1.有給休暇と時効
労働基準法115条は、
「この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。」
と規定しています。
有給休暇の取得をする権利は、「その他の請求権」として2年間の消滅時効期間に服します。
時効には「更新」という仕組みがあります。これは進行した時効期間がリセットされ、新たに進行を始めることを言います。時効の更新事由は法定されており、
裁判上の請求
権利の承認
といったものが、これに該当します(民法147条、152条参照)。
ここにいう「裁判上の請求」には給付の訴えだけではなく、確認の訴えも含まれます(川島武宜/編集『注釈民法 第5巻 総則(5) 期間・時効 -- 138条~174条の2 【復刊版】』〔有斐閣、2013年〕75頁参照)。また、「権利が消滅時効によって消滅しそうになっているのに、債務者の住所が不明であり、かつその財産もないため強制執行による権利の実現ができない場合には・・・時効の完成を妨げるために再度訴え提起が許される」と理解されています(秋山幹男 伊藤眞 垣内秀介 加藤新太郎 高田裕成 福田剛久 山本和彦 著『コンメンタール民事訴訟法Ⅲ〔第2版〕 第2編/第1章~第3章/第133条~第178条』〔日本評論社、2018年〕79頁参照)。
この時効制度と有給休暇との関係について、近時公刊された判例集に興味深い裁判例が掲載されていました。東京地判例6.3.26MENYA事件です。
2.MENYA事件
本件で被告になったのは、飲食店の経営等を目的とする株式会社です。
原告になったのは、被告との間で雇用契約を締結し、ラーメン店の調理作業員として働いていた方2名です(ミャンマー国籍を有する夫婦)。被告の責めに帰すべき事由によって就労することができなかった日の賃金が支払われていない、年次有給休暇を取得する権利を有しているなどと主張して、未払賃金や有給休暇を取得する権利を有することの確認を請求する訴えを提起したのが本件です。
興味を引かれたのは、有給休暇との関係で行われた次の判示です。
(裁判所の判断)
令和元年9月4日に付与された12日分の年次有給休暇の請求権は、労働基準法115条所定の2年間の経過をもって時効消滅したというべきである。なお、証拠・・・によれば、原告が令和3年5月18日にmに対しSNSで『有休取得は、何月何日に何日間付与されたか教えてください。『と尋ねたのに対し、mが『2019/9/4 12日 2020/9/4 8日付与されています。』等と回答した事実が認められるが、これは原告らに年次有給休暇が付与された年月日及び付与日数という過去の事実関係を教示したに過ぎず、必ずしも令和3年5月18日時点における原告らの年次有給休暇に関する権利について言及したものではないから、これをもって時効の更新事由である『権利の承認』(民法152条1項)と解するのは相当でない。」
「令和2年9月4日に付与された8日分の年次有給休暇の請求権については、令和4年5月10日の本件訴訟提起をもって時効の完成は猶予されたと解される(民法147条1項1号)。」
「よって、原告らは、被告に対し、それぞれ8日間の年次有給休暇を取得する権利を有していることになる。」
3.確認の訴えが認められた
本件の主文には、
「1 原告夫が、被告に対し、8日間の年次有給休暇を取得する権利を有することを確認する。」
「2 原告妻が、被告に対し、8日間の年次有給休暇を取得する権利を有することを確認する。」
という項目が含まれています。
有給休暇を取得する権利は、究極的には、
有給休暇を取得する⇒使用者側の拒絶(残日数がない)⇒労働者側で休みを強行する⇒使用者が賃金控除や懲戒処分を行う⇒賃金支払請求ほか各種訴えを提起する、
といったように、賃金請求の可否等の脈絡のもとで議論されるのだという考え方も成り立つように思います。
しかし、裁判所は、有給休暇を取得する権利の確認請求を認めました。
有給休暇の日数を尋ね、その回答が債務承認にあたらないとされた部分も含め、裁判所の判断は、実務上参考になります。