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裁判所は素人による逸脱した行為(弁護士の頭越しに行う直接交渉)に甘すぎではないだろうかⅡ

1.弁護士を排除して行う直接交渉

 弁護士職務基本規程(平成16年11月10日会規70号)52条は、

「弁護士は、相手方に法令上の資格を有する代理人が選任されたときは、正当な理由なく、その代理人の承諾を得ないで直接相手方と交渉してはならない。」

と規定してます。

 この規定があるため、弁護士は、事件の相手方に代理人弁護士が選任された場合、代理人弁護士の頭越しに、直接相手方本人と交渉をすることができません。

 噛み砕いていうと、プロである代理人弁護士を差し置いて、法的知識や交渉力の弱い素人を丸め込むことが、ルールとして許されていないということです。

 しかし、この規定は弁護士に向けられたものであって、無資格者を規制するものではありません。そのため、時として、無資格者が、弁護士を経由せず、専門知識によって武装されていない本人を狙い、圧力をかけたり、弁護士との信頼関係の破壊を図ったりして、事件そのものを握り潰そうとすることがあります。

 このことは、以前、

裁判所は素人による逸脱した行為(弁護士の頭越しに行う直接交渉)に甘すぎではないだろうか - 弁護士 師子角允彬のブログ

という記事で指摘したとおりです。

 記事で言及したとおり、無資格者の行動は弁護士サイドからは看過できない問題として認識されています。しかし、この問題についての裁判所の感度は、決して高いとは言えません。近時公刊された判例集にも、裁判所の姿勢が問われるべき裁判例が掲載されていました。ここ数日、ご紹介を続けている、東京高判令6.2.22労働判例ジャーナル148-24 東京税理士会神田支部事件です。

2.東京税理士会神田支部事件

 本件で被告になったのは、

東京税理士会神田支部(一審被告支部)

一審被告支部の総務部長(一審被告B)

の二名です。

 原告になったのは、一審被告支部の事務局職員であった方です。一審被告Bから職務上の優越的地位を背景に、同意のない性的行為(本件性的暴行)をされてPTSDを発症したと主張し、損害賠償を請求したのが本件です。このほか、原告の方は、支部役員等が十分な救済・再発防止措置や復職への配慮を行わず、人格を侵害する言動をしたことなども問題視しました。

 今日の記事で焦点を当てたいのは、復職面談時の使用者側の言動です。

 裁判所は、言動に不法行為該当性を認めたものの、代理人弁護士との信頼関係の破壊があったとは言えないと判示しました。

 裁判所の判断は、次のとおりです。

(裁判所の判断)

「そのやり取りの中で、P1副支部長は、『正直言いますよ、僕とか支部長って、どれだけあなたのことを、カバーしたかって、わかってらっしゃいますよね。』、『あなたと一審被告Bとの関係は、僕らにはわかりません。一審被告Bにも聴取りをしました。あなたにも聴き取りをしました。ところが、どっちがいいんだか悪いんだか正直わからない。我々にはそういうこと決められる立場じゃないし。それはお二人でやっていただければいい。』、『ただ、僕ら、あれだけずっとあなたのことを、申し訳ないけど、やっていたつもりで、支部に対してこういうものが来るというのは、正直言って僕は心外なんです。』などと述べた。P4支部長も、『一審被告Bと一審原告とのことについては、私たちが判断するものではないです。2人の弁護士が入っているけれど、お互いにやってもらう以外にない。ただ、先ほど言った、支部に対するあの文書を読むと、やはり感情的にみなさん…というのがありますので。』などと述べた。」

(中略)

