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退職する労働者に対し、取締役が「自閉症や対人恐怖症ではないかと言う人もいたが・・・」などと揶揄したことが違法とされた例

1.精神疾患、精神障害の名称が素人によって安易に使われる問題

 精神疾患、精神障害に対する社会的な理解が進むにつれ、精神疾患、精神障害の名称は、一昔前に比べれば、随分と抵抗感なく使われるようになったように思います。

 偏見が少なくなっているのは歓迎すべきなのですが、その反面、精神疾患、精神障害の名称がカジュアルになりすぎ、人を罵るための言葉として使われる例が目立つようになっています。

 しかし、当たり前のことながら、医師でもない素人が、勝手に精神疾患、精神障害を持っているというレッテルを貼り、悪口を言うようなことは許されません(医師であっても精神疾患や精神障害を医療行為と無関係に揶揄するのは不適切だと思いますが)。

 以前、

素人による発達障害というレッテル貼りは違法 - 弁護士 師子角允彬のブログ

という記事を書きました。

 近時公刊された判例集に、自閉症、対人恐怖症という言葉を持ち出して退職する労働者を揶揄したことについて、違法性が認められた裁判例が掲載されていました。東京地判令6.1.19労働判例ジャーナル151-58 イーライフ事件です。

2.イーライフ事件

 本件で被告になったのは、各種マーケテイングのコンサルティング及び運営を営む株式会社です。

 原告になったのは、被告でコンサルタントとして働いていた方です。割増賃金(残業代)や付加金、ハラスメントを理由とする慰謝料を請求する訴えを提起したのが本件です。

 本件の争点は多岐に渡りますが、原告が問題にしたハラスメントの一つに、退職時に行われた取締役cの言動がありました。

 これについての原告の主張は、次のとおりです。

(原告の主張)

「原告は、被告で勤務することに限界を感じ、令和2年9月28日、訴外cに対し、同年10月1日から有給休暇を取得し、同月31日に退職する予定である旨を伝えた。」

「これに対し訴外cは、同年9月28日、ビデオ通話で、原告に対し、転職先がどこか追及するとともに、有給休暇は取得させない、退職理由は納得できない、法律は関係ない等と原告を叱責し、原告の退職を認めない態度を示した。さらに訴外cは、原告の引継ぎには協力しないと述べ、どのように引継ぎするかをメール等で連絡するように求めた。」

「これを受けて原告は、同月29日、引継ぎについて検討した結果を訴外cに伝えたが、訴外cはこれを認めないと述べた。」

「さらに訴外cは、同月30日の営業会議の場で、原告の退職について議題に挙げ、原告が有給休暇の申請をしていることや労働管理局に相談していること等を非難し、原告について自閉症や対人恐怖症ではないかと言う人もいたこと、引継ぎについて訴外cは協力しないこと、有給休暇という考え方はあってないようなものなのに、労働者の権利という法律を持ち出すのはおかしい、等と原告を誹謗中傷し、叱責した。」

「以上のとおり、訴外cは、原告の退職の申入れ及び有給休暇の取得申請に対し、退職届の撤回や退職時期の変更を求め、原告がこれに応じないとなると有給休暇の取得をしないよう、執拗に叱責を続けたものであり、これは職場の優越的な地位を利用して正当な権利行使を妨げる点でパワハラにあたり、不法行為を構成する。」

 これに対し、裁判所は、次のとおり述べて、ハラスメント(不法行為)の成立を認めました。

(裁判所の判断)

「令和2年9月28日、原告は訴外cに、最終出勤日を同月30日とし、同年10月31日付けで退職することを申し出た。」

「原告と訴外cは、ビデオ通話を行い、その中で訴外cは、退社理由や転職先を尋ね、被告が原告の転職先を把握しておくことは今後原告が様々な人間関係を維持していく上でも有益である旨述べたが、原告は、退社理由は体調と答え、転職先は答えなかった。次に訴外cは、他の従業員が難病にり患したことを明かして、残る従業員に協力してもらえるスケジュールを組んでもらえると嬉しいと述べたが、原告は、最終出勤日の変更には応じられないと回答した。」

