宮城谷さんの初期の短編小説集です。
中国のかなり古い時代の人物を扱っています。
「沈黙の王」は商(殷)王朝の中興の王、高宗武丁の生涯を描きますが、高宗の妻が婦好であり、その遺物が最近になって発掘されたのは事実です。
さらに高宗は耳は聞こえるものの言葉が発せられないという設定にしてあり、だからこそ漢字の元となる文字を作り出したとしています。
「地中の火」は商王朝よりさらに古い夏王朝の時代に夏王を倒したと言われる后羿とその配下で后羿を倒して一時王権を奪った寒促の伝説を描きます。
「妖異記」は周王朝をいったんはつぶしてしまった幽王とその愛妾褒似について、王朝の史官であった伯陽という人物に語らせるように記しています。
次の「豊饒の門」は同じ時代をもう一方の重要人物、王朝の高官であった鄭国の君主友(鄭の桓公)の息子の掘突(鄭の武公)を主人公としその観点から描きます。
最後の「鳳凰の冠」は少し時代が下りますが、春秋時代の晋の国で賢人として知られた叔向(羊舌肸)の話です。
叔向は中原の国の中でも優れた賢人として同時代の鄭の子産とも交流があったと言われていますが、その妻は夏姫の娘でした。
夏姫とその夫巫臣については宮城谷さんは「夏姫春秋」で書いていますが、その後日談となるのかもしれません。
中国古代の人々の考え方、物の感じ方などはとても想像もできないものですが、それを活き活きと描写してしまう宮城谷さんの筆力を感じさせるものとなっています。