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主治医への言動や使用者に対する不信の表明が、就労意思とは矛盾しないとされた例

1.就労意思

 解雇されても、それが裁判所で違法無効であると判断された場合、労働者は解雇時に遡って賃金の請求をすることができます。いわゆるバックペイの請求です。

 バックペイの請求ができるのは、民法536条2項本文が、

「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。」

と規定しているからです。

 違法無効な解雇(債権者の責めに帰すべき事由)によって、労働者が労務提供義務を履行することができなくなったとき、使用者(労務の提供を受ける権利のある側)は賃金支払義務の履行を拒むことができないという理屈です。

 しかし、解雇が違法無効であれば、常にバックペイを請求できるかというと、残念ながら、そのようには理解されているわけではありません。バックペイを請求するためには、あくまでも労務の提供ができなくなったことが、違法無効な解雇に「よって」(起因して)いるという関係性が必要になります。例えば、何等かの理由によって違法無効な解雇とは無関係に就労意思を喪失してしまったような場合、就労意思喪失時以降のバックペイの請求は棄却されることになります。

 こうした理屈は解雇に限ったことではなく、休職期間満了による自然退職との関係でもあてはまります。休職期間満了前に傷病は治癒しており、自然退職は無効だと主張する場合も、労働者は、

傷病の治癒(労働契約の本旨に従った労務を提供できるだけの能力)に加え、

就労意思があったこと、

を立証する必要があります。

 それでは、主治医への言動や、使用者側に対する不信感を表明するような言動を理由に、就労意思を否定することは許されるのでしょうか?

 治療中、特に、精神疾患の治療中は、心情に揺れ動きが発生します。今の職場で働き続けるのか、環境を変えて新しい職場に移った方が良いのか、迷っている心境を主治医に吐露することは当然に予想されます。

 また、精神疾患に職場でのストレスが影響しているケースや、使用者から復職を拒まれたようなケースでは、復職をめぐる交渉の中で労働者から使用者に不信感が表明されることもあります。

 こうした場合に、使用者側から、

就労意思がない

と主張された場合、どれくらいのインパクトがあるのでしょうか?

 昨日ご紹介した東京地判令6.9.25労働判例ジャーナル156-28 東京都葬祭業協同組合事件は、この問題を考えるうえでも参考になる判断を示しています。

2.東京都葬祭業協同組合事件

 本件で被告になったのは、東京都内の葬祭業者を組合員とする協同組合です。

 原告になったのは、被告との間で期間の定めのない労働契約を締結していた方です。

 適応障害(抑うつ)で休職した後、復職を可能とする主治医診断書と復職届を提出したものの、被告指定医から「一時的な回復の可能性が考えられることから、このまま仕事を続けるのは難しい」との診断をされ、休職期間満了による自然退職とされました。

 このような扱いを受け、休職事由の消滅を主張し、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。

 本件の被告は自然退職の有効性を主張するとともに、原告の就労意思を争いました。具体的な主張は、次のとおりです。

(被告の主張)

「原告は、本件主治医に対し、令和3年4月6日には仕事を辞めてしまいたい旨を述べ、その後も同年6月1日、同年11月10日及び同月24日の受診時に、退職ではなく復職になってしまったなどと述べており、一貫して被告を退職する意向であった。」

「就労意思の有無は、労働契約が使用者と労働者との間の信頼関係に基づいて成立する継続的契約であることに鑑みれば、使用者との信頼関係の継続を前提とした意思があるか否かによって判断されるべきである。」

「原告は、復職届を提出する時及び令和4年1月11日に私物の返却を依頼する時に、対応した被告の職員に対してぞんざいな対応をした。また、原告は、令和3年12月21日、原告が加入するiユニオンの組合員とみられる約10名を伴って予告なく被告事務所を訪れ、懲戒処分に対する抗議等に関する書面を交付し、その様子を無断で録音・録画し、さらに、iユニオンは、令和3年12月22日、虚偽の事実又は誇張した事実を記載した要請書を全国の葬儀会社に送付して、被告の業務を妨害した。これらの言動は、被告との信頼関係を前提とする意思がなく、被告との対立関係をあおろうとする意思で行われたものであり、原告が就労意思を喪失していたことは明らかである。」

 しかし、裁判所は、傷病の治癒を認めたうえ、次のとおり述べて、被告の主張を排斥しました。

(裁判所の判断)

「前記認定のとおり、原告は、令和3年11月29日、被告に対し、同年12月1日から復職が可能である旨が記載された本件主治医の診断書と復職届を提出し、就労意思を表明した・・・。そして、これに反して原告が就労意思を有していないことを示す事情は認められない。」

これに対して、被告は、原告が、令和3年4月6日以降、本件主治医に対し、退職ではなく復職になってしまったなどと述べており、一貫して被告を退職する意向であったと主張する。

しかし、被告が主張する本件主治医に対する発言は、いずれも原告がそれぞれの時点で退職も検討していたことを示すにとどまり、復職届提出以後に就労意思があることと矛盾しない。

「また、被告は、就労意思の有無は使用者との信頼関係の継続を前提とした意思があるか否かによって判断されるべきであるとした上で、原告が被告の職員に対してぞんざいな対応をした、労働組合と共に被告の業務を妨害したなどと主張し、これらの言動は被告との信頼関係を前提とする意思がなく、被告との対立関係をあおろうとする意思で行われたものであるとして、原告が就労意思を喪失していたことは明らかであると主張する。

しかし、就労意思があることは、労務提供の不能が使用者の責めに帰すべき事由によること(民法536条2項)という要件を満たすために求められるものである。そうすると、使用者の指揮命令に従って労務を提供する意思があれば足りるというべきであって、原告の言動に被告に対する信頼が表れていないとしても、そのことをもって就労意思が否定されるとはいえない。したがって、被告の主張は採用することができない。

「以上のとおり、原告には就労意思があると認められる。」

3.正式な意思表明として本人が働きたいと言っているのだから就労意思が否定される場面は限定的ではないか

 メンタルを病んでいなくても人の心情には一定の揺れ幅があるのが普通ですし、常に使用者に迎合しなければ就労できないというわけでもないだろうと思います。裁判所が示唆するとおり、信頼してなくても契約上の義務を履行することは可能であるはずです。

 あまりにも極端なものは別かもしれませが、主治医に対する言動や交渉時の言動等によって揚げ足をとられるリスクは、それほど高くはなさそうに思います。

 




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