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労働基準監督署からの是正勧告を受けて残業代が支払われた場合、どの範囲で時効更新の効果が発生するのか?

1.残業代請求の時効

 労働基準法115条は、

「この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。」

と規定しています。

 労働基準法には「附則」というものが付いており、この「附則」に相当する労働基準法143条3項は、

「第百十五条の規定の適用については、当分の間、同条中『賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間』とあるのは、『退職手当の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)の請求権はこれを行使することができる時から三年間』とする。」

と規定しています。

 こうした修正が施されているため、割増賃金(いわゆる残業代)を含む賃金は3年の消滅時効にかかります。

 消滅時効期間は、権利を「行使することができる時から」起算されます。

 賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならないとされており(労働基準法24条2項)、多くの会社では、月に1度の給料日に賃金が支払われているのではないかと思います。

 このことは、残業代の請求対象期間が3年以上前に係る場合、毎月々々、請求できる残業代が消滅時効によって削られて行くことを意味します。

2.労働基準監督署からの是正勧告に従った残業代の支払い

 残業代の時効の完成が阻止される事由の一つに「債務の承認」があります。

 具体的に言うと、民法152条1項が、

「時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める」

と規定しています。

 債務の一部に対してでも支払いが行われた場合、それは債務の承認行為であるとして、時効更新の効力(時効の進行のリセット)が生じます。

 ここで一つ問題があります。

 労働基準監督署からの是正勧告に従って残業代が支払われた場合、どの範囲で時効更新の効力が生じるのかです。

 残業代請求事件が裁判所に持ち込まれるまでの典型的な経過は、次のとおりです。

① 労働者が労働基準監督署に残業代の不払い(労働基準法違反)を申告する、

② 労働基準監督署が調査を行い、不払いがある場合には是正を指導・勧告する、

③ 使用者の側でも認めざるを得ない部分に限って支払いが行われる、

④ 労働者側で、まだ未払いの部分があるとして、請求を行う、

⑤ 使用者が、もう未払いはないとして、請求を拒絶する、

⑥ 裁判所の判断を仰ぐ必要があるとして、労働者が事件を裁判所に持ち込む。

 本日のテーマは、③の部分で使用者が残業代を支払った場合に、債務承認の効力がどの範囲で生じるのかです。ここ数日ご紹介している、東京地判令3.10.14労働判例1320-70 ナルシマ事件は、この問題を考えるにあたっても、参考になる判断を示しています。

3.ナルシマ事件

 本件で被告になったのは、販売促進用商品の企画、デザイン、製作、販売等を目的とする株式会社です。

 原告になったのは、被告で勤務していたフィリピン国籍の男性労働者らです。

 本件には様々な論点がありますが、その中の一つに、残業代請求の時効の問題があります。本件でも訴訟提起前に労働基準監督署からの是正勧告を受け、被告から一定の残業代が支払われていました。

 これについて、被告は、

「労働基準監督署の担当者による被告への指示は,平成28年1月以降の原告らの時間外労働に対する賃金について再度計算し,不足があれば支払うようにというものであったため,被告では,同月21日以降の原告らの労働時間について計算をし直し,労働基準監督署の担当者の確認を経て,平成29年10月26日,原告らに対し,不足していた時間外労働に対する賃金を支払った。」

「よって,仮に被告が債務承認をしているとしても,それは,平成28年1月21日以降の原告らの時間外労働に対する賃金債権についてであるから,消滅時効が完成していないのは,同日以降の賃金債権である。」

と主張し、原告の請求の一部について、消滅時効を援用しました。

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、債務承認を理由に時効の完成を否定しました。

(裁判所の判断)

「被告は,労働基準監督署から原告らの時間外労働に対する賃金の不払につき是正勧告を受け,平成29年10月26日,原告X1,原告X2及び原告X4につき,時間外労働に対する未払賃金の一部を同人らの各口座に振り込む方法により支払ったことが認められ,これは債務の承認に該当するものである。」

「この点,被告は,労働基準監督署の担当者から是正勧告を受けたのは,原告らの平成28年1月21日以降の時間外労働に対する賃金であるから,被告が債務承認をしたとしても,それは同日以降の割増賃金債務である旨主張する。」

「これに対し,原告らは,労働基準監督署に対して,同日以降に限定して時間外労働に対する賃金を支払うように指導を求めたものではなく,過去の時間外労働に対する未払賃金全額について指導を求めた旨主張するところ,労働基準監督署が被告に対し,同日以降に限定して時間外労働に対する賃金を支払うよう指導したことを裏付ける確たる証拠はない。そして,被告は,平成29年10月26日,原告X3を除く原告らの口座に時間外労働に対する未払賃金の一部を振り込んだ際,同人らに対し,同未払賃金は平成28年1月21日以降の時間外労働に対する賃金への弁済であることについて通知等をしておらず,弁済の充当を指定していない。そうすると,法定弁済充当の規定により,当該弁済は弁済期が先に到来した債務から順次充当されるし(民法489条3号),原告らとしても,被告による弁済は,被告において就労していた全期間の時間外労働に対する未払賃金への弁済であると認識したものと認められる。

そもそも,債務承認が時効の中断事由とされているのは,債務者が債務を認めることによって,当事者間においては債権の存在が明らかになり,そのため,債権者としても時効中断のための権利行使をする必要がないと考えて権利行使を控えるからであると解される。このような債務承認が時効を中断させる趣旨からすれば,本件においては,前記のとおり,被告による平成29年10月26日の弁済により,当該弁済は時間外労働に対する未払賃金のうち弁済期が先に到来した債務から充当され,少なくとも原告X1,原告X2及び原告X4は,被告において就労していた全期間の時間外労働に対する賃金の一部が支払われたと認識して,平成28年1月21日以前の期間についても,時効中断のための権利行使をする必要がないと考えるのが通常であるから,同弁済により,同原告らが被告において就労していた全期間の時間外労働に対する未払賃金全てについて債務承認があったと認めるのが相当である。

「よって,原告X1,原告X2及び原告X4の時間外労働に対する賃金債権についての時効は中断している。」

3.弁済充当の指定がなければ基本的に全期間の残業代が対象になるのではないか

 上述のとおり、裁判所は、弁済充当の指定がないなどとして、時効中断(法改正以前の時効更新の呼び名)の効力は、全期間の時間外労働に対する未払い賃金全てに生じると判示しました。

 是正勧告⇒一部支払い⇒残部について弁護士に相談⇒訴訟提起という流れは、実務における典型パターンであり、こうした事案を処理するにあたり、裁判所の判断は参考になります。

 




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