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退職日までの労働日を有給休暇で埋めることが許容されなかった例

1.時季変更権を行使できない場合

 ハラスメント被害を受けている労働者を代理して退職の交渉を行う場面などにおいて、しばしば、

退職の意思表示を行うと共に

退職日までの労働日を有給休暇で埋めてしまう

という手法が使われています。

 こういう手法が可能であるのは、退職日を超えて有給休暇の時季変更権を行使することが許されないと理解されているからです。例えば、東京地判平29.2.21労働判例1170-77代々木自動車事件は、

「時季変更権の行使には、その前提として、他の時季に有給休暇を取得する可能性の存在が前提となるところ、原告は、定年退職時に未消化有給休暇全ての取得を申請しているのであるから、他の時季に有給休暇を取得する可能性が存在せず、被告において時季変更権を行使することは認められない。」

と判示していますし、昭49.1.11基収5554号は、

「当該労働者の解雇予定日をこえての時季変更は行えないものと解する」

としています。

 行政解釈上も司法判断としても、退職日までの労働日を有給休暇で埋めてしまえば、使用者としては手の出しようがないとされてきました。

 しかし、近時公刊された判例集に、例外を認めたかのように読める裁判例が掲載されていました。大阪地判令6.3.27労働判例1310-6 社会医療法人警和会事件です。

2.社会医療法人警和会事件

 本件で被告になったのは、病院を運営する社会医療法人です。被告が運営する病院(本件)は急性期医療を行う病院で、職員数は317名でした。

 原告になったのは、本件病院に勤務していた元職員187名の方です。

 被告が病院事業を他の医療法人に譲渡するにあたり、

雇用希望従業員は平成31年3月31日をもって退職する、

他の医療法人は平成31年4月1日をもって雇用希望従業員を雇用する、

というスキームがとられたものの、有給休暇の承継に関して協議が整わなかったことを受け、退職を控えた原告らは、年次有給休暇を一成に申請しました。

 しかし、被告は時季変更権を行使するなどして年次有給休暇の取得を認めませんでした。これを受けて、年次有給休暇の取得妨害であるとして、原告が被告に対して損害賠償を請求したのが本件です。

 裁判所は、結論として、原告らの請求を棄却しました。

 その中で、傍論ながら、次のような判断を示しています。

(裁判所の判断)

「念のために、上記のC事務局長らの対応が時季変更権の行使に当たるとした場合、これが労基法39条5項ただし書の『事業の正常な運営を妨げる』場合に当たるかについても検討する。」

「本件病院は、280床を擁する急性期医療を行う医療機関であり・・・、関係法令上最低限必要な入院患者に対する看護職員の確保はもとより、入通院患者の診療・検査・リハビリ・薬剤の処方等に必要な職員が一定数必要であることは優に推認できる。それを踏まえ、病棟の看護師については1か月ごとにシフトを作成し、年休を含む勤務表を作成し、放射線技師についても、検査に必要な人員の確保のため、同一日に1名のみ年休取得ができるような運用がされており・・・、職員が公平に年休を取得できるようにされていたものと考えられる。このような状況下において、本件病院の職員317名中232名という約3分の2もの職員が本件一斉申請に及んだものであるところ・・・、本件一斉申請のとおり当該職員が年休を取得した場合、本件病院の運営に重大な支障を生じ、『事業の正常な運営を妨げる』ことは明らかであり、本件組合も平成30年9月下旬にはこのようなことを認識していたものである・・・。」

「そうすると、上記のC事務局長らの対応が時季変更権の行使に当たるとしても、本件一斉申請は労基法39条5項ただし書の『事業の正常な運営を妨げる』場合に当たるから、適法である。」

「なお、原告らは、退職時の未消化年休の一括時季指定については、使用者は時季変更権を行使できない旨を主張する。」

一般的に、労働者が退職前に年休を一括時季指定して退職することは珍しくなく、このような場合に使用者が時季変更することは、他の時季に年休取得の可能性がないから、時季変更の要件を欠くものと解するのが相当である。

しかしながら、原告ら187名を含む本件病院の職員232名が一斉に年休申請をすると、本件病院の業務に重大な支障を生じ、その事業の存続が危殆に瀕することは明らかであり、そのような事情がある場合には、労働者が退職前に年休を一括時季指定しても、使用者は労働者が可及的に年休を取得できるように配慮しながら時季変更権を行使することは許されるものと解するのが相当である。本件では、上記・・・で認定説示したとおり、C事務局長は、課長及び師長に対し、年休取得についてはできる限り調整してほしいと伝えており、年休取得に配慮しながら時季変更権を行使したものということができる。

したがって、原告らの上記主張は採用することができない。

3.時季変更できるのは極めて例外的な場合であろうが・・・

 使用者が急性期病院であるだとか、病院職員317名中232名が一斉に年次有給休暇の取得を申請しただとか、本件は特殊例外的な事案として位置付けられます。

 それでも、裁判所が退職日までの労働日を有給休暇で埋めることを認めない判断をしたことは警戒しておくべきだと思います。本件に関しては事案の性質上、やむを得ないにせよ、こうした例外が安易に拡大されないか、裁判例の動向を注視しておく必要があります。

 




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