「P9副支部長は、一審原告に対し、『こんなふうに休んでいるじゃない?本当の事情知っている人はここにいる人たちだけだけれども、他の人も別な意味で色んなことを考えちゃったりしていると思うから、復職したときに、嫌な態度をあなたにね、したりとか、知っている人とかで、嫌な風に感じちゃうことがあるかもしれないけど平気?』、『自分で考えてて、休んでて、どう思った?』、『支部を訴えたんだって、とか言われちゃったりしたら、えーそんな人なの?というふうに言ってくる人もいるかもしれないじゃない。言わなくても態度で示してくる人もいるかもしれないじゃない。あのー、いたたまれなくなっちゃうんじゃないかなと。』、『大丈夫?なんか態度で示されちゃっても、前と同じように仕事できる?』、『今後、あれだよ、相談するのはさ、弁護士さんじゃなくてさあ、支部の人にした方がいいよ。』、『本当に支部のことが好きなんだったら、もうちょっと支部に優しくしてくれた方が、と思うんだけどなあ。』、『正直言うけどさ、何かやっぱりまだちょっと信じられないっていうかさ、なんでこんな訴えたりして戻ってこれるのかなって正直思っちゃうよね。』などと述べた。」

「これに続いて、P1副支部長は、『支部を預かっている以上は、支部として訴えを起こされたら、支部として闘わなきゃいけないんだよ。あなただけの問題じゃなくなってきちゃうんだよ。』、『だから、それを取り下げてくれるっていうのであれば、話は置くけれども。でも、もしそのまま続くんだったら、やっぱり敵対関係にあるのと同じだからね。そんなんで雇用関係なんてそんなのできるわけないじゃない、どう考えたって。そこをやっぱり僕は一番最初にただしたかったということ。だからさっきそれを言っていただいたから、僕はもうだから、いいけど。』などと述べた。」

「さらに、P9副支部長は、『こんな話を聞いて、たぶん嫌な思いをしちゃったでしょうから、もう一回お医者さんとかからね、こんな酷いことを言われても大丈夫っていう診断書もらって来てよ』、『本当に、もっと厳しいことを言ってくる人もいるかもしれない。それでも耐えられるんです、私はっていうくらいじゃないと、辛いと思うんだ。』と述べ、一審原告が『もしそれが出なかったらどうなるんですか。』と尋ねると、『だって出るんでしょう。言って、もらえるでしょ。』、『もらえそうなんでしょ。治ってきてるんでしょ。』、『だったら大丈夫じゃない。』、『そんな風に言われたんですけど、大丈夫ですよっていうようなのをもらってきてもらわないと、だって、こっちがさ、せっかく戻ってきてもらったのに、対応がそれでまたさ、調子悪くなっちゃったら、申し訳ないし。また本当に魅力的だから、誘われちゃうことだっていっぱいあるかもしれないし、それでも大丈夫、みたいなさ。』などと述べた。」

「P4支部長が、一審原告に対し、『今日ここで話したことを元に、副支部長と話をして、じゃあいつから、というのは、一審原告本人に伝えるのか、弁護士さんに伝えるのか、今取り下げるというから弁護士は、取下げが終了すると弁護士は支部とは関係なくなっちゃうと思うんだけど。と述べたところ、一審原告は『本当は、私の方に連絡が欲しいです。』と答え、P4支部長は、『そうしてくださいってことであれば、直接連絡します。』と述べた。」

「最後に、P9副支部長が、一審原告に対し、『鍵とか預けているのは一回戻してもらっていいかな。』、『大事な私物とかは見て。ほら鍵だけ渡して、きゃあってなると嫌だから。』などと述べ、一審原告がロッカー内の私物は持って帰れるような量ではないと言うと、『とりあえず見て。持って帰るんじゃなくていいからさ。』と述べた。」

(中略)

