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仕事(部活動指導)は自殺した教師の生きがいだったとの主張が排斥された例

1.部活動指導・部活動顧問業務

 昨日お話させて頂いたとおり、公立学校教師の部活動指導・部活動顧問業務については、

法律上は業務(残業)として位置付けられていないにもかかわらず、

実体としては個々の教師に業務として重くのしかかっている、

という捻れが生じています。

 この捻れは様々な労働問題を生じさせています。働きすぎによる過労自殺も、その一つです。

 過労自殺した教師の遺族が損害賠償を請求した時に学校側が行う反論には、幾つかパターンがあります。昨日ご紹介した「学校側が長時間の活動を強いていたものではない」という主張は量的過重性に関する主張ですが、これ以外にも「好きでやっていたのだから過重(負担)に思うはずがない」という質的過重性に関する主張があります。

 この質的過重性との関係でも、水戸地判令6.2.14労働判例ジャーナル146-30 古河市事件は労働者側の参考になる判断を示しています。

2.古河市事件

 本件で被告になったのは、普通地方公共団体である古河市です。

 原告になったのは、被告が設置する市立中学校で教員として勤務していた方(亡C)の遺族(妻)です。

 亡Cは平成29年2月に自動車内で一酸化炭素中毒により自殺を図り、死亡しました。原告の方は、亡Cが自殺したのは、本件中学校の校長の注意義務違反により極度の長時間労働や連続勤務に従事すること等を余儀なくされた結果、うつ病エピソードを発症したからであると主張し、被告に対して損害賠償を求める訴えを提起しました。

 本件では部活動業務の過重性が争点になり、被告は、業務の質的過重性との関係で、

「亡cは、吹奏楽部の指導を生きがいとしていたのであり、部活動指導が長時間に及んだとしても、そのことが精神的、肉体的に過大な負荷を与えたとはいえない。」

と主張しました。

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、被告の主張を排斥しました。結論としても、原告の請求の大部分を認容しています。

(裁判所の判断)

被告は、平成29年2月まで、亡cの健康状態が悪化している様子は見受けられず予見可能性はなかった、亡cにとって吹奏楽部の活動は生きがいであり、この活動によって健康状態が悪化するおそれがあることを認識することができなかった旨主張する。

「しかしながら、既に認定判断のとおり、e校長は亡cの勤務状況を認識し得る立場にあり、かつ、実際にも、亡cの極めて長時間にわたる時間外労働時間及びかかる状態が継続していたことも容易に認識し得る状況にあったのであって、これらの状況から直ちに亡cの健康状態の悪化を具体的に予見することができたというべきであるから、安全配慮義務違反があったとの上記認定説示は左右されない。被告は本件規程には職員の申出をもって面接指導を勧奨するとされているところ、亡cからの申出はなかったことも指摘するが、本件規程の上記定めをもってe校長の安全配慮義務の程度が軽減されるものとは認められないから、やはり上記認定説示は左右されない。」

また、上記認定事実・・・からすると、亡cにとって本件吹奏楽部の活動が生きがいともいうべきものであり、e校長はその旨を亡c自身から聞いて知っていたものといえるが、仮に被用者にとって当該業務について生きがいともいえるような、それこそ時間外勤務を重ねても従事しなければならない重要性の高いものとの認識があったとしても、それが業務である以上、雇用者は被用者の業務が過重なものとならないように注意を払うべきことに何ら変わりはないところ(むしろ、生きがいといえるほど重要性の高い業務との認識であれば、被用者が自己の健康等を無視して当該業務にのめりこんでしまい、心身を害することになりかねないことは、そのことを認識している雇用者にとってはより容易に認識し得るとすらいえる。)、本件においては、極めて長時間にわたる時間外勤務が行われたのであって、その内容、程度も勤務密度が極めて低いとはいえないことに照らせば、その業務内容が被用者にとって生きがいともいうべきものであったとしても、その業務の量的過重性を大幅に減殺させるものとは到底ならないというべきである。また、被告の上記主張を、本件吹奏楽部の活動は亡cにとって生きがいであるからこれを制限することは亡cにかえってストレスを与えかねないとの主張が含まれているものと解したとしても、そもそも、本件吹奏楽部の活動について否定的な指導をすることが逆に亡cのストレス要因になるのか否かという点について、本件全証拠によってもe校長が産業医等の専門家に相談したものとはうかがわれないから、結局、e校長が特段の合理的な根拠なく独自の判断によって否定的な指導をしなかったにすぎないものとみるべきであり、e校長の安全配慮義務の程度を軽減するものとはいえない。したがって、被告の上記主張は採用の限りではない。

3.生きがいであっても、過労を放置しても良いということにはならない

 確かに、仕事に生きがいという面があることは否定できません。しかし、だからといって、使用者が労働者の心身の安全に配慮しないで良いことにはなりません。裁判所が指摘するとおり、生きがいと言えるほどにのめり込んでいるのであれば、むしろ心身を害しないように注視しておくべきともいえます。

 裁判所の判断は、悲惨な事件の責任を安易に労働者(教師)の勤勉さに転嫁しようとする使用者(自治体)の姿勢を戒めたものとして、実務上参考になります。




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