1.同種行為が当該企業でどのように扱われてきたのか?
上司や同僚に対する暴言を理由として解雇される例は、実務上、少なくありません。
脈絡にもよりますが、「殺すぞ」などの過激な発言に及んでいるようなケースだと、解雇の効力を争うことは、決して容易ではありません。
しかし、暴言に限らず、労働者側でかなり不穏当かつ逸脱した言動に及んでいるようなケースでも、時々、解雇の効力が否定されることがあります。こうした現象が、どのような場合に生じるかというと、会社の中で、同種の行為がそれほど重く捉えられてこなかった場合が典型です。
法律の一般原則に「平等原則」というルールがあります。平たくいうと、同じような事案は同じように扱わなければならない、違う事案は違う事案として扱わなければならないという原則です。同じようなことをして軽く処分されている実例があるのに、その人に対してだけ重たい処分を行うといったことは差別として許されません。違う処分をするためには、違いを正当化できるだけの合理的な理由が必要になります。
近時公刊された判例集にも、暴言型解雇事案で、解雇無効の結論を導くにあたり、平等原則が効いたと思われる事案が掲載されていました。東京地判令6.10.22労働経済判例速報2572-26 鹿島建設事件です。
2.鹿島建設事件
本件で被告になったのは、土木建築及び機器装置その他建設工事全般の請負・受託当を主たる事業とする株式会社です。
原告になったのは、被告と期間の定めのない労働契約を交わしていた方です。支店の管理部現業グループ事務課長として働いていた時、同じ視点の大規模インフラ設備工事事務所長との間で口論になり、「殺すぞ、お前、本当に。」と発言したことなどを理由に解雇されたことを受け、その無効を主張し、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。
この事件で、裁判所は、次のとおり述べて、解雇は無効だと判示しました。
(裁判所の判断)
「認定事実によれば、本件解雇事由・・・の事実が認められる。また、本件解雇事由1-1については、原告が、同年7月14日頃、P4所長に対して電話をかけ、大声で文句を言うなどしたという限度において、本件解雇事由・・・についても、原告が上司との間で口論等となったという限度においては、その事実を認定することができる。」
「そして、特に、本件解雇事由1-2については、原告が、自らの望むとおりにP4所長がその事務を処理しないことに立腹し、上司であるP4所長に対し、『暴れるぞ、お前。』、『殺すぞ、お前、本当に。』などとその生命身体に危害を加える旨を申し向けて脅迫した上で、P4所長の顔面を左手で1回叩き、その背後に回って頭を触り、肩をつかむなどの暴行に及び、その間、『お前人間なのか。』、『お前頭おかしいな本当に。』、『バカじゃねえか、お前。』などといったP4所長の人格を否定する発言を繰り返したというものであり、これらの行為は、職場の秩序に反し、P4所長の勤務環境を害するものであることは明らかである。また、原告は、本件解雇事由・・・にみられるように、上司、部下等に対し、粗暴な言動がみられ、本件解雇事由・・・については訓告を受けているほか、上記言動を踏まえて2回にわたって支店間の異動がされるなどの方法で注意喚起がされているにもかかわらず、本件解雇事由1-2に係る行為に及んでいることに照らせば、上記行為を含む原告の粗暴な言動は、根深いものがあることがうかがわれる。」
「しかしながら、解雇が労働者にもたらす結果の重大性に鑑み、以下の諸点を考慮すると、本件各解雇事由をもって、直ちに労働契約の継続を期待することができないほどの重大な事情があるとまでは認められないことから、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、無効というほかない。」