「本件面談は、性被害により精神疾患を発症して療養のため休職中の一審原告の復職に向けて、一審原告と一審被告支部との間で双方の代理人弁護士を介した調整が行われていた状況下で、一審被告支部が一審原告に対し、一審原告が復職可能か否かの最終判断をするために当事者間の面談を行う必要があるから、弁護士を同伴せずに一人で来るように指示し、これに従い一審原告側は一人で出席したのに対し、一審被告側は支部長、副支部長等合計8名が出席して実施されたもので、そのような状況設定自体、一審原告にとって強い精神的圧迫を受けざるを得ないものであったといえる。そして、本件面談においては、まず、一審被告支部側が、一審原告に対し健康状態の説明を求めた上、一審被告支部の基本姿勢として、本件診療情報提供書に記載された回復状況から通常通り勤務可能と判断しており、時短勤務とすることは考えていないことを説明し、一審原告がこれを了解する姿勢を示したところ、話題が一審原告からの損害賠償請求に転じ、一審原告が、一審原告としては職場の環境を整えてもらえれば金銭的要求をすることは考えておらず、復職を希望する意思が強いことを繰り返し説明したのに対し、一審被告支部側の複数の出席者が、こもごも、支部役員らにおいては一審原告のために尽力してきたのに弁護士が介入して損害賠償請求をされたことを心外に思っていることや、そのような経緯があった後に復職して一緒に働いてもらうことができるのか疑問に思っていることなど、否定的感情を率直に吐露する展開となり、その中では、こんな酷いことを言われても大丈夫だという診断書をもらって来てほしいといった発言や、一審原告は魅力的だからまた誘われてしまうことがあるかもしれないといった発言など、それ自体がハラスメントに当たるといわざるを得ない言動も含まれている。」

「前記認定のとおり、一審被告支部においては、一審原告から本件性的暴行の申告を受けた後、事実調査や被害拡大・再発防止の措置をとっており、また、本件面談の前後にわたり、一審原告の代理人弁護士を介して復職に向けた調整を継続して行っており、本件面談における一審被告支部側の出席者らの発言をもって、一審原告が主張するような安全配慮義務の放棄、権利行使の妨害、代理人弁護士との信頼関係の破壊、退職示唆等があったとはいえないが、本件面談において、上記のような精神的圧迫を与えかねない状況の下で、一審被告支部側の出席者らが、復職の可否判断に必要な事実確認を行うという本来の目的からは逸脱して、一審原告に対する否定的な感情をこもごも吐露し、それ自体ハラスメントに当たるといわざるを得ない言動をしたことは、一審原告に対する人格権侵害に当たるというべきである。」

「したがって、一審被告支部は、本件面談における支部役員の言動について、不法行為責任を負い、これによって一審原告に生じた損害の慰謝料額は50万円とするのが相当である。」

3.偶々持ち直しただけではないのか

 裁判所が認定した使用者側の言動を見ると、弁護士を排除して、本人に圧をかけ、使用者への損害賠償請求を断念させようとしたようにしか見えません。

 また、実際、一審原告の方は、

「職場の環境を整えてもらえれば金銭的要求をすることは考えておらず、復職を希望する意思が強い」

と言わされたようですし、

弁護士への依頼を取り下げる

と言わされていた節もあります。

 しかも、一連の損害賠償請求権の行使に対する圧は、復職面談の場で行われています。これは復職面談を隠れ蓑にしたと捉えられても仕方のない行為ではないかと思います。

 結果的に訴訟提起まで行き着いてはいますが、それは偶々信頼関係が持ち直しただけであって、当事者に損害(精神的苦痛)が生じなかったというのとは違うようにも思われます。おそらく、一審原告の方は「このまま代理人への依頼を継続していいのか?」と相当に悩み、苦しんだのではないかと思います。しかし、法律家の助力を受ける権利、利益は誰もが享受できることであって、そのようなことで悩まなければならないこと自体、あってはならないことです。

 無資格者による事件潰しは、裁判所からは見えにくいのかも知れません。なぜなら、事件潰しが成功した事案は裁判所には持ち込まれないからです。裁判所に持ち込まれるのは、弁護士との信頼関係に亀裂が生じなかった、あるいは、弁護士との信頼関係に亀裂が生じたけれども持ち直したケースだけです。

 亀裂が生じなかった、あるいは、亀裂が生じたけれども持ち直したケースばかり見ていれば大したことないように思えてしまうのかも知れません。しかし、そうしたケースの影に数多くの潰されている事件があります。

 結論として使用者側の言動は違法とされてはいるのですが、裁判所は「権利行使の妨害、代理人弁護士との信頼関係の破壊・・・があったとはいえない」などと余計なフォローは入れず、代理人を排除して信頼関係の毀損を図り、損害賠償請求を断念させようとしたことは、権利行使の妨害であり、違法だと、はっきりと述べるべきではなかったかと思います。

 




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