モンゴルから帰国してウキウキで書店に行ってみると、並んでいる本に全然惹かれない自分に驚いた。それまでわりと興味があったはずのものが、どうでもよく感じられる。どれも焦点が近すぎるというか、自分の話しかしてないやんと思えてきた。自分はこう思いました、そうですか、っていう。もっと遠くの景色を見たい。
それで(それで?)久しぶりに小説でも読みたいなと思って、近しいところで話題だった芥川賞受賞作『バリ山行』を読んだ。「バリ」とはバリエーションルートのバリで、整備された登山道ではない順路で山を登ることである。そういう山行を好むおじさんがでてきて、なんかいい人なのだ。会社では浮いていて、週末には山で登山道から外れたところをウロウロしている。そういえば中小企業の社内のいざこざみたいな描写もやけにリアルで、新卒で入った会社を何度も思い出した。
人間の目は2メートル以上離れたものはぜんぶ無限遠としてピントが合うと聞く。だからスマホやPCを見つめるとき私たちの目は緊張状態にあるが、山とか海とか、そういう環境に入ると遠くのものばっかり見るようになってリラックスできるのである。なんとなく、山を扱う小説を読んでいるあいだも同じような気持ちになる気がする。
つまり山とか海とか草原のことを考えると視野が広く、大きな気持ちで過ごせるのだ、やっぱり山はいいな〜みたいなことを考えながらこの本を読んでいたのだけど、まさに読んでいるその最中に、登山を趣味にしている大学の先輩が難しいルートに挑戦して、その途中事故で死んでしまったという知らせが入ってきた。山や海や草原と死の距離は近い。悲しい気持ちでいる。