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ストレスチェックを軽視する管理職の言動が、過失相殺を否定する一因となった例

1.ストレスチェック

 労働安全衛生法66条の10第1項は、

「事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(以下この条において『医師等』という。)による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。」

と規定しています。

 この規定は地方公務員にも適用されます(地方公務員法上、適用除外とされていません)。

 国家公務員の場合、国家公務員法附則6条で労働安全衛生法は適用除外になっていますが、人事院規則10-4 22条の4第1項が、

「各省各庁の長は、職員(人事院の定める非常勤職員を除く。)に対し、医師、保健師その他の人事院の定める者(第三項において『医師等』という。)による心理的な負担の程度を把握するための検査を受ける機会を与えなければならない」

と規定することにより、同様の扱いがとられています。

 ストレスチェックによって得られた情報は、労働者の同意に基づいて事業者に提供されます(なお、同意に基づかずに提供されることはありません 労働安全衛生法66条の10第2項等参照)。情報提供を受けた事業者は、その情報を労働者の健康確保に活用して行くことになります。労働者の健康に問題があることを認識しながら、何の措置もとらず、事故が発生した場合、情報提供を受けていたことは、予見可能性を基礎付ける事情として損害賠償を請求する理由として活用することができます。

 また、近時公刊された判例集に、ストレスチェックの結果を軽視していたことが、過失相殺(の類推適用)を否定する理由として活用された裁判例がされていました。広島高判令5.2.17労働判例ジャーナル136-30 静岡県(亡警部補妻子の損害賠償等請求)事件です。

2.静岡県(亡警部補妻子の損害賠償等請求)事件

 本件で原告(被控訴人)になったのは、自殺した警察官P5(静岡県警察・警部補)の遺族(妻子)です。P5の自殺(本件自殺)は過重な業務に従事して発症した鬱病等の精神疾患の影響によって行われたものであると主張して、静岡県に対して安全配慮義務違反を理由とする損害賠償を請求しました。

 原審広島地裁福山支部が原告らの請求を一部認容したことに対し、被告静岡県側から控訴があったのが本件です。

 被告・控訴人静岡県は高裁段階になって、次のような過失相殺の(類推)適用に関する主張を追加しました。

(控訴人の主張)

「仮に控訴人に安全配慮義務違反があるとしても、

〔1〕P5警部補の携わった業務の中には夜間の単独での窃盗事件の捜査など必ずしも同警部補が行わなくてもよかった、自主的・自発的に行われた活動が少なくないこと、

〔2〕同警部補は、自ら病院を受診することも、静岡県警察が設けたメンタルヘルスに関する相談窓口等を利用することもなかったこと、

〔3〕同警部補は、被控訴人P3との間での本件出来事を経て本件自殺に至っているところ、『心の元気力チェッカー』では、職場『外』のストレスである家族・友人・隣人関係や、家族のサポートがともにE(かなり悪い)と評価され・・・、『家族と喧嘩をして、気まずい思いをしている』、『家族に怒りを感じている』、『家族のことを考えると悲しい気持ちになる』との質問に対していずれも『1(よくあてはまる)』と回答していたこと・・・

からすると、本件においては、少なくとも相応の過失相殺の(類推)適用が認められるべきである。」

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、過失相殺の(類推)適用を否定しました。結論としても、控訴を棄却しています。

(裁判所の判断)

「控訴人は、前記・・・の事情によれば、本件において過失相殺の(類推)適用が認められるべきである旨主張する。」

「そこで検討するに、業務(公務を含む。)の負担が過重であることを原因として労働者又は公務員に心身に生じた損害の発生又は拡大に上記労働者等の性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が寄与した場合において、上記性格が同種の業務に従事する労働者等の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでないときは、上記損害につき使用者(公務員の場合における国または地方公共団体を含む。)が賠償すべき額を決定するに当たり、上記性格等を、民法722条2項の類推適用により上記労働者等の心因的要因として斟酌することはできないと解すべきところ(最高裁判所平成10年(オ)第217号、第218号同12年3月24日第二小法廷判決・民集54巻3号1155頁参照)、控訴人の指摘する事情のうち

〔1〕については、前記・・・に判示したとおり、連続窃盗事件の捜査はP5警部補がその業務として従事していたものであり、業務外に自主的・自発的に行われた活動ではないし、強い責任感と職責の自覚をもって業務に打ち込む職員がいることは、警察官の職務に従事する公務員の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものではない。」

「また、控訴人の指摘する事情のうち

〔2〕については、量的及び質的に過剰な業務を抱えていたP5警部補が、病院を受診したり、相談窓口等を利用するなどの機会があったとは認め難いし、前記・・・で引用した原判決の『事実及び理由』中『第3 当裁判所の判断』・・・のとおり、同警部補が、平成23年11月ないし12月に受検したストレス診断(『心の元気力チェッカー』)の総合評価が最低評価の『E(かなり悪い)』である旨をP8課長に伝えた際、同課長は『しょうがない職場だな』と冗談のように答えただけで、病院の受診や相談窓口等の利用を勧めるなどの対応もしていないことに鑑みれば、控訴人においては、メンタルヘルスに対する職員の意識が低く、また、ストレス状況に応じて病院の受診や相談窓口等の利用を促すこと等が周知徹底されていなかったことがうかがわれる。

「さらに、控訴人の指摘する事情のうち

〔3〕については、前記・・・で補正の上引用した原判決の『事実及び理由』中『第3 当裁判所の判断』・・・のとおり、P5警部補は、業務上の心理的負荷により、うつ病エピソード等の精神疾患を発症し、その影響により本件自殺に至ったものと解されるところ、控訴人が指摘するストレス診断の結果をもって上記精神疾患の発症に被控訴人P3が関係したと認めることはできず、かえって、証拠・・・によれば、同警部補は、被控訴人P3に対し、日常的に帰宅時間や業務の進捗状況を伝え、当直時等に中央交番で食べる夕食の準備を頼み、実習生やGSEに関する苦労話などを伝えるなどし、被控訴人P3もプレゼンテーション(GSE)の準備に協力するなどしていたことが認められるのであって、被控訴人P3は、同警部補の業務上の心理的負荷を軽減する役割を一定程度担っていたと評価すべきである。」

以上のとおりであって、過失相殺に係る控訴人の主張は理由がない。

3.メンタルヘルスの意識が低い職場であることは受診欠如を正当化する

 以上のとおり、裁判所は、管理職の言動を理由にメンタルヘルスの意識が低い職場であったとして、過失相殺に関する県側の主張を排斥しました。県側で適切な対応を指示していなかった以上、職員(P5警部補)側で通院などの措置をとらなかったとしても、それは落ち度とはいえないという判断であるように思われます。

 ストレスチェックと「心の元気力チェッカー」との関係は不分明ですが、折角仕組みが設けられても、それを運用する側の意識が低いと意味がありません。

 本件のような判断が積み重ねられて行くことにより、メンタルヘルスに関する意識が高まって行くことが期待されます。

 




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