「認定事実・・・のとおり、P3支店においては、本件解雇事由1-2の行為がされる約1年前である令和2年8月7日、建築部の部長級又は次長級に相当する安全総括が口論の末に課長代理の頭を頭突きし、手で頭部右側を1回叩くという事案が発生しているところ、当該事案において、安全総括に対して『支店長による厳重注意』が、課長代理に対して『支店長による注意』がされたにとどまることに照らすと、被告において、職場における他の従業員に対する暴行を内容とする不祥事であり、かつ、当該暴行をした者が、部長級等の職位の高い者であっても、訓告や懲戒処分が行われているわけではなく、ましてや、直ちに労働契約自体を終了させなければならないものとして取り扱われているわけではない。そして、被告において、本件解雇事由1-2に係る行為がされるまでの間に、上記のような取扱いが改められ、職場における暴行等に対して厳しい措置をとる旨を従業員に周知した等の事情もうかがわれない。」
「本件解雇事由1-2に係る行為のうち、P4所長の顔を叩く行為等の暴行については、P4所長に傷害等の結果は生じておらず、上記行為等が傷害を生じ得るほどに強度のものであったと認めることもできないから、認定事実・・・の事案と比較して、悪質性の高いものとはいえない。そして、認定事実・・・のとおり、本件解雇事由1-2については、本件解雇までに懲戒処分はされておらず、訓告がされたにとどまる上、被告も、当初、原告の配属先の調整を行っていたというのであって、直ちに労働契約自体を終了させるほかないとの判断をしていたわけではない。」
(中略)
「以上説示したところによれば、本件各解雇事由は、いずれも直ちに本件労働契約自体を終了させなければならない事情とまでは認めらない上、原告が一定の期間に複数回にわたって粗暴な言動をしている点についても、それぞれの行為が継続的に行われたといった事情までは認められず、訓告や注意等がされた後は、相当の期間にわたって上記のような言動が止んでいることから、注意等の効果が全くみられないと評価することもできない。これらの事情に加えて、原告は被告から懲戒処分を受けたことがないこと(なお、本件就業規則の定めによれば、懲戒処分には、けん責(始末書をとり、将来を戒める)及び戒告(厳重に注意し、将来を戒める)といった比較的軽いものも存在するのに対して、訓告は懲戒処分を行わない場合にされる措置として位置付けられていることから、訓告は上記の各懲戒処分と比較して更に軽い措置といわざるを得ず、訓告がされたことをもって、事実上、懲戒処分がされたとみることもできない。被告の主張するとおり、労働者の利益のために懲戒処分をできる限り避けるという被告の労務管理の在り方は、一般的には望ましいものというべきであるが、粗暴な言動等を理由として最終的に解雇を視野に入れざるを得ないような場合においては、被告が、解雇を回避する措置として、過去に上記言動等を理由に懲戒処分を行ったか否かを考慮せざるを得ない。)、原告がP6支店及びP3支店に異動する際にも、課長の地位は保たれたままであり、人事上の降格等によって従前の行為の重大性を反省させるなどの措置も採られていないこと、前提事実・・・のとおり、被告は、従業員数が約8000人に及ぶ大企業であり、全国に支店を有し、実際に、本件解雇事由1-2に係る行為の後にも、本件労働契約を継続する前提で原告の配置先が検討されている反面、その配属先として具体的な検討対象となったのはP15支店のみであり、配転による解雇回避の検討が十分に尽くされたとはいい難いことも併せ考慮すると、本件解雇の時点において、直ちに本件労働契約を終了させるほかない状況に至っていたとまでは認められない。そうすると、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、無効というほかない。」
3.部長次長級が頭突きしても厳重注意なら解雇は行き過ぎであろう
個人的な感覚に照らすと、部長次長級が部下に頭突き等をしても厳重注意に留まっていたという処分実例がなければ、解雇の効力を争うのは厳しかったように思います。
しかし、暴行がそれほど重く扱われていなかった処分実例があったことから、本件では解雇無効の結論を得ることができました。部長次長級が頭突き等をして厳重注意で済んでいるのに、より低い立場にある課長が暴言で一発解雇となるのは行き過ぎではないかという衡量が働いたのではないかと思います。
本件は、解雇の効力を争うにあたり、類似する先行実例を調査することの重要性を意識させるもので、実務上参考になります。