今回は進撃の巨人”フリッツ王”の由来と考えられる人物の ”フリッツ・ハーバー” の紹介です。同氏はアンモニア工業化と毒ガス開発という、人類の発展に不可欠な物質と、ニトロ爆薬と、人類を苦悶死させる物質の開発をしています。
中学生の間でも「進撃の巨人」は人気があるらしく、長女が進撃の巨人にはまっていて、常に ツイッターをチェックしていて、コミックスやグッズを集めたりと大変な熱の入れようです。進撃の巨人の話の際に、意外な名前が登場するので、原作者さんは、多数の参考文献を読まれているのだなと感じることがあります。
有名どころでは、ソニー・ビーンズやユミルがいて、コミックスの地図をひっくり返すと、アフリカ大陸になったりするなど、遊び心がちりばめられています。


登場人物の一人、ハンジ・ゾエで使われる ”ゾエ” は、東ローマに限定されるの名前です。歴史に登場するゾエは、ローマ帝国最初の女帝(美人と伝わる)が最初ですが、以後、東ローマ皇妃名に使われるようになり、ロシアにゾイという名前で伝わります。
ゾエはファーストネームなので、英語圏向けには"Zoe Hange"になってますが、海外のネットでは、原作のオリジナルを尊重しているのか、Hange Zoeと記されることが多いです。海外の人は、ファーストネームとファミリーネームの順は、あまり気にしないのかな。
三重の壁はコンスタンチノープルのテオドシウスの壁の例があり、巨大な城壁の建設は時間がかかるので、1000年来の歴史的都市に限られます。それ以外では、中国の万里の長城の例がありますが、長距離故に一段の壁であり、そこまで遠大な壁を作る時間を確保することができません。
ウォールマリア半径480km、ウォールシーナ半径250kmとなっていますが、テオドシウスの壁よりも遠大で、東ローマの最終版図の規模に相当します。

フリッツ王とアンモニア生成
冒頭に述べたとおり、カール・フリッツ王の名前の由来の人物について。カール・フリッツはドイツ人の名前なので、日本人にはなじみがありませんが、元ネタは、アンモニア生成技術「ハーバー・ボッシュ法」の開発者のファーストネーム ”フリッツ”と”カール” と、そのままです。
ハーバー・ボッシュは、”フリッツ・ハーバー”(1868-1934)と”カール・ボッシュ”(1874 - 1940)の2名のファミリーネームから取られたもので、特にフリッツ・ハーバーの人生が、ストーリーと共通する人間像があります。
アンモニアはニトログリセリンやトリニトロトルエンの材料になるもので、ハーバー・ボッシュ法によって、硝石を消費することなく、空気からアンモニアを生成できるため、ドイツは無限の火力兵器を手に入れ、肥料を無制限に作ることができるようになります。

右端は硝酸アンモニウムの結晶
フリッツ・ハーバーはユダヤ人家庭に生を受けますが、死ぬまでナチスから迫害されて、不遇続きであり、研究者間では、ナチスに協力した毒ガス研究者として、目の敵にされます。フリッツは毒ガスを開発することで、戦争の早期終結につながると考えていましたが、この考え方に賛同できる人は、戦争当時でも少数でした。
右端は硝酸アンモニウムの結晶
フリッツ・ハーバーの呪われた人生
フリッツ・ハーバー【wikipedia画像】 フリッツは生粋の科学者のため、他人の感情に無頓着なので、生涯に二度結婚するも、いずれもすれ違いでうまくいきませんでした。
最初の妻となる、研究者のクララ・イマーヴァル(1870-1915)にプロポーズして結婚し、当初は順調な結婚生活でしたが、フリッツは妻への束縛が強いうえ、夫の毒ガス研究によって、実験動物が苦悶のうちに死んでいく様子を目の当たりにして、クララは精神的に耐えられなくなってしまいます。
クララ・イマーヴァル【wikipedia画像】 研究をしたい彼女に対して、フリッツは専業主婦として家庭に入ることを要求し、また、毒ガス製造反対の意見にも耳を貸さないなど、妻に高圧的に接していたため、悩んだ末にクララは自殺してしまいます。
結婚当初は「童話の王子と王女のようだ」とクララは両親に喜びの手紙を出していますが、当時の女性の社会進出に対する壁をクララ一人で受け、夫とも関係が悪化していきました。

星一(はじめ)とキヨミ・アズマビト
フリッツは星薬科大学創設者の星一(1873-1951)とも交流があり、第一次大戦後に苦しくなった時に、経済的支援に加え、お金に困ったフリッツと一緒に、海水から金を生成する共同研究を行ってました。
ヒィズル国の登場は唐突なうえに、なぜに日本人?という印象を受けますが、フリッツは日本人と関係が深く、資源のない日本には、フリッツ・ハーバー法はのどから手が出るほど欲しい技術だったため、多くの日本人研究者と交流がありました。
フリッツの父親はジークフリートという染料商売人で、フリッツとは仲が悪く、最後まで負担をかけ、父ジークフリートが再婚した継母とも、フリッツは関係が悪かったようです。フリッツの再婚相手のシャルロッテとは険悪な仲で離婚し、経済的要求を厳しく突き立てられました。
家族に恵まれず、周囲から毒ガス研究のマッドサイエンティストと評価されながら、ナチスからも排斥され、孤独な一生を終えました。
カール・ボッシュ ユダヤ人を外したら戦争に負ける
ハーバー・ボッシュ法の開発者の一人、カール・ボッシュは、研究者にしてドイツ製薬会社BASF、IGファルベンの社長になる人物です。ちなみに、自動車部品のロバート・ボッシュは叔父さんです。
BASFは大手企業として、ドイツ経済を技術的・経済的に支えていました。
カール・ボッシュはドイツ政府の顧問官に就いており、ヒトラーとの会談の際、戦争継続の財政的困難と、人材確保のためにも、ユダヤ人迫害の中止を提言したことに対し、ヒトラーは激怒して「顧問官はお帰りだ!」と漫画のような台詞を浴びせ、ユダヤ人と技術抜きで戦争に勝ってみせる!と豪語します。
カールボッシュは生粋の技術者で、常に治具を自分で作っているくらい、ものづくり大好き人間で、フリッツとは気が合ったらしいです。研究成果のアンモニア工業化に必要な巨大設備のために、惜しげも無く投資をして、空気からパンを作るという言葉を現実にします。
ユミルとクララとフリッツ・複雑な感情
進撃の巨人のカール・フリッツ王は、ユミルに厳しく当たり、奴隷扱いしますが、フリッツの妻クララに対する態度にも高圧的な面があり、話を聞かない無頓着な夫として接します。それでいて、フリッツは死の直前に、クララと一緒の墓に入りたいと、未練に満ちた遺言を残しており、相当の不器用な人物であったことがうかがえます。
ユミルがフリッツ王を愛しているというシーンが出てきますが、クララもフリッツと楽しい新婚生活を送っていた時期があり、徐々に、束縛する、共同生活者のようになってしまいました。死後、バーゼルの墓地で、遺言のとおり、フリッツはクララと一緒に葬られました。

クララが自殺する直前、精神的に乱れていく過程で「私はフリッツが得た名声以上の損失をした」と嘆きますが、進撃の巨人のフリッツ王のサイコパスっぷりは、このような、実話を参考の一つにしていると思われます。






































