有機化合物には化学構造式は同一でも鏡で映したような異性体を作るものがあります。
光学異性体と言っていたと思いますが、現在ではこの呼び方は曖昧であるとして鏡像異性体とされるようです。
実は地球上の生物はすべてL体のアミノ酸で構成されているL型の生物です。
そしてアミノ酸にはD体の鏡像異性体もあるのですが、そのD型の生物というものはありません。
L型の生物のタンパク質を合成するにはDNAの二重らせんが右巻きでありそのヌクレオチドはD体です。
そのDNAが合成できるのはL体のアミノ酸を用いたものだけになっています。
しかし、もしも左巻きのDNAを遺伝子とする生物が進化したとしたら、それはD体のアミノ酸を用いて合成されたタンパク質によるD型の生物となっていたでしょう。
そしてその進化はL型生物とほとんど変わりのないようなものになっていたはずです。
なぜなら、この両者は鏡に映した物体のように性質はほぼ同一になるからです。
そのような鏡像生命というものは、合成することが可能なはずです。
遺伝子の構成はまったく同様で、その原料として現存生命のようなD体ヌクレオチドではなくL体ヌクレオチドを使えばよいのですから。
この本ではそういった鏡像生命を作り出そうという研究の紹介をしています。
それと共に、もしも鏡像生命があったとしたらという設定で、SF作家たちに小説を書いてもらい、それを掲載するという試みを実施しています。
その作家は瀬名秀明、茜灯里など5人の気鋭の人々で、監修者の藤原慶、大澤博隆、長谷川愛という研究者たちと入念な打ち合わせの上で各々の想像力を膨らませた小説を書きあげています。
ただし、ぼんやり読んでいるとどこまでが実際でどこからがSFかということが分からなくなるということになりそうです。
なかなか面白い企画で作られた本と言えるでしょう。