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ブラック企業に捕まえられてしまった人は、損害賠償を請求できるか?

1.入った会社がブラック企業だった

 ① 労働者に対し極端な長時間労働やノルマを課す、② 賃金不払残業やパワーハラスメントが横行するなど企業全体のコンプライアンス意識が低い、③ このような状況下で労働者に対し過度の選別を行う、といった特徴を持つ会社を、「ブラック企業」といいます。

「ブラック企業」ってどんな会社なの?|Q&A|確かめよう労働条件:労働条件に関する総合情報サイト|厚生労働省

 ブラック企業には様々な類型がありますが、その中には、就業環境が悪いというレベルに留まらず、事業活動が犯罪を構成する(ないし犯罪に近い)ものもあります。

 ブラック企業で働いている人は、誰しも、ブラック企業に就職しようと思って就職するわけではありません(そのような人は見たことがありません)。入社するまではブラック企業ではないと思っていたところ、入社後になって初めてブラック企業だと分かったというパターンが殆どではないかと思います。

 それでは、まともであるように装われていたのに、やっていることが詐欺行為であるという会社に入ってしまった場合、会社や会社経営者に損害賠償を請求することはできないのでしょうか?

 昨日ご紹介した、東京地判令6.7.19労働判例1322-14 SES会社経営者ら事件は、この問題を考えるうえでも参考になります。

.SES会社経営者ら事件

 本件で被告になったのは、

株式会社フロンティア及び株式会社サクセスの前代表取締役(被告丙川)、

TeckLove株式会社の代表取締役(被告乙山)

の二名です。

 TeckLove、フロンティア、サクセスは、いずれもSES(システムエンジニアリングサービス)事業として、システム開発、保守、運用事業の委託を受ける事業を行い、従業員を委託を受けた企業等に常駐させていました。

 原告になったのは、

TeckLoveの求人に応募して採用内定を受け、プログラミングスクール(スクール)の受講を受けた後、フロンティアとの間で雇用契約を締結していた方(原告A)、

フロンティアの求人に応募して採用内定を受け、スクールを受講した後、フロンティアとの間で雇用契約を締結していた方(原告B)、

ITソリューションズ(設立準備中に設立中止)の求人に応募して採用内定を受け、サクセスとの間で雇用契約を締結した方(原告C)、

の三名です。退職後、

経歴を詐称したスキルシートの作成や取引先との面接を強要され、

その結果、

取引先において能力を超過する業務を担当することとなり、

業務を遂行することができず退職に追い込まれて精神的苦痛を受けた

などと主張し、損害の賠償を求める訴えを提起したのが本件です。

 本件で原告らが構成した不法行為には幾つかの類型があるのですが、その中の一つに、スクール受講契約を勧誘・締結させたことがありました(原告A、B関係)。

 この点について、原告ら(原告A、Bの主張は、次のとおり主張しました。

(原告A及びBの主張)

「被告らは,TechLove及びフロンティアにおいて,新入社員に対し,スクールの受講契約をするよう勧誘するためのマニュアル(甲54)を作成し,被告ら又は従業員らをして,原告A及び原告Bに対し,スクールの受講が必須であり,スクールを受講することにより,エンジニアとして必要なプログラミング等のスキルを習得することができると誤信させて,スクールの受講契約を締結させるとともに,原告A及び原告Bに代金60万円及び48万円の支払をさせた。」

「ところが,被告らはもとより,TechLove及びフロンティアの従業員には,プログラミングに精通し,他人にプログラミングを教えることができる者は一人もいなかったから,TechLove及びフロンティアが上記内容の講義を提供することはできず,スクールを受講してもプログラミング等のスキルを習得することは不可能であり,被告らはこのことを認識していた。そして,原告A及び原告Bが受講したスクールは,プログラミング言語を教えることはなく,精神論の講義や虚偽の内容のスキルシートを作成させるものであって,実践的・具体的なスキルの指導はなかった。したがって,被告ら並びにTechLove及びフロンティア従業員らによるスクール受講契約への勧誘及び締結は詐欺である。」

 これに対し、裁判所は、次のとおり述べて、不法行為の成立を認めました。

(裁判所の判断)

