「b 原告は、P7株式会社の担当者に対し、コーヒーマシンを無償で提供するよう求めたことが認められるが・・・、これにより同担当者の対応が悪化したことや、同社との取引に支障が生じたことを認めるに足りる証拠はないから・・・、原告の対応がF&Bマネージャーとして不適格とまでいうことはできない。」

「c 原告は、本件ホテルのレストランのメニューのデザインを変更するよう被告Tホテルに提案したが、原告の示す費用が高額であったことから、被告Tホテルはこれを採用しなかった・・・。原告の提案は、費用対効果を十分に検討したものか疑問があるものの、これもあくまで提案の段階にとどまっており、これをもって原告が、F&Bマネージャーとして不適格とまでいうことはできない。」

「(エ)出張について」

「原告は、複数回の出張を行っているところ、これらに関する原告の報告や提案は抽象的であり、具体的な集客増や売上増に結び付く内容とも認められない(前記1(3)イないしエ)。もっとも、これらの出張はF&Bマネージャーの本来的な職務とはいえず、被告Tホテルも出張の目的や計画等を具体的に設定する等の業務指示をしたとは認められないことからすれば、出張の成果が上がらなかったとしても、それを原告個人の責任に帰することは相当ではなく、これをもって原告が、F&Bマネージャーとして不適格とまでいうことはできない。」

「(オ)労働条件について」

「被告Tホテルは、原告に対し、原告の職種を広報ディレクターに変更する旨の打診をし、契約書案を示したが・・・、これが本件労働契約に基づく配転命令権の行使の可能性を示したものか、労働条件変更の打診をしたものかは必ずしも明らかではなく、これに対し原告が様々な条件を示したことが、従業員として不適切な対応ということはできない。さらに、原告が条件の承諾と引き換えに、F&Bマネージャーとしての職務遂行を拒んでいた等の事情も認められない。」

「よって、原告の対応が、F&Bマネージャーとして不適格とまでいうことはできない。」

「(カ)会社のイメージを低下させる行為について」

「被告Tホテルの主張するように、原告が本件ホテル外で女性に接触等したことを認めるに足りる証拠はない。」

「(キ)小括」

「以上によれば、被告Tホテルが解雇事由として主張するところは、いずれも本件契約書14条ニ及び就業規則41条1号の解雇事由に該当すると認めることはできない。」

「また、被告Tホテルは、原告のF&Bマネージャーとしての適格性等について問題視していたとしても、広報ディレクターへの職種変更の提案をする以外に、F&Bマネージャーとしての業務改善について、書面等で明確に具体的な指示を行ったとは認められないことからすれば、上記の事由に基づいて被告Tホテルが原告を解雇することが、社会通念上相当であるともいえない。

「さらに、本件解雇は、本件労働契約の契約期間中の解雇であるから、労働契約法17条1項所定の「やむを得ない事由」、すなわち、期間満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ないような特別の重大な事由がない限り、無効であるところ、前記アに検討したところによれば、契約期間の終期を待たずに、本件労働契約を終了させざるを得ないような特別の重大な事由が存在したとは認められない。」

「以上によれば、P13が供述するように、P13が本件解雇通知を原告の自宅のポストに投函したとしても・・・、本件解雇は無効である。」

3.順番としては元々の職務の改善可能性⇒職種転換・配転の可能性だろう

 順当に考えれば、

元々の職務の改善可能性の検討が来て、

次に、職種転換・配転の可能性が検討される、

となるように思われるのですが、会社が解雇と結論を決め打ちしてしている中で、方便的に解雇回避努力をしたかのような体裁を整えようとしている場合、難色を示されることを予測したうえで、いきなり職種転換・配転が打診されることがあります。

 しかし、こうした方便的な解雇回避努力には、社会的な相当性があるようには思えません。裁判所の判断は、形ばかりの解雇回避努力に対し反駁して行くにあたり、実務上参考になります。

 




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