戦争や事故、事件など厳しい経験をするとそれから時間がたっても心理的なショック状態が続くようなトラウマ、そしてPTSDという症状に陥ると言われています。
しかし、そのような激烈な経験をした人が多数出ると思われた場合でも意外に患者が少ないということがありました。
本書著者のボナーノ教授はアメリカコロンビア大学の臨床心理学教授ですが、実際にPTSD患者の治療にもあたっており、トラウマそしてそこからの回復であるレジリエンスの研究の権威と言われています。
大きな衝撃を受けたはずの人たちがなぜ回復できるのか、そしてそれが人により差があるのはなぜか。
そういったことを研究し、悲惨な経験をしても回復できる能力がある人がいること、そしてその心理的な特性、回復の仕方には特徴があり、それを応用すれば一般の人のトラウマからの回復を助けることができるということを見出してきました。
この本ではそういった研究の道筋を、当時実際に診察してきた人たちの実例、さらに彼らの心理状態の分析などとともに生き生きと描写しています。
トラウマというものは20世紀以前には注目されていませんでした。
それが二つの世界大戦で大量の戦死者とともにトラウマを持つ人々が生み出され、それがさらにベトナム戦争で戦地での悲惨な体験が帰国後も大きく心理を歪めてしまうPTSDと言われる状況だということが広まっていきました。
そして1990年代に臨床心理学者として活動を始めた著者がまもなくぶつかったのが9.11同時多発テロでした。
多くの死者が出ましたがそれ以上に悲惨な体験をした人々が多数発生し、多くのPTSD患者が出るものと予測されました。
しかし、実際にはそうはならない人が多かったのです。
そしてそういった人々、レジリエントと呼ばれる人々を担当した著者はそこにある特徴を見つけました。
それがフレキシビリティー・マインドセットであり、それを用いて心を立て直すフレキシビリティー・シークエンスでした。
テロの場合は直接の身体的被害は無かったものの心理的に過酷な状況に陥った人も多かったのですが、著者の担当した人々の中には事故などで大きな身体の被害を受けた人々もいました。
そんな中にもレジリエンスを成し遂げた人が多く、脊椎損傷で半身不随となった人、事故で片足を失った人などでも回復し元気に生活を送る人がいましたが、そこには心理を切り替える方法を自然に身に着けていた場合があったようです。
もちろんそのような心理状態になれない人も多いのですが、そういった被害者たちにレジリエントたちの心理を参考にした治療ができないかと試行されているということです。
大きな被害を受けた人のトラウマは忘れるということではなく、切り替えるということで乗り越えられるということなのでしょうか。
こういった研究がよりよい成果を挙げ、救われる人々が増えることを期待します。