「前記認定事実によれば,TechLove,フロンティア及びサクセスは,未経験者の従業員について5年程度の経験があるITエンジニアであると詐称して,取引先との間でSES契約を締結し,未経験者を経験者として派遣することにより,取引先から,経験者を派遣した場合に得られる額の報酬を得ることにより利益を得ていたと認められる。取引先は,具体的なシステム開発等の業務遂行のために必要な人員を確保するために,要求するスキルや経験年数,開発環境及び期間等を明示してSESによるITエンジニアを募集しているのである(甲28等)から,当該システム開発等の業務に必要な知識及び経験を有するITエンジニアが派遣されるものと信用してSES契約を締結するのが通常であると認められる。そうすると,取引先が,経歴を詐称した未経験者が派遣されるものと知っていたならば,TechLove,フロンティア及びサクセスとの間でSES契約を締結するとは考えられないのであって,被告らの事業内容は,取引先に対する詐欺行為により利益を得ようとするものというほかない。

「そして,前記認定事実・・・のとおり,TechLove及びフロンティアのスクールは,取引先に,TechLove又はフロンティアから経験者が派遣されるものと誤信させてSES契約を締結するために,経歴等を詐称したスキルシートの作成及び面接の指導をし,さらには,営業活動をさせるものであったのであるから,TechLove及びフロンティアが,その事業内容である上記詐欺行為を実現するための手段であり,かつ,詐欺行為そのものである営業活動を含むものであって,およそ社会的な相当性を欠く内容のものであった。

「ところが,被告らは,TechLove及びフロンティアの求人広告において,スクールを『プログラミングスクール』と称し・・・,原告Aに対しては,被告乙山の部下に当たるMをして,カリキュラム内容について,『PHP・Javaをメイン』,『AWSなどを含めたクラウドについてなど今現場が必要としているスキルを伝えております』などと説明し・・・,原告Bに対しては,『開発エンジニア_超実践コース』であるとして受講料の支払を受けた・・・。このような説明を受けた原告らは,実際にITエンジニアとして必要なスキルを習得できると誤信してスクールの受講契約を締結したものと認めるのが相当であるところ,上記のような不法な目的のスクールであると知っていたとすれば,一般企業への就職を希望していた原告A及び原告Bが,スクールの受講契約を締結するとは考えられない。

「そして,前記認定事実・・・によれば,TechLove及びフロンティア従業員は,被告らの指示により,被告らが作成した採用マニュアルにしたがって採用活動及びスクール受講の勧誘行為をしていたことが推認でき,被告らと勧誘等を行ったTechLove及びフロンティア従業員との間に共謀があったと認められる。」

「そうすると,スクールの受講契約への勧誘及び締結は,被告ら並びにTechLove及びフロンティア従業員による詐欺行為(共同不法行為)に当たる。これに対し,被告乙山はTechLoveの採用活動等について他の従業員に権限を委譲し,被告丙川はフロンティアについてLに権限を委譲していた旨主張するが,仮にそうであるとしても,被告らと勧誘等を行ったTechLove及びフロンティア従業員との間に共謀があり,被告らの指示により勧誘等をしていたことが推認できることは先に判示したとおりであるから,上記主張は,被告らに責任があるとの判断を左右しない。」

「また,被告らは,原告A及び原告Bについて,取引先から期間延長の打診を受けていたから,スクールにおいて必要なスキルを身に着(ママ)けることができていた旨の主張もするが,原告A及び原告Bが,取引先の求める能力を有していなかったために,取引先から指示された業務を遂行することができなかったのは前記認定事実⑵ク及びケ並びに⑶キのとおりであって,期間延長の打診が原告らの能力を判定した上でなされたものであったとはいい難い。加えて,スクールの内容に実際に業務に役に立つものが含まれていたとしても,スクールの内容がおよそ不相当なもので占められていたことは先に判示したとおりであるから,スクールの受講契約への勧誘及び締結が詐欺行為に当たるとの判断に影響するものではない。

3.原告らからの支払が生じている事案ではあるが・・・

 本件では労働者側からスクールに対する高額の支払が発生しています。

 この点、単純なブラック企業への入社の事案と同視することはできませんが、それでも、

「不法な目的のスクールであると知っていたとすれば,一般企業への就職を希望していた原告A及び原告Bが,スクールの受講契約を締結するとは考えられない。」

との判示には目を引かれます。こうした論理のもと会社側に不法行為責任の発生が認められるのであれば、入社した会社の事業内容が犯罪だったといったような場合にも、不法行為該当性が認められておかしくないように思います。

 裁判所の判断は、事業活動が犯罪にあたるような会社から脱出しようとしている人を後押しするもので、画期的なものだと思います。

 




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