並び換えの不等式、欲張り者の不等式、再配置不等式と色々呼び名があるが,
1987年(昭和62年)東京大学-数学(理科)[5] - [別館]球面倶楽部零八式markIISR
の本質である
という不等式である.この不等式が欲張り者の不等式と呼ばれる所以は
「日本の硬貨1,5,10,50,100,500円玉について,硬貨Aが5枚,硬貨Bが3枚,硬貨Cが2枚貰えるとする(硬貨A,B,Cはそれぞれ異なる硬貨とする)ならば、硬貨A,B,Cとしてどの硬貨を選ぶか?」という問題は高価なものほど沢山貰えば良いという直観から「Aを500円玉、Bを100円玉、Cを50円玉」とすれば一番お金が貰えることがわかるからである.
この不等式は基本的に の場合の
,
ならば
(∵
)
という不等式を繰り返し有限回用いることによって証明できる.この繰り返し回数が高々 となるのはバブルソートを行なっていることからもわかる.
この不等式を利用して2008年に高校の先生がAM-GM不等式の新しい証明を発見したとして話題となった.
A SIMPLE PROOF OF THE GEOMETRIC-ARITHMETIC MEAN INEQUALITY (pdf)
この証明の概略を述べる.
示すべき不等式は のとき
であり,帰納法で示している.
のときに
の成立を仮定する.
のとき,
(∵ かつ
)
(∵ かつ
)
(∵ かつ
)
であり,仮定から
となるので, のときも成立する.
というものである.この並び換えの不等式を利用した AM-GM 不等式の証明は,実は以前から知られており,
雑誌大学への数学1970年9月号p27の「ある不等式の証明」

という高校2年生の読者からの記事で証明されている.
この記事では,入れ替えを利用して AM-GM 不等式を示すことも行っている.この記事は1ページの短いもので,記事自体が証明の概略を述べるに留まっているが,より一般的な並び換えの不等式を述べて,その適用例として AM-GM 不等式を行っている.雑誌の記事とは異なる記法で証明を述べる(当該記事の証明はもっとエレガントな記法を用いて表現している).
が成立する.
を (
) についての帰納法で示す.
を示せば良い.ここで
とすると,
であり,
であるから
つまり,
が成立する.
の成立を仮定する.
のとき,
,
,…,
(
)に対して
後ろの添字の までに
の仮定を適用し,次に後ろの添字の
までに
の仮定を適用し,最後に後ろの添字の
までに
の仮定を適用すると
,
,…,
(
)
は整序されて
,
,…,
(
)
の順番となることから, のときも成立する.
以上から任意の について成立する.
(この不等式が必ず成立するために という条件がある,という部分について,もし正という条件がなければ,
,
だが
という反例が見つかる)
この並び換えの不等式の一般化において とし,
(
)を満足する数列に対し,
,
,…,
(for all
)
とし,その並び換えとして
,
,…,
(
)
を考える(添字が を超えたら
を引く)と
,
となるので,
が成立し,AM-GM 不等式の証明が完了する.
この AM-GM 不等式の証明は高校3年生のときに教えてもらって知っていたので,2008年の新しい証明が話題になったとき,誰でも知っているんじゃなかったの?と思ってしまった.
なお,この入れ換えのアルゴリズムにおいてバブルソートを思い出して欲しい.帰納法のポイントは,入れ換えによって最後に を持ってくることにある.
高校2年生の記事は, の入れ換えを行なうとその先頭に
が来ることはないので,その次に
の入れ換えを行うと最後に
が来ることを利用している(これはバブルソートに限らずソート一般に成立する原理である).
2008年の証明はバブルソートのアルゴリズムをそのままに,
,…,
と見ることによって 最後に
を持って来ることを利用している.
このような観点において,2つの証明は実質的に同じであると言えるのである.