「これを受けた訴外cは、原告に対し、どうやって引継ぎをしようと考えているのかを聞き、訴外cが引継ぎの相手を決めると思っているのかと尋ねたところ、原告は、基本的にはそうだと答えた。これに対し訴外cは、それは違うので訴外cが原告の面倒を見るわけではない、原告が訴外cの要望を全て断るのなら、後任者全員に直接頭を下げて引継ぎを行うべきである、と発言しつつも、もう少し考えたいというのであれば、水曜日にもう一度話をし、いずれに決めたとしても後から訴外cに教えて欲しい旨述べた。原告は、日程自体は変えないがやり方については訴外cの話を聞いた上で少し考える旨述べ、水曜日に話をすることについても『はい。』と発言した。」

「令和2年9月29日の午前、原告は、訴外cに対し、月曜日の話では案件の担当者に頭を下げて自分でお願いするようにとのことであったため、実際に担当者に話をする等して引継ぎを開始した旨のメッセージを送信した。これに対し訴外cは、原告に対し、別紙1の9のメッセージを送信した。」

「令和2年9月30日の午前、営業担当者が参加する営業会議が実施され、訴外c及び原告はウェブ会議により参加した。同会議において、訴外cは、原告が退職予定であることを述べ、原告から同年10月1日から有給休暇を取得する、有給休暇の取得は労働者の権利であると言われたこと、訴外cは従業員が一人欠けることや他の従業員も忙しいからもう少し待って欲しいとお願いをしたが原告からは拒まれたこと、原告と被告のお互いに利益になるため原告の転職先を教えて欲しいとお願いをしたが原告からは拒まれたことを説明した。」

「また、訴外cは、これまで原告について、退職させるべきだ、自閉症や対人恐怖症ではないかと言う人もいたが、訴外cは原告の資料作成能力を評価していたのでこれを否定していたこと、原告が体調が悪くなった時も仕事をセーブしていたこと、被告においては自由な働き方を認めており時間管理もしていなかったことを述べ、こうした配慮にもかかわらず、原告が労働者の権利という法律を持ち出し、訴外cの指示を無視して引継ぎを行ったことについて、恩をあだで返されたとしか思えないとして非難した。

原告の退職に関する訴外cの発言は、約10分から15分に及んだ。

(中略)

・令和2年9月30日の訴外cの発言について

訴外cの同日の発言は、原告と訴外c以外にも、正確な人数は不明であるが複数の従業員がウェブ会議等を通じて参加する営業会議という場でされたものである。そして訴外cは,原告が同日を最終出勤日とすること及び急な引継ぎを要することの説明に加え、同月28日及び同月29日の原告と訴外cとのやり取りや顛末の詳細を述べ、その中では、自閉症や対人恐怖症といった精神に関わる障害の名称を示して、原告には対人関係の構築等に問題があるとの意見があったことを述べつつ、訴外cは原告を評価し原告の労働環境に配慮をしていたにもかかわらず、原告が転職先も答えず、最終出勤日の2日前に退職届を提出し、引継ぎに関する訴外cからの要請に応じなかったことを非難したものであり、その時間は10分から15分に及ぶものである。

このような訴外cの発言は、業務上の必要に基づく原告への叱責や他の従業員への説明という範疇を超えて、原告の名誉感情を著しく害する行為というべきであり、原告に対する不法行為となると認めるのが相当である。

3.辞意を表明した労働者に対する当て擦りは多い

 辞意を表明した労働者に対し、上司や同僚から当て擦りのような言動がなされることは、古くからある問題です。この当て擦りに際して、近年では精神疾患、精神障害を揶揄するような言動を伴う事例が多く見られるようになっています。

 当たり前のことながら、こうした言動は法的にも許容されません。

 本件のような事例が積み重なり、精神疾患、精神障害を揶揄する言動がなくなることを願ってやみません。

 




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