1.1か月単位変形労働時間制
労働基準法32条の2第1項は、
「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、又は就業規則その他これに準ずるものにより、一箇月以内の一定の期間を平均し一週間当たりの労働時間が前条第一項の労働時間を超えない定めをしたときは、同条の規定にかかわらず、その定めにより、特定された週において同項の労働時間又は特定された日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる。」
と規定しています。
これは、いわゆる1か月単位変形労働時間制の根拠条文です。
各労働日の労働時間を特定する方法には幾つかのパターンがありますが、勤務ダイヤにより1か月単位変形労働時間制を採用する場合、
「就業規則において各直勤務の始業終業時刻、各直勤務の組み合わせの考え方、勤務割表の作成手続及びその周知方法を定めておき、それに従って各日ごとの勤務割は、変形期間の開始前までに具体的に特定することで足りる」
と理解されています(昭63.3.14基発150号)。
それでは、単位期間を1か月とする変形労働時間制において、勤務シフト表を半月毎に作成していた場合、変形労働時間制の効力は、どのように理解されるのでしょうか?これは、変形期間の開始前までに、各日の労働時間(勤務割)が具体的に特定されていたと言えるのかという問題です。
近時公刊された判例集に、この問題を考えるうえで参考になる裁判例が掲載されていました。静岡地沼津支判令5.3.27労働判例1323-64 クローバー事件です。
2.クローバー事件
本件で被告になったのは、介護保険法に基づく居宅介護支援事業等を目的とする株式会社です。
原告になったのは、被告との間で労働契約を締結し、被告が運営する施設(本件施設)で働いていた方/働いている方達です。時間外労働や深夜労働に対する割増賃金が支払われていないとして、その支払いを求める訴えを提起したのが本件です。
本件では、半月毎に勤務シフト表が作成されている1か月単位の変形労働時間制の効力が問題になりました。
裁判所は、次のとおり述べて、その有効性を否定しました。
(裁判所の判断)
・一箇月単位の変形労働時間制について
「労働基準法32条の2の定める一箇月単位の変形労働時間制は、使用者が、就業規則その他これに準じるものにより、一箇月以内の一定の期間(単位期間)を平均し、一週間当たりの労働時間が週の法定労働時間を超えない定めをした場合においては、法定労働時間の規定にかかわらず、その定めにより、特定された週において一週の法定労働時間を、又は特定された日において一日の法定労働時間を超えて労働させることができるというものであり、この規定が適用されるためには、単位期間内の各週、各日の所定労働時間を就業規則において特定する必要があるものと解される(前掲最高裁平成14年2月28日第一小法廷判決)。」
「この点に関し、被告は、本件施設では、就業規則第10条2項の勤務パターンによるシフト勤務体制とされ、また、休日は、就業規則第11条のとおり、勤務シフトにより定めているから、原告X2ら12名については、一箇月単位の変形労働時間制が適用されている旨主張する。」
「しかし、仮に、被告の就業規則の定めとシフト表の作成により、所定労働時間の特定がされると解する余地があったとしても、そもそも本件施設において作成されるシフト表は半月毎のものであり、単位期間(一箇月)内の各週、各日の所定労働時間を特定するものではないから、本件施設について、一箇月単位の変形労働時間制が適用されるものとは認められない。」
・半月毎の変形労働時間制について
「本件施設では、勤務シフト表を半月毎に作成することが続いているが、職員との間で、これが変形労働時間制の運用によるものであるとの共通認識が得られた形跡はなく(かえって、原告X2、原告X3、原告X4、原告X5、原告X6、原告X7、原告X8及び原告X13と被告との間の雇用契約書(甲B~Hの各1、甲M1)では、変形労働時間制に関する記載に×印が付されている。)、また、職員において、就業規則によらない変形労働時間制の導入を許容していたとみるべき事情も見当たらない。」
「そうすると、半月毎の変形労働時間制の運用について、労使慣行が成立していたとは認められない。」
「また、上記のとおり、変形労働時間制を適用するためには、就業規則その他これに準じるものにより、一箇月以内の一定の期間(単位期間)を平均し、一週間当たりの労働時間が週の法定労働時間を超えない定めをすることを要するところ、被告の就業規則には、半月毎の変形労働時間制に関する規定はない。労働基準法32条の2の規定は、原則的な労働時間制の一定期間内での時間配分の例外であるから、仮に、被告のいう労使慣行が成立していた場合でも、強行規定である労働基準法の基準に達しない労働条件は無効であるといわなければならない。」
「したがって、この点に関する被告の主張は採用することができない。」
3.半月毎に勤務シフト表が作成される1か月単位変形労働時間制(否定)
上述のとおり、裁判所は、半月毎に勤務シフト表が作成される1か月単位変形労働時間制の効力を否定しました。
類似の運用をしている使用者に対して残業代を請求するにあたり、裁判所の判断は実務上参考になります。